第25話 再会
もう何年振りになるだろう。
ふと様々な思い出を思い起こす。
ミサに出会ったのは大学を見学しに行った時だ。
なので、高校3年生という事になる。
色々な高校生が集まっていた中で、
たまたま僕たちは隣同士の席になって自己紹介した。
その日のうちに凄く意気投合してそのままカラオケをした。
初日から異性とここまで仲良くなることもなかったからとても不思議に感じた。
大学に合格し互いに入学するまでに僕たちは既に身体の関係は持っていたと思う。
でも付き合いはしなかった。
向こうには年上の彼氏がいた。
大学に入学してもからも時々、遊んで、そして、セックスをして、
彼女の実家で一緒にお風呂に入ったりした。
いつ向こうの親が帰ってくるか分からないスリルの中で身体の洗い合いをした。
自分達が小さな頃から学んだ身体の洗い方は互いにそう違いはなくて、
親近感が湧いた。
その後、僕はミサを他の男性には取られたくないという感情が強くなっていった。
自分はミサを大切に思っている。
ミサの事が好きなんだと自覚した。
僕は、ミサに自分の気持ちを伝えて僕たちは交際をスタートした。
しかし、僕はとても幼くて、嫉妬心も強くて、ゆとりも無くて、
ミサの年上の元カレのようには大人の男性としてふるまう事が出来なかった。
でも、ミサに自分と付き合っている事で少しでも幸せを感じて欲しくて、
色々な場所に出かけたり、
誕生日に何とかアルバイトで稼いだお金で指輪をプレゼントしたりして、
ミサの笑顔を見たい一心で毎日必死に生きていた。
僕は幼くて、感情的になることも多くて、ミサによく言われた事がある。
「そんなに感情的になって、話が出来ないのであれば、私達は結婚なんて出来ない。結婚したいっていうのであれば、少しは大人になりなさいよ」
僕は返す言葉も無かった。
結婚しよう。
そう口だけで言うだらしない男。
行動が伴わない口だけ人間。
僕は本当に自分が情けなかった。
それでもミサは僕から離れることは無かった。
付き合ってか1年くらい経ったある日、
ミサの父親が自殺をした。
原因はよく分かっていない。
僕はミサを必死で支えたいと考えたが、当時の僕には出来なかった。
ミサが家の事で忙しくなり、会う時間が減り、それが僕は寂しかった。
でも僕はこういった事があったんだから理解しよう。
1番辛いのはミサなんだから。
そう考えていた。
大人にならないと。
直ぐに感情的になってはいけない。
そう自分に言い聞かせて。
そして、ミサは亡くなった父親の分まで稼ぐ為に、
キャバクラのバイトを始めた。
学生とキャバクラの両立だ。
多くの大人たちはミサの美貌に酔いしれ、毎晩指名を入れ、
たくさんのプレゼントをミサに買い与えた。
ミサは、時々、客と同伴してから行く為、
待ち合わせギリギリの場所まで僕が送っていったこともあった。
僕は見てはいけないと思いながらも、
建物の陰からこっそり覗いていると、
中年のサラリーマンが出て来た。
にやけたスケベ顔を見て、
その時、僕は絶対にアイツみたいな大人にはならないぞと誓った。
でも今の自分には少しアイツの気持ちが分かるのが情けないと思う。
時々、ミサは客のプレゼントを僕に見せたが、
指輪は僕がプレゼントをした安い指輪をつけてくれていた。
客からプレゼントされた高級ブランドの指輪をつけたほうが良いのに、
僕の指輪をつけてくれた。
救いだった。
彼女は店でナンバーワンになっていた。
彼女は僕を心配してか、勤務中でもメールをくれた。
「ねぇ。早く会いたい」
僕は、何としても彼女を守りたいと思った。
そう誓っていたのに。
そう、心に何度も誓ったのに。
結果、僕は果たせなかった。
僕は、強迫性障害になり、自らミサから離れてしまったんだから。
そんな事を思い出していると目の前にいるミサが、
僕の顔を覗き込みながらこう言った。
「あの~首、肩こりが酷いんですけど、診てもらえますか?」
「あ、はい、だ、だいじょうぶです」
僕は、我に返り答えた。
「かしこまらなくて良いわよ?」
「う、うん……」
「ホームページで首、肩こりって探したらここが出てきてね。
来てみたのよ。独立したなんて、凄いね」
「いや、凄いなんてことは無いよ。それで、首と肩が辛いんだよね?」
「そうなのよ。ここのところ、ずっと辛くてね」
僕はいつも通り、可動域のチェックや、筋肉や骨格の状態を確認した。
凄く、凄く、不思議な感じだった。
自分が何度も触れたミサがここにいることが。
ミサの身体を施術していると、また色々な思い出が溢れ出てきた。
一緒に陶芸を体験しに工房に行った日のこと、
一緒にヨーロッパ旅行に行った日のこと、
一緒に香水作りに行った日のこと、
一緒に卓球をした日のこと、
一緒に誕生日を祝った日のこと、
一緒にクリスマスを過ごした日のこと、
一緒に約束事を紙に書いて張り出した日のこと、
一緒に笑って、泣いて、絆を深めた日々のこと、
ずっとこの先も一緒にいる事が当たり前と考えていた日のことを……。
施術しながら、自分の瞳から流れ出る涙が施術する自分の手に零れ落ちる。
1つひとつの手技に思い込めれば込める程、涙は強くなる。
僕が誓ったミサを幸せにするという約束を果たせなかった事。
本当にごめん。
こんな自分でごめん。
情けない。
色々な想いが駆け巡り、気づけば1時間が過ぎていた。
僕は泣いていた事に気づかれないように涙をぬぐってミサを起こした。
「ありがとう。とても軽くなったわ。
私、色々な所に施術を受けにいくけれど、ヨウスケが1番良かった。
本当にありがとう。
そして、あなたにもう1度会う事が出来て良かった。
あなたが元気そうにしている姿を見る事が出来て、
私はとても嬉しかった。
頑張ってね! ヨウスケ」
「ミサ、ありがとう。俺……」
「じゃあね!」
ミサは僕が話そうとした事を最後まで聞かずに、笑顔で帰っていった。
人との出会いとは本当に不思議なものだ。
どこかで何かが違えば、ミサとはまだ一緒にいたのだろうか。
結婚して子供がいたのだろうか。
でもその時は整体はやっていなかったんだろうか。
こんな事、考えても分からないことだけれど。
でも間違いなく言えることは、ミサと僕は今はもう一緒にいないという事実。
それだけが僕の心に穴がぽっかり開いていることを改めて自覚させた。
洋介からヨウスケになった距離を僕は受け止めるしかなかった。
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