第5話 生きるために
(ま、まずは落ち着こう。俺は生まれたてのGで、力がない。あのクソ女神は進化先とか何とか言っていたはず。つまり、進化ができる。…まぁ、でも、まずは生き残ることだけを考えよう。今の状態で進化するために経験値手に入れろは無理ゲー。)
自分が原寸大Gだというショックを乗り越え、まず自分が何をすべきかを考えていた。
ショックから立ち直るのに時間がかかり、目の前では一家が夕食を食べているところだ。
この家には父・母・娘の3人で暮らしており、オートとやらに行った兄が一人いるらしい。農業で食いつないでいるらしく、慎ましいながらも幸福な家庭であった。
父親の方は30代後半程度で、日頃の農作業で
母親の方はかなり若く、20代前半のように思える。かなりスタイルが良く、モデルも
娘は10歳前後だ。金髪のショートヘアで顔立ちはかなり整っている。ソフィと言う名前らしく、外で遊んでばかりいるお
この情報は、この一家の家に潜んでいる間に
「はぁ、ソフィお前も年頃の娘なんだから、そろそろ結婚のことも見据えて家事の練習でもしてみないか?周りの子はもう結婚の話が出てる子もいるそうじゃないか。そう毎日の山を駆けまわっているのを見ると、行き遅れるんじゃないかと心配になるよ。」
「いやよ。私は冒険者になりたいの!つまらない家庭生活なんてまっぴらごめんだわ!」
「でもねぇ。女の子なんだから、あんまり危険な職業は良くないとも思うんだ――」
「いいじゃない、あなた。かわいい子には旅をさせよって言うでしょ?本人の意思を尊重してあげましょうよ。」
「うーん…だがなぁ…。」
どうやら、娘の進路のことでもめているみたいだ。構図は、心配する父VS母と娘。父親がやや
と、視界の端に黒い影が映る。
(あれは、Gか?もしかして、兄弟のうちの一人か?)
兄弟は俺と同じ時に生まれたはずだ。しかし、いまこの家の台所を這っているGはしっかりとした成虫になっている。
兄弟なはずがないと思うが、なぜか、第六感がこいつは兄弟だと訴えかけてくる。
Gは、しばらく台所で野菜クズなどを漁っていたが、しばらくすると食卓に近づいてきた。食べ物の匂いを嗅ぎつけてきたのだろう。
と、父親の腕が一瞬ぶれたように見えた。それと同時に、Gが真っ二つに切断された。
(えっ?なんでアイツが真っ二つに?父親の腕がぶれたような気がしたけど、何があった?)
「あら?この家には結界を張っているから、ローチなんて入り込めるはずはないのに…。結界はしっかり作動してるし、一体どこから入って来たのかしら?」
そう言いながら、母親は右の人差し指を振る、それと同時にGの死骸が炎に包まれた。
恐らく、魔法を使ったのだろう。他の物には一切の被害は無く、Gの死骸だけが灰になって消えていった。
(魔法だ!すげぇ!かっこいい!)
ファンタジーな出来事が目の前で起きて、とても興奮する。
「ん、綺麗に死骸だけ燃えている。精度にますます磨きがかかってるな。」
「あなたこそ。視界の外にいるローチを見向きもせずに始末出来るなんて、腕は落ちていないようね。」
少し物騒なことを和やかに言い合いながら、幸福な時間は過ぎていった。
(って、怖えぇぇぇ!?真っ二つになってたよ!?何したのか全く分からなかった!それも凄いけど、死骸だけボッって燃えたよ!?凄えぇぇ!魔法凄い!俺も使いてぇぇぇ!って、兄弟が殺られたら、俺もピンチじゃん!)
目の前で兄弟が
(そうだ。俺は今はGだ。人類は目の仇にしてくるし、天敵も多いだろう…。生き延びるためには、強くなるしかない。―――でも、Gが強くなれるんだろうか…?あの殺られた兄弟は俺と同時期に生まれたにもかかわらず成体に近い姿をしていた…。と言うことは、何らかの成長を促す要因があるはずなんだ。)
そこまで考えて、ここが異世界だということを思い出した。
(そうだ!レベルアップすればいいんだ!異世界だし、レベルとか経験値とかの概念はあるんだろう!小さな生物から攻撃して行けば、俺でも成体になれるし、何ならゴキブリ以外の進化先も見つかるかもしれない!クソ女神も、人型に進化できるかも的なこと言ってたし!)
レベルアップと進化は、人外転生の
(…何はともあれ、お腹すいたな。生まれてから何も食べてないし…。台所でも漁ってみるか。)
ふとその時、嫌な予感がしてその場から飛びのいた。急いで、さっきまで居た場所を振り返る。
―――そこには、親ゴキの数倍はあるだろうネズミがいた。
小さな山ほどの大きさもある怪物(実際は恐らく20センチほど)だ。そんな巨大ネズミに勝てるはずがないだろう。
全力で逃げ出した。
しかし、ネズミは執拗に後を追ってくる。相手はこちらの何十倍もある怪物ではあるが、G持ち前の逃げ足の早さで何とか追いつかれないでいた。と言っても、生れたばかりの飢餓状態でスタミナが持つはずもなく、タイムリミットはすぐそこに迫っていた。
(くそっ…このままじゃ食われる!どうしよう…あ、そうだ!)
思い付きのまま体を動かし、ある場所へと逃げていく。ぶっちゃけ一か八かだが、このまま逃げ続けるよりはいいだろう。
近くにある椅子――そこが目的地だ。
だいぶ距離を詰めてきたネズミにつかまらないように全力で椅子の脚めがけて走って行く。
ネズミの鼻息が耳元で聞こえ始め、もうじき捕まるであろうそのタイミングで、後ろからズシャッと言う何かを切断するような音と、ピュギュッというネズミの
後ろを恐る恐る振り返ると、ネズミが先ほどのGと同様に真っ二つにされていた。
そう、考えとはこの一家の父親にネズミを倒してもらうことだったのだ。ちなみに、母親は今は皿洗い中だ。
「ぬっ?母さ~ん。今度はネズミがいたよ~。」
「え~?今手が離せないから、あなた、外に捨ててきてよ~。」
「へいへい~」
父親は、ネズミだった塊を掴んで、ドアの外へと捨てに行った。
(ふぅ~。何とか助かったなぁ…。今回はこれでうまく行ったけど、俺も強くならないと…。にしても、あのネズミグロかったな。まだ血だまりが残って―――なんだろう。あの血だまりがとても美味しそうに見えてきた。)
生まれてから何も口にしていないため、
(今ならだれも見ていないし、食べれるよな…。よしっ!飲んでみるか!)
誰もいないことを確認して、ネズミの血を飲む。
飲んだ瞬間に、体に電流が走ったような気がした。
(う、うまい…)
極度の飢餓状態である為か、ただのネズミの血がとてもおいしく感じられた。強い甘みの中に、ほのかな塩味と旨味があり、味に深みを与えている。濃厚でいてしつこ過ぎない程良い後味は、様々はフルーツを混ぜ合わせたミックスジュースのような味わいであった。
(うますぎる…!腹が減ってるってのもあるけど、ネズミの血ってうめぇ!)
あっという間に床一面に広がっていたネズミの血を舐めとり、箪笥の下へと逃げて行った。
箪笥の下はネズミが入れるほど大きくはないし、人間にも見つからないだろう。緊張していた為か、安全な場所だと判断すると急に眠くなった。異世界についてまだ気になることは多くあるが、起きた時に考えればいだろう。
暖かい海に沈んでいくように眠りに落ちた。
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