ぼくバージョン2.0

シヨゥ

第1話

 日が落ち涼しい夜風を感じ始めた頃、ぼくは浴衣に着替える。

 きょうは地元の夏まつり。人混みはきらいなのだが夏まつりの人混みはなぜだか好きだ。むしろ心が躍る。人混みの中を縫って出店をめぐるのがたまらなく楽しい。今日もその楽しみを目当てにこうして準備をしている。

 ただ浴衣に着替える意味はあまりない。むしろ楽しむなら洋服のほうが動きやすくて都合がいい。それでも着替えるのは心から楽しみたいからだ。まつりの中を歩き回るぼくは、ぼくであってぼくじゃない。ぼくバージョン2.0のようなものだ。浴衣をまとうことでバージョンアップ、いや変身するのだ。


 浴衣に着替え姿見の前に座る。このままではぼくバージョン1.7ぐらいだ。まだ変身が中途半端。これではすぐに変身が解けてしまう。だからぼくは化粧をする。

 変身願望の強いぼくは普段からうすく化粧をしている。男が化粧なんてという時代は昔の話だ。男の肌に合う化粧品も少なからずある。その中からこれだというものを選んできた。技術もそれなりだと自負している。その積み重ねでぼくはバージョン2.0になるのだ。


 すべての準備を終え外に出る。遠くから祭ばやしが聞こえてきた。

 完全に夜の帳が落ち丁度いい時間だ。ぼくはゆっくりと歩き出す。

 まつりを開催している神社。そこまでの道中で必ず何人かの知人とすれ違うことになる。だがけっして声をかけたりしない。それは声を変身させることはできないからだ。

 ぼくが付き合いたいと思う理想の女性の顔。それがぼくバージョン2.0。

 知人も振り返る美貌でぼくは夏まつりを楽しむのだ。

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