幸せ

「すごい、色んな魚がいるね。」

「あ、あれはモンツギハギって言ってね、餌を食べた後に肌の色が変わって……」

「すごいな、めっちゃ詳しいじゃん。」

水族館に入ってからほとんどこういう会話が繰り返されていた。


私は昔から魚が好きだったということもあり、かなりハイテンションで高原君に話しかけていた。


高原君もそれに嫌な顔1つせず聞いてくれるので、余計お喋りが止まらなくなっていた。


少し休憩しようか、ということで水族館内にあるカフェに私たちは立ち寄った。


オシャレな内装で、イマドキJKが好んで来るような所だと思った。

まぁ花菜以外の女子とほとんど関わりのない私からすれば、あまり縁のない話なのだが。


メニュー表を見ながら、私は熟考した。

どーしよ、パンケーキ食べたいんだけど彼の前でそんなの食べたら引かれるかな。

この人喋らないくせにパンケーキだけは食べるのか、とか思われないかな。


「で、藤原さんは何にするの?」

「え、あ、その、パンケーキにしよっかなって、ダメかな?」

「え、何がダメなの?笑」

「え、いや、喋れてないのにパンケーキだけは沢山食べるのはどうかなって。」


私の言葉を聞くなり彼は大きな声で笑った。

「なんでパンケーキ食べるのが申し訳ないんだよ。それに、さっき水族館で沢山喋ってたよ。」


それを聞いて私はハッとした。

確かに、魚の話をしていた時は普通に喋れていた気がする。


「魚の事話すくらいの感じで僕とも話してよ。」

彼が笑顔で言う。

「うん、分かった。頑張るね。」

私も笑顔で言った。



パンケーキが到着した。

すごい。クリーム盛りすぎでしょ。写真撮ろう。

「……」

「……」

「ねえ、藤原さん。」

「ん?」


「なんでパンケーキをパノラマで撮ってんの?」


「…え?」

まったく、舞い上がり過ぎでしょ、私。


それを見て、彼は爆笑していた。

私は恥ずかしかったが、つられて笑ってしまった。








「今日は水族館、楽しかった?」

高原君が私に聞いてきた。

「うん、めっちゃ楽しかった。今日は誘ってくれてありがとう。」

「なら良かった、藤原さんとだいぶお話し

出来るようになったし、僕も楽しかったよ。」

やっぱり気を使わせてしまっていたのだろうか。

「気を使わせちゃってごめんね。」

「ううん、藤原さんと楽しくお話ししたかっただけだから。」

「ほんとに、私もこんなに男子と楽しくお話しできたの、何年ぶりだろう。」


でも、1つだけ気になることがあった。

「ね、ねえ、どうして、高原君はこんなに私にかまってくれるの?」

「んー。」

彼は少し間をおいて言った。

「僕と藤原さんは似てるんだよ。色んなところが。」

「そ、そ、そうかな?私と高原君は性格とか違うと思うんだけど。」






「まあ、いつか分かると思うよ。」






そういう彼の顔は夕陽に照らされていて、私の脳裏にこびりついて離れないくらいキラキラしていた。


「じゃあ、ばいばい。また学校で。」

「うん、ばいばい。またね。」




彼と別れてから、家に帰るまで、

私の脳内メーカーは彼でいっぱいだった。


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