第27話

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~街を守る壁の外~


「くそっ!数が多すぎる!なんで街の近くにこんなにモンスターが湧いてるんだ!」


 街を守る壁、その付近のスラム街で襲ってくるモンスターをダガーで迎撃しながら、男は悪態をつく。


「ユソウさん、しゃがんで!」


 その男の背後から、少女の声と共に魔法の援護射撃が飛んでくる。

それは、しゃがんだ男の真上を通り、襲い掛かって来た小さな人影のようなものを燃やし尽くす。

 その隙に、しゃがんだ状態から溜めた脚を一気に開放し、その後ろから来ていた巨大な狼を切り裂く。


 すると、モンスターたちは魔法を放った少女の脅威度を改めたようで、執拗に狙ってくる。

 それを、盾を持ったガタイのいい男が殴り飛ばし、あるいは空いた方の手で持った剣で切り飛ばしていく。


「準備できたぞー!みんな、範囲からどいてなー!」


 そう言った少女の言葉に従い、三人がモンスターを振り切って近くにある粗末な建物へと逃げ込んだ。

 その瞬間、少し背の高い建物の柱が破裂し、倒壊した。

かなりの数のモンスターがその倒壊に巻き込まれて絶命しただろう。

 スラムの一角に土塵が舞い上がり、少し先も見えなくなる。


 そんな中、予め決めてあった集合場所へと四人が集まる。


「ふぅ…かなり派手にやったな。こりゃ、またモンスターが集まって来るぞ。早いとこずらかろうぜ。」


 口元を布で覆った、やけに明るい色使いのやたらとポケットの付いたノースリーブのベストを着た軽薄そうな男が言う。先ほど魔法を使っていた少女にユソウと呼ばれていた男だ。


「そうなー、アチシもそろそろ火薬がそこを突きそうだからなー。この隙に逃げるが吉ー。」


 そう甲高い間延びした声で喋る小柄な少女は、布の胸当てに短い所謂ホットパンツと皮のベストだけという身軽でやや露出の多めの格好をしている。


「えぇ、そうしましょう。でも、この方々はどうしましょうか?その、このままだとモンスターに…」


 ゆったりとした淡い紫のローブを身に纏った少女が、5人のボロ布を身に着けただけの貧相な人々を指して言う。


「あぁ、このまま放っておくわけにはいかないだろうな。護衛しながら進むか。」


 ガタイのいい金属鎧を着た男がそれに返した。

すると、ユソウが文句を言うように男に言った。


「えぇー?護衛すんの?報酬なしで?モーガン本気かい?」


「あぁ、本気だぞ。それに、お前の腕なら余裕だろうが。」


「いやぁ…それはそうなんだけどさぁ…報酬ナシってのがなぁ…アイラちゃん~どうよ?そこんとこ。」


 不満そうにふるまってはいるが、その言葉のは先ほどより速くなっており、満更でもなさそうだ。


「んー、まぁ、見捨てると気分悪いしなー。いいんじゃないかなー?まぁ、アンタがやんないってんなら、一人で勝手に失せろよなー。」


「ひどいっ!?」


 小柄な少女が答える。それに、魔法使いらしき少女も賛同した。


「そうですよ!それに、ユソウさんは強いので大丈夫です!」


「そうかぁ?まぁ、セイアちゃんがそこまで言うんだったら、いいよ、やろうか。」


 四人で話し合っていると、ボロ布を纏った人の中から老人が出てきて、会話に加わった。


「あの…お助け下さり、ありがとうございます。あの、このスラムにも一応、地下に避難所が設けられておりまして…おそらく何人かはそこに逃げ込んでるでしょう。そこに逃げ込めば大丈夫なはずです。そこまで護衛をお願いできますか…?もちろん、報酬はお支払いいたしますので…。」


 老人は、身なりに似合わぬ丁寧な口調で四人に護衛の依頼を申し出た。


「おっ?報酬出るってさ。じゃあ、やろう!爺さん、避難所はどこだい?」


「ここから10分ほど南に歩いたところです。案内は儂がいたしますので、よろしくお願いします。」


老人が、深く頭を下げて頼み込む。


「わかりました。出来る限り護衛します。」


 モーガンがそう、老人に約束する。

その頃には土塵も薄くなり、少し遠くの物の輪郭が分かるまでになってきていた。


「おっと、長話してたら目隠しが晴れちまった。これじゃ、逃げても追われちまうな…。ちょっくら準備するぜ。みんな、鼻と口を布かなんかで覆っておきな少し煙いからよ。」


 そう言うと、ユソウは懐から筒状の物を取り出した。

それを開け、中から出てきた細い枝を地面に刺し、火をつける。すると、真っ白い煙がモクモクと発生し、あっという間に再び視界が制限される。


「これは、火山地帯にある燃える木の枝を湿らせたもんだ。コレ一本で物凄い煙が出るんだぜ。臭いのが難点だがな。さっ、とっとと避難所にいくぞ。」


 ユソウは少し笑いながら、得意げに語る。


四人は、スラム街に居た人たちを囲むようにして守りながら、濃煙の中を進んで行った。


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『んぁ?あれ、なんで控室にいるんだ?』


 ヤマトが目覚めた時、そこは眠り始めた闘技場ではなく、成人式の前に待機させられていた控室であった。


「あっ、ヤマト起きたのか。実は―――」


 ピートは、街がモンスターに襲われていること、そして街の防衛に半ば無理やり参加させられたことなど、ヤマトが小休止している間に起きたことを簡単に説明した。


『なるほどなぁ…嫌がらせか。まぁ、成人式でお前らは目立ってたもんなぁ…。』


「そう言うことなの。で、今は作戦会議中なんだよ。私たちは、闘技場の近くにまで来たモンスターをやっつけることになりそう。」


『ほーん、まぁ、子供だし一番安全な役割をってか。』


「うん、そうなんだけど…ソフィちゃんがフラフラとどこかに行っちゃわないか心配で…。」


 そう言うと、ユキはソフィの方をチラリと見る。

ソフィはずっと俯き、足元を見ていた。その様子はまるで幽霊のようで、今にもフワッと儚く消えてしまいそうであった。


「はぁ…コイツが静かだと、調子が狂うぜ…。なぁ、ヤマト。どうにかできないか?俺らが声をかけても振り向きすらしねぇ。」


『あー…実は、医務室でソフィをケンカになって…。たぶん俺が声をかけてもダメだと思う。』


「はぁ!?お前らがケンカ?なんでそんなことになったんだよ。お前ら、めったにケンカなんてしなかっただろ?」


『あぁ、夏に勝手にアイス喰ったって言われたとき以来だな。あの時も酷かったが、今はもっと酷い。』


「そ、そうか…」


ピートが微妙な顔をしてしまった。


(いやぁ…あの時は酷かったなぁ。アイス食べたって冤罪かけられて…結局、ヘレナさんが食べちゃってたんだよな。)


 回想に耽っていると、少し視線を感じた気がした。その方向をチラ見してみると、ソフィが項垂れたまま上目遣いでこちらを睨んでいた。


〈こわっ!〉


 またすぐに下を向いてしまったが。


『そ、そうだ。お前ら、ギフトは何貰ったんだ?』


 あまりに暗い雰囲気に耐えきれなくなったヤマトが3人に聞く。


「あ、私はね、“神楽鈴かぐらすず”と“かんなぎ”って言うの。なんか、神様とお話しできるみたい?」


『おぉ、なんか凄そう。でも、なんで疑問形?』


「えっとねぇ…なんか説明がいろいろややこしいの。回復と光属性攻撃が得意なんだって。」


『へぇ、凄そうだな。で、ピートは?』


「あぁ…俺のは“ご都合主義デウス・エクス・マキナ”って言うらしい。」


『デウス…何?』


「いや…俺もよくわかんないんだよ。説明には、いい感じになるとしか書いてなくて…。」


『あー…まぁ、名前が凄いからきっと能力も凄いんだろ…。で、ソフィは…』


 ソフィは俯いたまま、ポケットをまさぐり鈍色のプレートをユキの方へを放り投げた。


「あっ、っとっと、セーフ。もぅ、大事にしないとダメなんだよ?」


 ユキが軽く注意するも、俯いたまま反応することは無い。


「まぁ…とりあえず、見てみようぜ。」


 ピートがソフィのプレートを弄る。すると、二つ文字が出てきた。

ひとつが、“魔剣士”というものだ。

 ピートによると、特殊ユニークほどではないが、珍しい職業なのだと。魔法と剣技を巧みに使いこなすという。

〈まぁ、魔剣士って言うぐらいだしな。〉


もう一つは、“鬲皮黄縺ョ邇玖?”と、文字化けして読めなかった。

 こちらの説明を読もうと文字をタップしてみるが、全く反応をしない。魔剣士の方はしっかりと反応したため、プレートがおかしいわけでは無いはずだ。


「なんて書いてあるんだ?コレ…」


「うーん…これのせいで水晶玉がおかしな反応をしたのかも…?」


『もしかしたら、解放条件とかあるのかもな。』


「解放条件?どういうことだ?」


 ピートは、チラッと問いかけるようにユキの方を見る。しかし、ユキも不思議そうな顔をしているだけだ。


『あー…なんていうかなぁ…才能はあるけど実績が足りなくて、その職業につけない的な…?』


「えっと、実績は実際に挙げた功績とか成果のことだから…?それが足りない…?でも、ギフトってその人の才能が分かるってだけで、他のことは関係ないんじゃなかったっけ…?」


『あー…そうだよな。あっ、でも子供の可能性は無限大って言うし!小さいころから繰り返してきたことが才能になるって聞いたこともあるし、全く関係ないってことはないんじゃない?』


「うーん…でも、それでもこんな風なギフトは出ないと思うの…。」


『あー…そうだよな。』


「むー…よくわからねぇ…」


 ソフィの文字化けギフトの考察をしていると、作戦会議は終了したようだ。

一塊になっていた大人たちはバラバラに小さなグループごとに分かれ、控室の陳列棚に置いてある武器を物色しだした。


「あ、終わったみたいだね。で、私たちはどうしよっか?」


『あー…武器を選ぶとかじゃないか?ほら、大人たちもそうしてるし。』


「おっ、ようやく剣を触れるのか!ずっと気になってたんだよ!」


「………」


二人は、自失呆然となっているソフィを引っ張って、武具陳列棚の方へと歩いて行った。

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