転生したらアレだった…ウソだろ!?

黒いヤツ(仮)

転生!

第1話 死後の世界はよいところ?

(なんだ…?ここは…白い…?)


 目が覚めると、そこは白いような、何もない空間であった。気温も、時間も、色も、光も、闇も、すべてが無い空間は、どこか寂しさと安心を感じた。目が覚めるという表現も、正しくはないのかもしれない。どちらかと言うと、意識が突然そこに発生したような、奇妙きみょうな感覚であったのだ。


(ここは…死後の世界?そうだ…俺は、落ちてきた看板かんばんから友達を助けるためにそいつを押して…俺は…死んだのか…?)


「やっと気づいたのね。真島まじま大和やまとくん」


 すぐ近くから、あるいははるか遠くから、とてもんだ綺麗きれいな声が聞こえてきた。

もし、女神と言うものが存在するのなら、きっとそのような音で話すのだろう。そう思わせるような、どこか神秘的なひびきをも含んだ声であった。


(誰だ…?綺麗な声だな…)


「あら、ありがとう。私の名前はフィルト。一応女神をしているわ。と言っても、神格化しんかくかしてから間もない、若輩じゃくはい女神なんだけどね。」


(そうかぁ…女神様…って女神!?ってことは、ここはあの世?やっぱり俺は死んだのか…短い人生だった…ところで、シンカクカって何だろ…?聞いたことある気もするんだけど…)


「あら、知らないのね。物質が、ある一定の徳を積んで生物としての次元を一つ上げること…と言っても分かり辛いかしらね。つまり、頑張って神様になることよ。それは、別に動物でなくてもいいの。ご神木とかあるでしょ?あれも神格化、つまり、神様になってるわけ。大きく育って人が信仰することによって、不思議パワーを手に入れちゃったわけね。他にも、剣だとか、時計だとかも神様になったのがあるわ。あ、ちなみに私は元は人間よ。」


(あぁ、神格化か。文字を当てればわかるな。ってことは、俺が神になるとかもできるのかな?)


「できなくはないわよ。ただ、とても難しいでしょうね。並外れた才能と努力が必要だもの。努力も何もせず、有名になっただけで神格化した神もいないことは無いけどね。」


(そうかぁ。やっぱり俺じゃ無理かぁ…って、さっきから声を出してないのに返事が返ってくる…テレパシー?)


「あら、今更?まぁ、似たようなものね。正確にはちょっと違うけど。この場所は、世界と言うわくの外にある場所…概念がいねんのようなものだから、認識は難しいわね。で、この空間では、世界と言う枠の中にあるものが全てないの。制限がまったくかからない状態ね。で、制限が無い故に枠の中のモノはすべてあやふやになる…ほら、人だって、肉体と言う枠にとらわれているでしょ?――で、あやふやになった世界では、確固かっこたる存在を持つものしか行動をできないの。」


(フムフム…中学2年の頭ではさっぱり分かりません。もっと簡潔かんけつにお願いします。)


「ちょ、ちょっと難しかったかしら…?まぁ、つまり、すべてが自由だけど、自由過ぎて、何もできなくなる感じね。」


(ふむぅ…分からないことが分かりました。)


「そう…。可哀想かわいそうに。」


(あわれまないで下さいっ…!同情するなら、カネをくれ…!もしくは僕専用の美少女ハーレムを作ってくれ…!)


「あ、あなた…案外自分の欲求に正直なのね…。最近の子供って、もうちょっと内気なのかと思ってたわ…。」


(まぁ、最近の子供にも、いろいろ種類があるんですよ。みんなが同じようなものだと思ったら大間違いです。…で、なんでそんなところに俺はいるんですか?)


「えぇ…そうね。個性って言葉があるものね…。で、君がここにいる理由なんだけど、これは、少しの手違いのせいなの。まぁ、君の自業自得も無いわけでは無いけど。」


(えっと…?それはどういう…?)


「それは今から説明するわ。あなたの死因は分かってるわよね?さっき自分で言ってたんだし。」


(えぇ…そりゃあ、はい。友達を助けようとして、看板にプチッとやられたんです)


「そう、そこで本当に死ぬのは、友達の方だったの。いわゆる勇者候補と言う奴ね!あなた達の世界で流行っているでしょ?上位神が偉くお気に入りでね。そこで、既存きぞんの世界から面白そうな人材を集めて、新しい世界に転生させようって話になったのよ。」


(ん…?つまり…俺はお呼びでなかったと…?)


「えぇ、そうね…そうなるわね!」


(なっ、ふざけんな!ならさっさと生き返らせろよ!と言うか、人間を玩具おもちゃみたく扱うなよ!)


「ま、まぁまぁ、落ち着いて?実行しろって言ったのは上司だし、私は悪くないわ!そもそも、私は反対だったのよ!人間を玩具にしたら、絶対に抗議こうぎが来るって言ったのに、それをあのクソ上司ったら『面白いからいいじゃん。』の一言で片づけやがったのよ!誰がその対応をすると思ってるのよ!」


(知らねーよ!そっちの都合なんか知るかよ!?そもそも、反対しきれなかったお前にも責任があるだろよ!)


「あー!今、お前って言ったわね!うるわしくもはかない女神さまに向かって、お前呼ばわりしたわね!何よ!?私は悪くないわ!神の仕事ってとっても大変なんだから!上司の言葉はどんなムチャでもはいはいって快諾かいだくしなきゃいけないし、休憩もできないし、家に帰ることすらできないし、たまの休みにも仕事は降って湧いてくるし!今日も休日のはずなのに、あなたみたいなおバカクレーマーの対応させられてるのよぉぉ!」


(うるせぇ!知るか、そんなもん!そもそも、お前がしっかり反対してたらなかった仕事だろうがよ!そもそもが、そんなブラックな職場についたお前のミスだ!)


「私だって、好きでこんなところに配属されたわけじゃないわよ!ひとの事情も知らないで!」

(お前も、こっちの事情は考えてねぇじゃねぇか!)


このみっともない争いは、しばらく、女神と大和が疲れるまで続いた。

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