第16話 光
僕は再度リョウコにお願いしようと練習場に行くと、
そこにはタクマとハルミがいた。
タクマとハルミは2人とも合格したとの事だった。
そこで、僕が事情を説明すると、
タクマとハルミも一緒に練習をしてくれると言ってくれた。
圧が足りないとい部分を克服する為に、男性のタクマの足を借りた。
そこで、リョウコ、ハルミが僕の弱点を見つけてくれた。
それは身体の使い方だった。
手で押してしまっているので、
もう少し体重で圧をかけるようにアドバイスをくれた。
手押しでは無く、体重圧。
手をスネに当てた後にそのまま体重をかけていく。
最初はなかなか上手に出来なかったが、
繰り返し、繰り返し反復練習をしていると少しずつコツが掴めてきた。
「池上さん、凄い! 圧が入っていますよ、気持ち良いです!」
「タクマ君、ありがとう! やっとコツが掴めてきたよ」
僕は何とか体重圧のポイントを掴み再度、研修担当のもとへ行った。
研修担当は、圧の入り方、特にスネへの圧の確認をしたいとのことだった。
そこで、僕は集中し、研修担当のスネにオイルを絡めてから指に意識を集中し、
自分の全てをそこに捧げた。
周りではリョウコ、タクマ、ハルミが見守ってくれていた。
額から汗がにじみ出て、そして、指には激痛が走る。
何度もスネに圧を入れて足首側から膝の方向へ圧を入れながらすべらせる。
「はい、もう良いですよ」
研修担当がそう言った。
僕は手技を止めて、研修担当の顔を見た。
「全然違いますね」
「はい……」
僕は不安そうな声でそのように答えた。
「まるで別人でしたよ。とても良い取り組みが出来たんですね。
そして良い仲間を持ちましたね。合格です。おめでとう!」
「あ、ありがとうございます!」
「池上さん! おめでとうございます!」
振り返るとハルミがいた。
ハルミは大きな目を見開きながら僕にハグをしながらそう言った。
彼女の大きな胸と共に彼女の鼓動を感じた。
「ありがとう、ハルミさん! やっと合格出来ました!
リョウコさんもタクミ君も色々アドバイスしてくれてありがとう!」
何とか無事に合格を果たしたが、
実際に合格しなければいけない試験は合計4つ。
その1つに合格したに過ぎない。
僕が整体師としてお店に立つ日はまだ先だ。
帰り道、僕はリョウコと一緒になった。
実は度々リョウコとは帰りの方向が一緒だからこのように帰る事はあった。
その日は、近くの居酒屋で食事をする事になり、
野菜や魚を少しつまむことにした。
「池上さん、おめでとうございます。本当に良かったです」
「リョウコさん、色々教えてくれてありがとうございます。助かりました」
「いえいえ、私が少しでも力になれたのであれば嬉しいです」
リョウコはいつもどおり綺麗な真っ白な歯を見せながら笑った。
歯並びもとても綺麗だ。
僕は、ふと、リョウコの彼氏はこの綺麗な歯をキスをする度に好きなようにしているのだろうか考えてしまったが、
直ぐに野菜に意識を集中し、その考えを吹き消した。
「リョウコさんの、アドバイスが無ければ合格は難しかったです」
「そんな事無いですよ! そうそう、もし嫌でなければなんですけれど……」
「はい。何でしょう?」
「会社以外で話す時、ため口でも良いですか?
何か距離を感じてしまって……でも、私、年下だから嫌ですよね……」
「いや、僕は気にしないですよ?
でも会社ではやはり周りの目がありますので敬語でいきましょう」
「わかりました。約束する。だから今から敬語はダメだよ?」
「はい。わかりました」
「いやいや、それ……」
「うん、ごめん……間違えたわ」
「大丈夫! 最初は慣れるまでに時間がかかると思うけど、お願いね」
「うん。でも何で?」
「何か、敬語だとさ、その人の本当を知れない気がしてね」
「確かに、そうかも知れないね」
「うん。ため口の時、敬語の時、両方知らないと損な気がしてね」
「面白い考え方だね」
「そうかな~、あと池上さんは、名前、ヨウスケだっけ?」
「そうだよ」
「だったら、ヨウスケで!」
リョウコは終始このような感じでとてもアグレッシブな感じだった。
そして、僕は帰りの電車で、1つ相談を受けた。
「私ね、彼氏いるって話を前にしたじゃない?」
「うん、聞いたね」
「好きな事に変わりはないんだけれど、1つだけ合わないことがあるの」
「合わないこと?」
「そう」
「性格?」
「そうじゃない」
「好きな食べ物とか?」
「そうじゃない」
「え、何?」
「セックス」
「……え???」
「セックスだよ」
「うん……、どういう事?」
僕は、リョウコからそんな事を聞くなんて思っても見なかったら驚いてしまった。
リョウコはまさしくザ・優等生。
学校にいると生徒会長をやってしまうようなリーダーシップで勉強も出来て美人で、誰もが憧れるような女性だ。
そのようなイメージのリョウコから、
真っすぐな眼差しと共にセックスなんて単語がこの場面で出るなんて、
僕は動揺した。
「ど、どういう事……?」
「それはね、何か、こう強引なのよね。私が準備出来ていないのに」
「なるほど、確かに心の準備って必要だよね」
「それだけじゃない、身体の準備だって同じくらい大切よね」
「え?」
「そうでしょ? そうじゃないと痛いんだからさ」
「うん……」
何故、このような悩みを打ち明けてくるのか分からないが悩んでいるのだろう。
女性の悩みはとにかく傾聴をすることが重要だから
僕から解決策は話さないように注意した。
「やはり、女性の心や身体のケアが出来ない人って嫌だ」
「そうだよね。わかるよ。それは嫌な気持ちになってしまうよね」
「そうでしょ? ヨウスケはどうしているの?」
「どうしてる?」
「うん、そう、どうしてるの? そういう時」
僕の話はいいよ……と思いながらもリョウコに目をやると、
継続して真剣な眼差しでこちらを見つめているので、
その勢いに押されて僕はこう答えた。
「僕は、無理矢理とかで燃えるタイプでもないからしっかり、
こう、何というか準備というのは行っているよ」
俺は一体何の話をしているんだ。そう思わずにはいられなかった。
「そうでしょ? やっぱりそうなのよね」
そう言うと、僕の肩に寄りかかり、リョウコはそのまま寝てしまった。
生きていると色々な事があるけれど、
こういった類の相談は受けたことが無かったから少し戸惑ったが、
これから整体師として色々な人と関わる上では1つ経験になったなと思い。
自分の中で無理矢理消化した。
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