第24話
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~???~
ランミョーンの街にほど近い森の中で一人の背の高い男が立っている。
周囲には百を超える魔物を従え、静かに町の外壁を見つめていた。
ランミョーンの街には、高さ10メートルほどの外壁が存在している。
その外壁は、百年ほど前に魔物から街を守るために建設された。
空を飛ぶ魔物を防ぐことは出来ないが、地を走る魔獣や妖魔などは防ぐことができる。何度かスタンピードも発生しているが、この高い壁が盾となり、難無く退けることができたという。
そんな百年間もの間、街を守り続けてきた堅牢な壁を、男は静かに眺めていた。
否、静かにではない。男は、周囲の魔物にすら聞き取れないだろう程小さな声で、ブツブツと呟いていたのだ。
「…力は全盛期に近く回復した。しかし、未だ完全ではない。更に強い力を得なければならない…。そのためには“アレ”が必要だ…。しかし、“アレ”を奪取する機会は限られている…。慎重に行動せねば…。必死でかき集めた
男が求めている“アレ”は、どうやらランミョーンの街にあるらしい。
男の顔は、自信に満ち溢れてはいるものの、その陰には緊張と若干の焦りが感じ取られる。必死で自分を落ち着けようと、ゆっくりと深く呼吸をしていく。
「“アレ”は、いつもは大事に大事に保管されていて、どこにあるのかさえ分からない…。しかし、年に一度、この日だけは確実に衆目に晒されるはずだ…!アレを取り込みさえすれば、我が再び魔物の王へと返り咲くことも出来るやもしれん…!それには、“アレ”が――“垣間見の水晶”がどうしても必要なのだ…!」
男は…マルボス=トゥロヌスは、魔物達に指示を出し、確実に“垣間見の水晶”を手に入れられるように準備を進めていく。
太陽は天の頂点をやや過ぎ、森林の木立の向こうへとゆっくりと進んで行った。
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「はい…すいません、ありがとうございます。」
ソフィを診察していた神官がルーウィンに状況を説明し、退室をした。
あの後、ソフィをベッドに寝かせ、神官が詳しくソフィの状態を調べたのだ。
しかし、水晶玉があのような反応をすることは今までに前例がなく、なぜこのようなことになったのか、原因は全く分からなかった。
ソフィの症状は強力な魔力を浴びた時に起こる、魔力酔いの重度症状によく似ているという。このことから、何らかの原因により水晶玉から謎の魔力が放出されて、その中心にいたソフィが魔力酔いを起こしたのではないか、と神官から言われた。
ソフィの診察をしていた神官は、表面上は微笑みながら診察魔法をかけていたが、その態度などからは、ソフィに対する少しの恐怖が感じられた。
「さて…君たちには、少し話しておきたいことがある。」
神官が出て行った後の医務室のような場所で、ルーウィンが重く口を開いた。
「このことを聞くと、その…かなりショックを受けるかもしれない。しかし、どうか落ち着いて聞いてほしいんだ。」
「「はい…。」」
その小さな二つの返事に頷き、意を決したように話し出した。
「よし…。実はソフィは…その、私たちの実の子ではないんだ。いや、もちろんソフィのことは愛している。実の娘のようにね…。これは、妻も――ヘレナも同じだ。二人で、一緒にこの子を立派に育て上げようと、そう決めたんだ。」
ここで一旦言葉を切り、深呼吸をしてから再び話始める。
「ソフィを引き取ったのは、12年前――魔王が倒された時だ。私とヘレナは、勇者の援護をするために、勇者と共に魔王の居城へと乗り込んだんだよ。
勇者と共に、魔王の待つ玉座の前に立った。そこからは―――勇者と魔王の熾烈な戦いの邪魔になるような魔物達を食い止めていたんだが…。
結果、勇者は勝ち、魔王は倒された。しかし、魔王には妻がいたのだ。…人間の妻が。
魔王とその妻はお互いに愛し合っていた。そして、子供が生まれていたんだ。当時、1歳になる女の子を。
魔王の妻は、私たちにその娘を託し、自分は魔王と運命を共にすると言い出した。
もちろん、私たちも最初は断ったが、その人の熱意に負けて、結局はその子を引き取った。――――――――それが、ソフィだ。」
ルーウィンが、再び口を閉ざす。医務室には重苦しい沈黙が降りかかり、誰も、何も言葉を発することができないでいた。
「そう…なんだ…。」
ふと、ベッドから呟く声が漏れる。
見ると、ソフィが上半身を起こし、じっと腿の上に置いた手を見ていた。
「ソフィ!!よかっ…―――聞いて、いたんだね。」
ルーウィンは喜び、『よかった』と言おうとするが、ソフィの様子に暗いものを感じ、すぐにその言葉を飲み込んだ。
「うん…。最初から。」
ソフィは俯き、今にも泣きだしそうな悲し気な声で返事をした。
「そうか…」
ルーウィンはそう言い、ソフィを抱きしめようとベッドに近づく―――が、
「近寄らないでっ!!」
強く、ソフィに拒絶された。
ルーウィンは悲しげな瞳でソフィを見て、口を開こうとする。
しかし、ルーウィンが口を開くより前にソフィが顔を上げた。その顔に浮かぶ表情を見て、すぐに口を堅く結びなおした。
ソフィは、酷く悲し気な、それでいて深い怒りと失望を含んだ声で
「私は、お父さんとお母さん―――ルーウィンとヘレナの本当の娘じゃないんだね…。」
と、確認した。
「私は、魔王の…人類の敵の娘なんだ…。今まで、騙されて生きてたんだ…。」
『騙されて生きてた』この言葉に、すぐにルーウィンが反応する。
「でも!ソフィのためを思って――――」
「うるさいっ!!!」
――が、再び強い拒絶を受け、遮られてしまう。
「―――…落ち着いたら、また話をしよう。でも、これだけは覚えておいてくれ。僕もヘレナも、ソフィ、君を愛している。たとえ実の子でなくても、君は私たちの娘なんだ。」
そう言うと、ルーウィンは重苦しい雰囲気の医務室から出て行った。
「あっ…――なぁ、ソフィ。」「ねぇ、ソフィちゃん…。」
「ごめん二人とも。今は、一人にしてくれないかな…。…それに、二人も魔王の娘なんかと一緒に居たくなんてないでしょ…?」
残ったピートとユキは、再び俯くソフィに心配そうに声をかける。
が、冷たい言葉で拒絶される。
「お前なぁ!俺らがそんなことを気にするとでも…!」
「やめてあげて!ピート君…今は、そっとして置いてあげよう?」
「でもっ…!…あぁ、クソっ!」
「ありがと、ユキちゃん…。二人とも、もう来ない方がいいよ…。」
「ううん、すぐにまた来るよ。だって私たち…友達だもん…。」
そう言うと、ユキは医務室を後にした。その後を、ピートが苛立たし気に追っていく。
二人が去って行ったあと、ソフィは医務室のベッドに突っ伏した。
そして、一言だけ
「…なにも、分からないよ…」
と、今にも泣きそうな、震えた声で呟いたのだった。
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