第漆章 星読みの男と引かれ合う魂

 神子達は旅の真相を知り驚きと動揺を覚えるも、邪神の脅威から本当の意味でこの世界を救うためにこの旅を終わらせようという事となり再出発をすることとなる。


そして一行はついに星読みの男がいるという江渡の都へとやってきた。


「喜一さん。どうやってお城に勤めている方とお会いするのですか?」


「そんなの簡単さ。城の中に忍び込めばいい」


神子の言葉に喜一が笑って答える。


「忍び込むって……泥棒じゃあるまいし。警備が厳しい城の中にどうやって入り込むんだよ」


「殿様に頼んでその人に会わせてもらえばいいのでは」


「ダメダメ。簡単に言うけど殿様に会うなんてそんなの無理に決まってる」


伸介がその話を聞いて飽きれて言うと、文彦がそう提案する。それに対して喜一が猛反対した。


「神子様御一行があいさつに来たっていえば会わせてもらえるんじゃないの」


「いくら神子御一行だからって言っても簡単には入れてはもらえない。色々と手続きが必要だし武器は没収されちまうしなにより一国の殿様に簡単にお目通りなんかできやしない。俺達が会いたいのは殿様じゃなくて俺の知り合いなんだから、そんなまどろっこしいことやってる暇があったらさっさと忍び込んでそいつに会ったほうのが早いだろ」


弥三郎の発言に彼が否定的な態度で答える。


「貴様さっきから挙動不審だが、まさかやましい事でもあるのか?」


「ああ、なるほど。お前は遊び人だからな。何かやらかしたんだろ。それで殿様に会うのが嫌なんだろ」


「そうじゃない……そうじゃないけど。う~ん。あれだ。神子御一行がやって着たなんて知られたら国中が大騒ぎになる。やれ宴の準備だとかやれ神子様のお顔を一目拝見したいだとかでなかなか思うように動けなくなるから、だから騒ぎにならないように忍び込むのが一番なんだよ」


疑いの眼差しで睨みやり言ってきた亜人の言葉に納得して伸介もジト目で見やり話す。それに喜一が慌てて手を振って否定すると頭を捻らせ出てきた言葉を口にして説明する。


「確かに一理あると思うぜ。今世間を騒がせている神子様御一行が江渡の都にやって着たって知られれば町中を輿に乗せられて練り歩く破目になるかもしれないからな」


「人々の関心の下であられる神子様だからな。その可能性は大いにありえる」


そこにまるで助け舟を出すかのように紅葉が口を開くとそれに隼人もあり得ると言って頷く。


「それはちょっと嫌ですね」


「私も注目の的って言うのは好きじゃないね」


「私も人の目にさらされるのは……嫌だな」


彼等の言葉に神子が戸惑い苦笑を零すとレインも嫌そうな顔で呟く。信乃も人の目が怖いといった感じで話した。


「……仕方ない。忍び込もう」


「そうと決まれば早速行くか。こっちこっち。城の裏手側に隠し通路があるんだ。そこは万が一何かあった時に殿様達が逃げる用の道らしいが、この平和の世の中じゃあ使われていないらしく誰もその存在を知らないんだ。だからそこから忍び込めば簡単に城の中へと入れるぜ」


数拍黙り込んでいた亜人だったが何かを思い至ったようでムッとした顔になるとそう呟く。それを聞いた喜一が安堵した様子で笑顔になるとそう言って隠し通路のある場所まで案内する。


「ついたぜ」


「ついたって……ただの空き家じゃねえか」


喜一が言うとある家の前で立ち止まる。少し離れたところには城壁が見て取れるが、隠し通路などどこにも見当たらない。その様子に伸介が声をかける。


「まあ、見てれば分かる」


自信満々に喜一が言うと空き家の中へと入っていってしまう。半信半疑のまま神子達も後をついていく。


「ここをこうして……こうやるとだな」


「!? これはからくりですか」


灰も何も入っていない囲炉裏の縁に手をかけると、まるでパズルでもするかのように組み替えていく。するとかちりという音と共にその中が開いて階段が出現する。その様子に神子が目を白黒させて驚きながら尋ねるように言った。


「囲炉裏の中が空洞になって階段が出てきた。ねえねえ、紅葉。私こんなの物語の中だけでしか知らないよ。この世界って凄いね」


「はっはっ。まあ前にいた世界じゃ非常階段とかがあるからこんな隠し通路なんか必要ないからな」


信乃も少し興奮した様子で隣にいる紅葉へと声をかける。その様子に盛大に笑うとそう言って彼女を見る。


「さあ、これが隠し通路へと続く階段だ」


「でも中に入ったらどうやって上を閉めるんですか?」


「ま、中に入ればわかるぜ」


喜一の言葉に神子が疑問に思った事を尋ねる。それには答えずににやりと笑って皆を促し階段を下りていく。


「でだな。最後にここの紐をこうやって引っ張ると……」


彼が言うと階段の横にあった紐を横に引っ張る。すると入口の扉がスライドしてきてかちりという音と共に扉は塞がれた。


「すごい。さっき入って来た入り口が塞がっちゃった」


「信乃楽しそうだな」


「まあ、こんなの見た事ないからな」


驚きと興奮ではしゃぐ信乃の様子を微笑まし気に見ながら蒼が言う。それに紅葉が答えると優しい瞳で彼女を見詰めた。


「後はこの通路を歩いて城の中に入るだけだ」


喜一が言うと薄暗い通路の中を歩き始める。


「周りがよく見えないですね」


「目が慣れてくれば平気になる」


神子の声が響くとそれに喜一が反応して答えた。


「でも何だか転びそうで怖いですね」


「それなら俺に任せろ」


彼女の言葉に紅葉が言うと手のひらに乗るくらいの炎を出現させる。すると周りはうすぼんやりと照らし出され皆の顔が見えるくらいは明るくなった。


「それは妖術ですか?」


「あのな、神様が妖術を使うわけないだろ。これは神の術と書いて神術しんじゅつだ。これで転んだりする心配はないだろ」


驚き尋ねる神子へと彼が苦笑するとそう言って説明する。


そうして紅葉が出現させた炎のおかげで転ぶこともぶつかることもなく順調に通路を進んでいくと前方に階段が見えてきた。


「この階段を上ればいよいよ城の中だ」


喜一が説明しながら階段へと上り取っ手を持つと押して開ける。


出てきた先は人気の少ない庭の井戸の中。見た目はただの井戸だがそこが隠し通路に繋がる入り口となっていたのだ。


そして皆が出ると喜一の案内で書庫へと向かう。途中誰ともすれ違うことなく無事に目的地まで到着する。


「この中に俺の知り合いがいるはずだ」


「……そろそろお見えになる頃かと思いまして、お待ちしておりましたよ。神子様よくいらしてくださいました」


彼が言いながら書庫の扉を開けた。すると中からとたんに男性の声が聞こえてきて皆そちらへと視線を向ける。


「貴方が星読みの一族の末裔の方ですか」


「はい。わたしは斗真とうまと申します。神子様達がこちらにいらしゃるのをずっとお待ち申し上げておりました」


「斗真早速で悪いが邪神についてお前が知っていることを神子さんに教えてやってくれないか」


神子の言葉に軽く微笑み答える斗真と名乗った男に喜一がそう声をかけた。


「はい。皆さんが倒すべき相手は邪神であるという事はもうご存知ですよね。……邪神は100年前に目を覚ますと共に破魔矢を放ち、いけにえとなる乙女を自分の所へと向かわせ、その少女の体を乗っ取り力をつけてきました。ですが今回はいつもとは違います」


「どういうことだ?」


彼の話を聞いて疑問に思った伸介が声をあげる。


「今までは邪神の依り代とのなる娘を探して破魔矢を放ってきました。ですが今回は最初から神子様。貴女を狙って破魔矢を放ったのです」


「私を狙ってとはどういうことですか」


斗真の説明に余計に分からなくなったといった顔で神子が尋ねた。


「神子様はかつてこの国を邪神の脅威から救った瑠璃王国の姫の生まれ変わりなのです。つまりアオイ様の魂を宿してるという事です」


「え?」


彼の話に神子は驚き目を見開く。他の者達もその事実に驚愕した。


「そして今回貴方達がこの旅に同行したのもまた運命であります」


「私達が旅に同行したことが運命とはいったいどういう意味だ」


しかし続いて斗真が話した言葉に隼人が訝しげな顔で問いかける。


「貴方達もまた魂を宿して生まれ変わってきた英雄達なのです。伸介さん貴方はなんとなく神子様の住む村へとやって着ました。しかし神子様を見た時にこの村に移住することを決めた。それがなぜかは貴方には分からなかったかもしれませんが、貴方の魂は英雄の一人ユキ様なのです。ですから神子様と会った時に初めて会った感じがしなくて放っておけず村に住み着いたのです。次に隼人さん貴方がこの旅に同行することになったのは殿のご命令だから従ったに過ぎないと思っていたようですが、しかし今は違いますよね。なんとなく神子様達を放ってはおけないと思っているそれがなぜなのか、それは貴方の魂がアオイ様の旦那様であられるハヤト様の魂を宿しているからなのです」


「「!?」」


彼が二人を見やり話した言葉に伸介と隼人は驚き目を見開く。


「次に文彦さん。貴方は神子様の体調管理をするために派遣されただけだと思っていたかもしれませんが、実はそれも違います。貴方は英雄の一人武の戦士イカリ様の魂を宿して生まれ変わってきたのです。ですから初めて会ったはずなのに皆さんとすぐに打ち解けれたのは魂に刻まれたイカリ様の記憶が神子様達の魂と波長が合ったからに他ならないのです」


「えっ……」


斗真が視線を文彦へと向けると語る。彼の言葉に驚きと戸惑いで瞳を大きく揺らした。


「次に弥三郎さんと亜人さん。貴方方は神子様に助けられたから恩返しのためについて来たと思っているようですが、それも違います。弥三郎さんは英雄の一人アレクシル様の魂を宿していて、また亜人さんも英雄の一人キリト様の魂を宿しております。ですから神子様達と会った時に引かれ合ったのです」


「「!?」」


斗真の言葉に今度は弥三郎と亜人が驚いて目を瞬いた。


「そして最後に喜一、さん。貴方は旅芸人の一座の団長であられたキイチ様の魂を宿して生まれ変わってきました。ですから神子様と出会われた時に惹かれたのでしょう。そうして彼女のために何かしたいと強く思うようになったのです」


「!?」


彼の言葉にまさか自分も含まれているとは思っていなかった喜一が驚いて呆けた顔をする。


皆まさか自分が英雄達の生まれ変わりであったなんてと半信半疑の様子で暫く黙り込む。


「成る程。つまり私達が巡り会ったのも運命って言いたいわけね」


「はい、その通りです。レイン様」


ふっと笑いレインが言った言葉に斗真が答えた。


「でもさ、いくら星読みで未来が見通せるからって、なんでそんなことまで分かっちゃうのかしら?」


「それはわたしもレイン様や信乃様の様にかつてこの国を救った英雄達の末裔の一人だからですよ。わたしの先祖は星読みの一族です。それだけでもうお分かりになられるかと思ったのですがね」


彼女の鋭い追及に彼が微笑み話す。しかし皆解らないのかそれともあえてわかっていて口を開かないのか誰も何も言葉を発しない。それを最初から分かっていたかのように斗真がまた口を開いた。


「わたしの先祖はかつてこの瑠璃王国の姫アオイ様に仕えていた家臣の一人トウヤ様です。そして私の祖先であられるトウヤ様から代々受け継がれた秘伝の書があります。そこには瑠璃王国の姫様達の事や歴史書に載らない事実が事細かに記載されておりました。そしてトウヤ様はいつか邪神が復活することも分かっていたようです。ですからその時が来たら運命に導かれるようにして集う者達へ助言するようにと代々我が一族の間で受け継がれてきたのです」


「成る程、それで私達のこともその秘蔵の書に載っていたってわけね」


「ご納得いただけましたかな」


説明を受けて納得したレインが頷くと彼がそう言って微笑む。


「それじゃあ、邪神を倒す方法も斗真は知ってるの」


「邪神の居所なら分かります。そして邪神がその場から動けないことも」


「動けないってどうしてですか」


弥三郎の質問に斗真が答えると文彦が不思議そうに尋ねる。


「邪神は祠が壊れた事により復活しました。しかし厳重に封印が施されていてその地から離れることができないのです。ですから破魔矢を放ちいけにえとなる乙女を自分の下へと向かわせてきたのです。そして今回も瑠璃王国の姫の魂が生まれ変わってきたことを知り姫の魂を消し去る為に神子様の下へと破魔矢を放ったのです。何も知らずに邪神の下へと向かっていたらそのまま殺されてしまうところでしたね」


「邪神がこっちにこないのは分かった。だがそいつを倒すためには邪神がいるという祠へ向かわないといけないのだろう。だとすると奴を倒す方法がないと神子様を危険な目にあわしてしまうことになる」


彼の話を聞いて亜人が神子が危険な目に合うのではないかと不安を抱いた。


「そのご心配はいりませんよ。魂を継承せし者達と信託の神子様と白銀の聖女様と光の女神様と腕輪を継承せし者。その全てが集った時に異空間より来たりし賢者が現れ神子様達を導くと秘伝の書には書かれておりましたので」


「賢者ってあの伝説の賢者の事か? そんなやつが実在するのか」


愚問だとでも言いたげに笑い答えた斗真へと隼人が驚き尋ねる。


「ええ、瑠璃王国の姫様達を導き国造りを手伝い、およそ100年にわたりこの地を守り続けたとされる賢者様は、この世界が再び危機に陥った時にこの地へと現れるだろうと予言の書にも書かれておりますので実在はしていると思いますよ。その証拠がかつて瑠璃王国があったとされる遺跡の近くにある森の奥に建っている時の神殿です。時の神殿があるという事は伝説の賢者様が実在したなによりの証ですよ」


彼の話を聞いて本当に伝説の賢者がいるのだとしたらそれはとても心強いが、だがただの伝説や書物の中に登場するだけの人物が果たして本当に実在すのだろうか。そもそも昔に生きていた人がいくら賢者と言えど今も生きているとは限らない。などと神子達の間で考えが廻る。


そんな中紅葉と蒼いだけが賢者の存在を信じているかのような顔をして黙して立っていた。


「さて、神子様方がこれからなすべきことはもうお分かりでしょう。腕輪を継承せし者と出会い、そして賢者様から知恵を借りて邪神を討ち滅ぼすのです。こちらの地図をお渡しいたします。この地図に邪神の居所を書き記しておきましたので、これをお役立てくださいませ」


斗真が言うと地図を神子へと渡す。そうしてもう自分の役目は終わりだとばかりの顔で黙り込んだ。


彼の口から聞かされた自分達が聖女伝説の幕開けを作った瑠璃王国の人達の生まれ変わりだという新たな事実に、一同は驚きと戸惑いが治まらぬ心中を抑えてこの場を後にする。


そうして隠し通路から外へと出るとその日は宿へと泊るが、誰も斗真から聞いた話については口に出さないままそれぞれがそれぞれに悩み考える夜を過ごしたのだった。

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