第2作 夏休みの絵日記

 7月25日、今日から夏休みだ。夏休みの宿題を終わらせる計画表を書いた。これから毎日、日記を付けようと思う。

 

 薄いノートの一ページ目に少し形が歪んだ字で、こまめに計画された宿題のスケジュール表が書かれていた。男は次いでページをめくる。


 7月26日、リビングで宿題をしていると、お父さんがやってきた。夏休みの思い出を残すためにお父さんは僕にデジタルカメラを貸してくれた。


 そのページには一枚の写真が貼られていた。それは鮮やかに輝く夕焼けの空。

 部屋の照明が写真独特の材質に反射して光った。

 

 

 8月2日、夏休みが始まって一周間が経った。今日も友達といっぱい遊んだ。


 8月7日、今日は家族で遊園地に行った。何度も何度もジェットコースターに乗ってお父さんが目を回していた。トレジャーハンターの宝探しが面白かった。


 8月10日、今日からお父さんも夏やすみ。明日から家族でおじいちゃんの家に行くことになった。おばあちゃん、おじいちゃんと会うのは久しぶりなので楽しみだ。

 

 男は真剣に少年が書いた絵日記を隅から隅まで舐め回すように目を通した。ページの一枚、一枚に写真が貼られていて、小学生が手掛ける夏休みの宿題にしては手の込んだものだった。

 

 8月11日、今日から一週間、おじいちゃんの家で暮らすことになった。今日はおじいちゃんに虫取りを教えてもらった。この村は木がいっぱいあって、森の方に行けば探検ごっこが出来そうだ。


 8月14日、おばあちゃんから面白い話を聞いた。この村には昔から河童がいるそうだ。森の奥には河童が住む池があって、河童池という名前がついているらしい。本当に河童がいたら会ってみたい。


 8月15日、今日はこの村を探検しようと思う。おばあちゃんが言っていた河童に会えたら友達になりたい。森の奥には大きな湖のような円形の川があった。更に奥には洞窟のようなものが見えるけど、鉄の編みがあって、そこまで行けなかった。


 8月16日、おばあちゃんの家の倉庫で懐中電灯とペンチを見つけた。これがあれば鉄網を切って洞窟に行けるかもしれない。暗い洞窟の中を懐中電灯で照らしながら中へと入って行った。すると、とても大きな足跡を見つけた。今日の昼ごはんは家で流しそうめんをするから、続きは明日にしよう。



 日記に張られた写真には、大人の男性よりも大きな足跡が、クレーターのようにぬかるんだ地面に刻まれていた。


 男がページをめくると、やはりそこは白紙であった。この日記と同時に送られてきたデジタルカメラに男は手を伸ばす。外傷がないか、男は手の中でカメラを転がしながら確かめた。それから電源をつけ、保存されたデータ手掛かりを調べ始める。


 絵日記に張られていた鮮やかな写真が次々に流れていく。そして、足跡の写真の先にはカメラのレンズに向かって迫って来る裸体の中年男性が何枚も連射されていた。


 そして、最後の1枚には服を剥がれ、見るに耐えない姿となった男の子を背景に、自撮りをする汚らしい大男の顔が写っていた。

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