第13話
「ふんっ。もう、二度と!私のことを嘘つきなんて言わないでよね!」
「いや、悪かったって。何度も謝ったじゃんか、許してよ。」
ソフィは、何度も嘘つき呼ばわりされたことがよほど気に入らなかったのか、ピートに向かっていつまでもグチグチとネチッこく絡んでいく。
ピートは、少し…いや、かなり
そして、ローチを見ただけで失神していたユキはと言えば―――――
「ねぇねぇ、虫さん、何で喋れるの?どうやって動いてるの?何を食べるの?本当に元々ヒトだったの?あっ、元にいた世界のことを教えてよ!あ、山に行って蛇神様と戦ったって言うのは本当なの?」
『ちょ、ちょっと待って、一気には答えられないって…』
相手が喋ったことで、恐怖よりも好奇心が勝ったのか、ただ慣れただけなのか、あっという間に順応してローチを質問攻めにしていた。
『えっと、何で喋れるかは知らない。そこのアホの子の言う通りにしたらなんか喋れた、で、どうやって動くのかも知らない。あと、何でも食べれるはず…と言うか、なんで俺が元人だって知ってるの!?異世界のことまで!?喋って無いけど!?あと、蛇神様って何!?』
「あっ、魔法って使える?」
『質問に答えてぇ!?』
「ねぇ、今私の悪口言ってなかった?」
『恐るべし、ソフィの悪口センサー…。』
「あっ!ほんとに悪口言ってたの!?虫さんヒドイ!」
『えっ!?口に出てた!?』
「あっ、さっきから考えてることがダダモレになってるよ。」
どうやら、伝われと念じていたら、必要のないことまで伝わってしまうようになったらしい。
『えっ、嘘っ!これ、オンオフできないの!?』
「おんおふ…?分からないけど、気合で行けるって。」
『行けるわけないでしょ!この根性おバカ!チクショー…!やるだけやるか…』
「あぁっ!また悪口言ったぁ!」
『伝わるな~伝わるな~…伝わるな~伝わるな~…)
「「あっ、聞こえなくなった!」」
「まだ私には聞こえるわ!」
どうやらうまく行ったようだが、まだソフィには感じ取れるようだ。もっと念じれば、ソフィにだって伝わらなくなるかもしれない。
(伝わるな~…伝わるなぁ~…伝わるな~〉
「あっ!わかんなくなっちゃった!これじゃあ、ただのローチだよぉ!」
〈よし、成功したみたいだな。次は、聞こえるように思念を発せるようになれば完璧だ。
あっ、あーあー。うん、うまく行ったみたいだな。』
「「「あっ、喋った。」」」
『え?それ、俺が喋ったら毎回やるつもり?』
騒がしくしていた為か、入り口近くの広場で棒切れを振り回していた小太りの少年が近づいてきた。
「やいお前ら、もう騒がしくするなって言ったよな!今度は、もう許さないぞ!」
〈なんか、◯ャイアンみたいな感じのやつだな。でも、チラチラとソフィを見てるからか、あんまり締まらない…。あっ、ソフィのヤツ、完全に敵視してるのか歯をむき出しにして威嚇してやがる。女の子がそんな顔をするんじゃありません!…で、なんでこのデブは威嚇されて赤面してるんだ?笑いかけられたとでも思ったのか?それとも、生粋のドM…?〉
ソフィは、ニセジ◯イアン急に赤面したことを無視し…と言うか、気付かずに、突っかかっていく。
「なによ、モーガン。もう2度と来るなって言ったでしょ!」
〈あっ、ジャイ◯ンじゃなくて、モーガンって言うんだ。〉
「うるさいっ、俺様がどうしようが、俺様の勝手だ!って、なんだ?その薄汚い虫は。」
モーガンは、ソフィの手のひらの上に鎮座しているローチを見つけて、摘まみ上げた。
「あっ、何すんのよ!虫さんを返して!」
ソフィは、取り返そうとするが、モーガンの背は結構高く、腕を伸ばされたら全く届かない。
「ふんっ、返してほしければ、俺様の言うことを聞くんだな!」
モーガンは、ローチの触角を摘まんだ手を目いっぱい高く上げて、下っ端悪役の言いそうなことを言った。
「ぐ…わ、分かっ…。」
「なんだってー?よく聞こえないぞぉ~?」
「くっ…分かっ―――」
よほど悔しいのか、ソフィは下唇を嚙みながら渋々とモーガンの要求を飲もうと口を開こうとした。
が、そこで
(いや、言うこと聞く必要ないだろ。)
とローチが静止する。
「でも、虫さんが!」
(いやいや、女の子が何でも言うこと聞くなんて言っちゃだめよ?そもそも、逃げようと思えばいつでも逃げれるし。)
「…なら、逃げちゃえばいいじゃん。なんでいつまでも捕まってるのよ。」
(いや、チョットいたずらを思いついたからね~♪)
「えぇ…そんなに余裕あるなら、心配しなきゃよかったぁ。」
「な、なにをブツブツ言ってるんだ!ほら!この虫けらがどうなってもいいのか!早く言うことを聞けぇ!」
焦れたのか、モーガンが大声を上げてソフィに命令する。
『いやぁ、言うこと聞けって言われたって、具体的な内容言ってないのに聞けるわけないでしょ(笑)』
その言葉に反応するように、ローチは微妙にムカつく言い方でモーガンに喋りかけた。
「なんだとぉ!?…って、うわぁっ!ローチが喋ったぁぁ!!?」
モーガンは、聞こえてきた言葉に反応して言い返そうとして、そこから一拍遅れて驚いた。驚きのあまり、ソフィへの人質ならぬ虫質を思い切り放り投げた。
急に放り投げられたローチは、上手に壁に着地し、そこからものすごい速さでモーガンの足まで這い寄り、そこから一気に肩まで這いあがる。
『おいおい、投げちゃだめだよ。生き物は大事にって、おばあちゃんに教わらなかったん?』
「ばあちゃんには会ったことねぇよ!!というか、なんで喋れるんだよぉ!?」
律儀にローチの言葉に反応しながら、アワアワとわけの分からない動きをして振り落とそうとする。が、その程度でふり落ちるはずもなく、耳元で語り掛けられる。
『いやぁ、なんで喋れるのかは俺も知らないのよね。って、そんなに暴れるなよ。カッコ悪いぞ?』
カッコ悪いと指摘を受け、モーガンは途端に動きを止めて赤面しながらソフィの方をチラっと確認する。そして、急に落ち着き、ローチに話しかけた。
「ふんっ!喋れるからってなんだ!しょせんは虫けらじゃないか!俺様の邪魔をするとヒドイ目にあうぞォ!」
が、その声は少し上ずっており、動揺を完全に隠しきれてはいない。さらに、少し震えているようでもあった。
『お~さっすがぁ!好きな子の前だとカッコつけるねぇ!』
が、ゴキブリは、そこにさらなる爆弾を投下した。
「なっ、なななな、何のことだ!?俺様はソフィのことなんか、全然!ちっとも!これっぽっちも!興味なんてないからなぁ!」
『え~?俺はただ“好きな子”って言っただけで、ソフィのことだとは一言も言ってないよぉ?へぇ~。そうなんだぁ、モーガン君はソフィのことが「うるさいうるさいうるさい!」
ゴキブリの言葉の途中で喚き散らし、熟れたリンゴのように顔を赤くしたモーガンが話を遮った。
「もう許さないぞ!この虫けらがぁ!踏みつぶしてやるぅ!」
顔をクシャクシャに歪め、ものすごい形相で睨み、怒りを全身で表している。
そして、床に叩きつけ勢いよく足を踏みつける。何度も何度も踏みつける様は、わがままな子供が地団太を踏んでいる様そのものであった。
その様子からも、モーガンの怒りが最高潮に達していることは一目瞭然だ。
が、ゴキブリは、その地団太を軽々と避けながら、さらに煽っていく。
『あっれぇ?図星突かれたからって逆ギレかなぁ?ププッカッコ悪~い。君が言うには、俺は取るに足らないゴミみたいな虫けららしいけど、そんなのにムキになってる君も虫けらと同レベルじゃないのぉ?』
「くっそぉぉぉぉ!もう許さない!絶対に潰してやるぅ!」
モーガンは、ゴキブリの言葉にさらにヒートアップし、チャンバラごっこで使っていた棒を思い切り振り上げた。
すると、モーガンの体を薄く青色の光が包み込んだ。
すると、取り巻きの一人が
「あっ!スキルを使うつもりだ!虫相手に大人げない…。やめた方がいいですって!こんなところでスキルを使ったら怒られちゃいますよ!」
と声を上げた。
『おぉ!スキルなんてあるのかぁ。異世界転生ものにはお約束だもんな!』
「虫さん、何言ってるの…?」
「謝っても遅いからなぁ!おぉぉぉぉ!『縦振り』ぃぃぃ!」
薄く光を纏ったモーガンが、握った木の棒を思い切り振り下ろしてくる。が、その速度はそこまで早くなく、簡単に避けることが出来た。
モーガンは、渾身の一撃が避けられたためか、目玉が零れ落ちんばかりに目を見開いてゴキブリを見た。
「なっ!避けられた!?」
『なんだぁ、スキルって言うからもっとすごいのを想像してた…。名前もまんまだし…。期待外れだわ。』
暫しの間呆然としていたモーガンだったが、このゴキブリの一言で再び火が付いたようで、先ほどと全く同じ構えを取る。
「くっ、偶然避けた程度でいい気になりやがってぇ!もう許さないぞ!今度こそ本気だぁぁ!『縦振――ドゴォォォン…ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…――「な、なんだ!?」
モーガンが2度目の『縦振り』を放とうとした丁度その時、建物に何か巨大なものがぶつかって、崩れるような轟音が響いてきた。
「きゃぁっ!」
「うわっ!?」
「怖いよぉー!ママぁー!」
子供たちは突然の出来事にパニックを引き起こし、中には泣き出す子までいた。急に村に魔物が来ると言われて避難所に連れてこられたことへの不安もあり、それが一気に爆発したのだろう。子供部屋の中は、手のつけようもない程の混乱状態であった。
何があったのか気になり、扉上部の隙間から廊下に這い出る。
外では、大人たちが何やら慌ただしく走り回っていた。ロビーのような場所では何人かの怪我をした男衆が寝かされており、その中には、少し前にゴキブリのことを追いかけまわしていた青年もいた。
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