愛の負債
アーエル
第1話
「アンネローラ。君との婚約を破棄する」
突然始まった婚約破棄。
ここはまだ教室で、ここにはまだ教師も学生もいる。
学業成績評価表をいただいたから、明日からの楽しい長期休暇が始まる…………というのに。
「理由をお伺いしても宜しくて?」
「きぃっっっさま、のぉぉぉぉっ! その澄ました顔が気に食わねえ!」
とりあえず冷静に話を聞こうとしたらなぜかキレられました。
…………解せぬ。
「それで?」
「その頭の悪さも嫌いだっっ!」
「あら、オールSの成績で学年トップであるわたくしより頭の良いお方がいらっしゃったかしら? 万年逆トップスリーにはいられるカルドラ卿子息?」
私の言葉の意味が理解できない様子のソフィー。
男性だけどソフィー。
愛称ではなく本名がソフィー。
母親が「可愛い娘がほしかったのぉぉぉ!」と泣きじゃくり、妻に甘い父親がつけたカルドラ卿第四子息のソフィー。
夫の家系の血を強く受け継いだ、筋肉ムッキムキのソフィーちゃん。
脳筋でぜんぜん可愛らしさのかけらも持っていないソフィーちゃんは、周囲がクスクス笑っているため揶揄われたと理解はできたご様子。
しかし理由までは分かっていないようですね。
「それから?」
「……は?」
「で・す・か・ら、私との婚約破棄を宣言した理由ですよ。あなたと違って賢いわたくしに嫉妬したからは分かりました。それ以外にございませんの? 婚約を破棄したいリ・ユ・ウ」
顔を赤くしたけど、事実なのだから仕方がない。
これは時間がかかるかなあ。
そう思ったところで、救いの女神降臨。
あっ、訂正。
『救いようのない女生徒』でした。
「ソフィー様ああ。まだですのお? マリーナ、待ってるの疲れちゃったあ〜」
あー、頭イテェ。
これが万年ダントツ最下位のマリーナ。
フレッペン伯爵家の当主の妹だった女の娘。
戸籍どころか存在自体が抹消された、名前も取り上げられた無名の女。
それがマリーナの母。
女は婚約者がいる身で、同級生の父である士爵と不貞を働いて妊娠。
もちろん士爵家は瓦解。
士爵は色香に惑い、妻子を捨てて純愛を貫いた。
……と言ってるが、実際には伯爵家の支援を期待してのこと。
それが女の婚約者に慰謝料、
それらを一括で支払う羽目になり、士爵は親族からはお金を渡されたついでに絶縁状も渡される始末。
すり寄る予定だったフレッペン伯爵家から、女は排斥されて貴族籍は抹消されたことを告げられて門前払い。
通常なら廃籍されて「以降は無関係」となる程度で、『最初から生まれなかった』ことにされたのは彼女が初めて。
ここまでされるのも珍しく、当時は大騒ぎになったらしい。
その母親の血を強く受け継いだのがこのマリーナだった。
でもちょうどいいわ。
みてわかる姿なのにバレていないつもりのお二人さんに、証言者多数のこの中で不貞を認めさせましょうか。
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