第45話
「まさか…新手か…?」
こちらを
しかし、次の瞬間にはその剣は宙高く弾き上げられていた。すぐ懐には、ボロボロに
「カハッ…」
急に内臓へと喰らった衝撃で、意識が飛びそうになる。それをどうにか抑えるが、しかし、身体を立たせておくことができずに膝から崩れ落ちた。
「クソッ!なっ…!?」
急いで持っていたダガーを投げ、男を
だが、しっかり狙った一撃も軽々と避けられ、次の一手の為に懐に入れていた手を握られて、気付けば地面に寝転んでいた。
「マジかー!?」
完全に気配を消して男の背後を取っていたはずのアイラは、持っていたナイフを手刀で折られ、その破片で木の近くに縫い付けられた。
「えいっ!…うそぉっ!?」
セイアは、高圧の水流を糸の様に絞って高速で射出する。が、簡単に避けられ、杖をへし折られた。
「せいっ!」
グキッ
「うぐぅ…!」
今まで出番のなかった老人が、ここぞとばかりに槍を突き出す。
その急所を狙った正確な一撃も、簡単にいなされ槍を折られる。そして、そのままギックリ腰で老人はダウンした。
男は、あっという間に5人を制圧した。
「とりゃっ…!」
そこに、メイビスが巨大な風の塊を射出する。
本来ならば不可視の一撃だっただろうが、風が濃い土煙を押しのけ簡単に攻撃が見えてしまう。
それを紙一重で避け、メイビスに一撃を与え―――る寸前に、メイビスが射出した風の塊が、周囲へ暴風を巻き起こしながら破裂した。
「なっ…!?」
それに巻き込まれ、男はバランスを崩す。
風は土煙を完全に取り払い、男の容姿がハッキリと視認できるようになる。
「…って、お父さん!?」
「あぁ!ソフィ!良かった無事で…!」
その姿は、全身が黒く汚れて碌な装備も無かったが、確かにルーウィンだった。
「おらぁ!ルーウィン貴様ぁ!あれほど先行するなと言っておったろうがぁ!」
更に、茂みから熊のような巨漢が飛び出してきた。
◇◇◇
時は
真夜中、街の明かりも無い中、ルーウィンとクマールはひたすらにソフィたちを探して街中を駆けずり回っていた。
時々、現れるモンスターを一撃のもとに葬り去って、真っ赤になりながらも探していた。
もう、かなりの時間を捜索に費やしているが、一向に見つからない。
「くそっ…まだ探していないところは…!」
かなり広い街とはいえ、壁に囲われている程度の街である。ほとんどの場所は既に確認済みだ。
「こうなると、街の外に出たとしか…。」
「くっ…次だっ!」
「おい待てっ!」
ルーウィンは、崩壊した壁を越えて草原へと走り出す。
「これはっ…」
しばらく走ったところで、草が踏み倒されたように折れている場所を見つける。足跡だ。大きさから言ってマルボスの物か。
その足跡は、森へと向かっていた。
「森かっ!」
「待て、ルーウィン!そんな装備で大丈夫か!?」
「大丈夫だ。問題ない!」
ルーウィンの装備は、マルボスとの戦いで殆ど破壊され、今は薄いシャツに刃毀れして今にも壊れそうな剣だけだ。
それにも関わらず、ルーウィンは森の方へと進んで行く。
「おぃ、待てっ――――」
それを、クマールが制止しようとした時だった。
森の中程から、一筋の光が天へ向かって伸びた。冷たいようなその光は、何故か心を圧迫し、身体を動かそうとする気力が萎えていくのを感じた。
「くっ…そこかっ!」
まるで、体重が数十倍になったかのような感覚に
「待てよっ!」
それを、クマールが担ぎ上げた。その動きには一切の淀みが無かった。
「放してくれっ!行かないと…!」
「あぁ、分かっている。俺も、用事ができた。」
そう言うと、クマールは光の発生源へと走り出した。
「ありがとう…!」
「なに、少し野暮用が重なっただけだ。貴様の為ではない。」
「ところで…なんで君は動けるんだい?」
クマールはその問いに答えることは無く、ただ淡々と足を運んでいく。
惑わせるように木々が密集して生えている森の中を、ただひたすらに、走る。何の目印もなく、一寸先も見ることができない闇の中で、薄っすらと目を光らせた巨漢が通り抜けていくその様は、異様の一言に尽きるだろう。
まぁ、その速度は決して速いとは言えなかったが…。
しばらくすると、圧迫感が霧散した。
「もう、大丈夫だ。ありがとうクマール。」
「あぁ。」
クマールは、肩に担いでいたルーウィンを降ろして、再び走り出した。
ルーウィンは、既に先に進んでしまっている。
だが、それは目的地とは全く見当違いの方向で…。
「あっ、おいっ!?…クソっ!」
クマールは、仕方なくルーウィンを追った。
しばらく走って、もう目的地からだいぶ遠ざかったと思ったあたりで、再び光が伸びた。
そこは、クマールの予想した通りかなり離れた場所で…。
そこからさらに離れた場所で木々が薙ぎ倒されるような音が鳴った。
「はぁ…しょうがねぇ。」
そこから、ルーウィンを捕まえて正しい方向へと進んで行く際に、かなりの時間を要したのだった。
◇◇◇
「まぁ、そんなこんなでようやくここにたどり着いたのさ。」
「貴様…俺の苦労も知らないで…!」
「ねぇ、お父さん…その人は誰?」
「あっ、オジベアさんだ。このオッチャン、ランミョーンの街の衛兵師団の団長だよ。」
ソフィが、ルーウィンの隣で牙を剥いている巨漢を指さして聞いた。が、それに答えたのはルーウィンではなく、メイビスだった。
「おやっ?メイビス坊ちゃんじゃないですか。チンピラ二人がいらっしゃらない御様子ですが…弱虫は何処に置いてこられたので?」
そんなメイビスに向かって、クマールは明らかにバカにしたような返事をした。
「あぁ、あの二人か…。たぶん、競技場にでもいるんじゃないか?」
いつもなら、直ぐに激高したであろうメイビスの落ち着いた対応に、クマールは目を大きく開いた。
小心のくせ傲慢で、我儘で怒りっぽいクソガキは既にそこにはおらず、落ち着いた雰囲気の少年が代わりに立っていた。
「坊ちゃん…!?どうされたのですか?頭でも打ったので…?」
「お前は、相変わらず失礼な奴だな…!はぁ…。まぁ、いろいろあったんだよ。」
「そう…ですか。」
いつもと違うメイビスの様子に戸惑いながらも、その様子を見て納得する。
いつもの
「仲良しだねぇ、二人とも~」
「セイアお嬢様!?どうしてここに…?」
クマールが驚いて口を開けて
『マジで熊みたいだな…。』
メイビスの肩に乗っていたヤマトは、その姿に動物番組で見たヒグマの姿を重ねた。
「ぬっ?ローチが喋った…。」
『あ、俺はヤマト。実は一回―――』
「転生者だな。」
『死んで―――えっ!?』
ヤマトが驚いている横では、ルーウィンがソフィ達3人を抱きしめていた。
「良かった…!良かった…!」
なかなかに情景が
と、ルーウィンが思い出したように口を開いた。
「ところで、マルボスは?」
「えっと、マルボスならそこに転がって…あれ?」
完全に土煙が取り払われた状態で、マルボスが倒れていたところを見る。
しかしそこには金髪の屍は無く、地面を汚染する血だまりだけがただ広がっているだけだった。
『「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」』
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