第拾章 龍鬼の異変
優人達が仲間入りを果たした翌日。邪神を倒すためにはどうすれば良いのかの作戦会議が行われていた。
「邪神がいる場所は斗真が地図に書き記してくれた。この迷いの森の奥地にいるのは間違いないだろう」
「だとするとそこに近づくにつれて奴も何かしらしでかしてくるかもしれねえな」
「今までだって荒魂達を使って神子の旅を妨害してきたんだ。近くにきたと知れば蓄えた力を使って何かしらしてくる可能性はあるな」
地図を広げて見ながら隼人が言うと真剣な顔の伸介がそう呟く。それに紅葉が大きく頷き肯定すると皆の顔は更に深刻になる。
「悩んでも仕方のないことかもしれないけどさ、真っ向から向かっていって一気に討ち取っちゃえばいいんじゃないの」
「貴方と言う人は……そのような事を言うが、簡単に倒せる相手ならば聖女伝説を生みだした瑠璃王国の姫様達が討ち滅ぼしているはず。それができないから破魔矢に封印したのだろう」
喜一の発言に隼人が何を言ってるんだといった感じで溜息を吐き出し説明する。
「その通り、あの時は邪神の力の方が強大で、姫さんやレナの力だけじゃどうしようもできなかったの」
「だけど。今回は「信託の神子」に「白銀の聖女」「光の女神」に「腕輪を継承せし者」が一緒なんですもの皆の力があれば絶対に邪神を倒せるわよ」
ケイトがそうだといった感じで話すとケイコがだけど今度は大丈夫だって顔で笑う。
「邪神を倒すためには皆の力を1つにまとめる事。これさえできていればきっとぼく達は勝てる。そう思いますよ」
「下手な作戦を考えるより、俺達の力を最大限に相手にぶつける。そのほうのが上手くいく可能性もあるにはある」
「邪神が何か仕掛けてきた場合どうするつもりなのだ。神子様を危険な目に会わせてしまう可能性が捨てきれないとは言えない」
真人の言葉に栄人も同意して頷く。それに待ったをかけるように亜人が声をあげた。
「何のために白銀の聖女と俺と蒼がいると思ってるんだよ。俺達3人の力で結界を張れば邪神1人の攻撃なんか弾き返せるさ」
「私の力って紅葉が言うようにそんなに強いものなのかな? 今までだってあんまり役に立てていないのに、皆を守れるくらいの強い結界なんて……」
「信乃、自分の力を信じろ。お前が思っているよりもずっとお前の力は強大だ。後はそうだな神子様達のことを信じる事、そして仲間を助けたいと本心から願う事それができればきっと……」
「まるで信乃が私達の事を信頼してない言い方ね」
紅葉の言葉に信乃が不安そうに瞳を曇らせて語る。それを聞いた蒼が微笑み言い聞かせるかのように話すと、レインがその言い回しだと自分達は信頼されてないみたいに聞こえると話す。
「ご、ごめんなさい。信じてないわけじゃないです。皆さんは私のこの姿を見ても何も言わなかった。体力のない私を気にかけて休憩をはさみながらずっと旅を続けてくれている。それがとても嬉しかった。だから私も、皆さんの力になれたらってずっと思っていました。それだけは本当です、だからその……信じてないわけじゃないんです。ただ……嫌われたくなくて。怖いんです。皆さんに冷たくされるのが……私紅葉以外に信じられる人なんか今までいなかったから。だから受け入れられていないのはもしかしたら自分自身なのかもしれません。普通の人と違う姿をして変な力を持っている私の事をいつか化物だって言って嫌うんじゃないのかって怖くてそれで……」
「何言ってるんだい! そんなこと言ったら赤い髪をして雷や炎を操る私だってあんたが言う化物みたいなもんじゃないか」
「私も神子の力を授かると共に人ではない力を手にしました。ですがそれで伸介さん達が私のことを嫌う事なんてなかった。だから信乃さんのことを嫌いになる人なんてここにはいないですよ」
途端におどおどした態度で弁解するように彼女が説明するも目に涙を一杯溜めて怯えた様子で俯く。その姿にレインが大きな声をあげて説教するように言うと力強い瞳でそんなことはないと答えて笑う。
神子も自分も似たようなものだと言って笑うと他の者達もその通りだといいたげに優しい瞳で微笑み信乃を見詰めた。
「ここで一緒に旅をしている仲間の中にもしお前のことを異端な目で見る奴がいたならば俺が殴ってやるよ」
「私達のことを信じて欲しい。私達は信乃を蔑み笑いいじめるようなことは絶対にないと」
「僕達は共に旅をする仲間ではないですか。それなのに信乃さんの事を化物だって思っている人なんかいませんよ」
伸介が言うと隼人と文彦も穏やかな口調でそう答える。
「もし信乃のことを化物なんて言う人がいたらぼくがそいつをぼこぼこにしてやる。信乃はとっても優しくて誰よりも人の心がわかる人だ。そんな優しい子を化物なんて呼ぶ奴はぼくが成敗してやるよ」
「信乃に威圧していたつもりはないが、かつてのオレは人を警戒し疑い威圧していた。だからもし信乃にもそのような態度に写って見えていたのだとしたらこの場で謝る。だがな、けっして信乃のことを嫌っていて睨んだことは一度だってない。それは信じて欲しい」
「俺達は旅をする仲間なんだぜ。もっと信じてくれてもいいんじゃないのか。それにさ、そういうことはもっと早く言ってくれよな。水臭いじゃないか。今までずっと不安にかられる心を隠していたなんて相談して欲しかったぜ」
弥三郎が微笑み語ると亜人も困ったような顔で話す。喜一がにこりと笑い優しい口調で言った。
「ぼく達も出会ったばかりだけど、ぼく達兄弟が君のことを嫌いになんかなるはずがない。ぼく達は信乃さんの味方だよ。だからもっと頼って欲しい」
「信乃を泣かせる奴は俺が成敗してやる。だからそんな顔もうするな」
「皆あなたの味方だってこと覚えておいてください。ここにいる人達は皆信乃さんの事を大切に思ってくれていて、そして守りたいと思っているという事を」
真人が言うと栄人もにこりと笑い話す。優人が穏やかな口調で語ると微笑む。
「ボクも信乃の事大好きだよ~」
「ワタシも信乃の事大大大大好きだからね~。だから信乃。そんな顔しないで」
「皆……有難う、御座います」
ケイトとケイコが信乃に抱きつくと皆の優しさが嬉しくて温かな気持ちに心が満たされて自然と嬉し泣きをしながらお礼を呟く。
作戦会議が思わぬ展開へと発展してしまった為これで中断して皆思い思いに集落の中で休憩することとなる。
「この集落の中なら邪悪な存在は入ってこれませんので、神子様が1人で出歩かれても問題ないと思いますよ」
「そうだな。いつもいつも俺達と一緒だと疲れちゃうだろ。たまには1人でのんびりしてこい」
「有難う御座います。ではさっそくちょっとこの近くを散歩してきますね」
優人の言葉に伸介も同意して頷く。神子は嬉しくて笑顔になると小躍りする勢いで宿として借りている家から出た。
「神子様あんなに嬉しそうに……やはりこうしてみるとどこにでもいる普通の女の子なんですね」
「いつも男ばかりに囲まれていちゃ窮屈だろうよ」
文彦が出かけていった彼女の姿を微笑まし気に見送りながら言うと喜一がそりゃそうだって感じて話す。
「男ばかりって……私と信乃がいるじゃないの」
「レイは男の中に混ざってても違和感感じないけどね。信乃はどことなく神子様に似ててちょっと心配ではあるかな」
それにレインが唇を尖らせ抗議すると弥三郎が不思議そうな顔で言った後信乃を見やり語る。
「で、でも私も紅葉や修行僧の方達と過ごす事が多かったので、男の人の中にいるのには慣れてますから、神子様みたいに女の子らしくはないかもしれません」
「いや、そういう事ではないと思うのだが……まあいい。オレ達もたまには自由行動と行こう」
その視線を受けて彼女が慌てて回答すると亜人がそれは違うと言いたげに呟いたが、首を振り切り替えるとそう話して皆思い思いに過ごすこととなった。
「この集落は邪悪な存在がいないせいなのか空気が澄んでいてとても綺麗……」
「神子様」
集落の中を散歩しながら近くに咲く野の花を見詰めていると優しく声をかけられそちらへと振り返る。
「あ、龍鬼さん」
「神子様もこの辺りに着ていらしたんですね。またお会いできて嬉しいです」
そこには穏やかな微笑みを湛えた龍鬼が立っていて彼の姿に彼女はまた会えて嬉しいといった感じで笑う。
龍鬼も同じ気持ちなのかそう言うと嬉しそうに微笑んだ。
「私もまた龍鬼さんに会いたいって思ってましたので、こうしてお会いできて嬉しいです」
「神子様もそう思っていてくださっていて嬉しいです。旅は順調ですか?」
神子の言葉に嬉しそうな顔で言うと続けて尋ねる。
「はい。今のところ怖いくらい順調で、だからこそこれから先に不安を抱いてます」
「……神子様の旅は世界を救うためのもの。だからこそみんなが神子様の事を慕い、崇めるんです。ですが、神子様と話していて神子様もやはりどこにでもいる普通の女の子なんだなって思いました。ですから邪神を倒すために旅をしていて恐れを抱かないはずもないですし、不安にならないはずもない。でも大丈夫ですよ。神子様ならきっと……」
「えっ……」
不安がる彼女へと龍鬼が柔らかく微笑み諭すように話す。そしてじっと見つめられ神子はたじろぎながら彼を見やった。
「っぅ!?」
「龍鬼さん? どこか苦しいのですか」
すると突然心臓を掴み苦しむ彼の様子に彼女は驚き心配して尋ねる。
「……くっ……な、何でもないです。時々こうして何かわからぬ思いに体が支配されそうになる時があるんです。もう、大丈夫です」
「頭が痛いのですか?」
苦しむ胸を押さえ荒い息を整えながら頭を抱える龍鬼の様子に神子は更に心配して聞いた。
「心配には及びません。もう落ち着きましたので。もしかしたらこれが自分の記憶喪失と何か関係があるのかもとも思いますが、それが違っていることを願いたいのです」
「違っていることを願いたいってどうしてまたそんなふうに思うのですか」
落ち着きを取り戻した彼が悲しそうな顔で話す言葉に彼女は意味が分からず首をかしげる。
「……神子様。おれは神子様が好きです。だからこそ、この思いを消したくはない。記憶が戻ったらもしかしたらおれは今のおれとは全く違う性格の人になっているかもしれない。そう思うと恐ろしいんです」
「龍鬼さん……龍鬼さんは私の事を気にかけて下さるとても優しい人です。ですからどうか記憶が戻って私の事を忘れてしまったとしても、私は悲しんだりなんかしません。龍鬼さんの記憶が戻ることが一番いい事だと思うので」
神子へと視線を戻した龍鬼が寂しそうな何とも言えない瞳で彼女を見ると困ったように微笑む。そんな彼へと神子は思った事を口に出し伝えた。
「神子様……おれはそろそろ行きます。ここはおれがいてはいけない場所のようですから」
「また、会えますか?」
「運命が巡り会わせて下さればまた……お会いできるでしょう」
龍鬼がそう言って立ち去ろうとするので神子は慌てて声をかける。それに振り返り優しくも悲し気な微笑みを浮かべて答えると一礼して集落の外へと向けて歩き去っていった。
「神子様。悪しき気配を感じたが、なんともないか」
「栄人さん。悪しき気配って……この集落には悪い存在は入ってこれないのでは」
慌てて駆け寄ってきた栄人の言葉に神子は不思議に思い尋ねる。
「その通りだが、この近くで邪悪な気配を感じたんだ。もしかしたら集落の近くに邪神が放った荒魂とかが出現しているのかもしれない。神子様。念のためこの辺りを見て回って来るから、貴女は皆のいるところに戻るように」
「はい」
彼がそう言うと武器を手に集落の外へと向かっていった。彼女は返事をすると皆のいる家へと戻る。
「荒魂達の姿は確認できなかったが、もしかしたら邪神がこの周辺を調べるために触手を伸ばしていたのかもしれない。神子様。旅立つなら早めにこの集落を出た方がいいだろう。じきに邪神の放った邪悪な存在がこの近くへとやってくるかもしれないからな」
「神子様がこの近くにいると知れば邪神は荒魂や悪鬼や魔物を使い襲い掛かってくるかもしれませんからね。皆さん僕達についてきてください。邪悪な存在がとおることのできない神道を通って次の町へと向かいますので」
栄人の言葉に皆の間に緊張が走る。その様子を見た優人がそう提案すると兄弟の後について家を出ていった。
こうして神々の通る道を使い集落の外へと出た神子達は次の町へと向かう。町に到着する頃には夜の帳が降り始めておりその日は宿に泊まることとなった。
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