第60話「識らない場所」
「なに、ここ……」
私達が出た場所はおかしかった。
そこは、森に囲まれた平原だった。
円を描くように草原を囲む森、すりばち状になっていて、結構離れた場所に建物の廃墟らしきものが見える。
規模的には大きくないし、魔獣なんかの明らかな危険は無い。
でも、そこに出た瞬間、私の中のなにかが『ここはまずい』と告げている気がして動けなくなった。
「…………魔法使いの魔境だ」
深刻な口調で呟いたトラヤを見ると、見たこともないくらい恐い目をしていた。どこか怒っている、普段の彼女からは想像もつかない雰囲気。
「イルマ、気を付けて。多分ここ、悪い魔法使いの工房跡だよ。しかも、まだなんか残ってる」
やや早口で言いながら、トラヤは杖を掲げ先端の宝玉に光を灯した。いつでも魔法を使える臨戦態勢だ。
「どうする? どうにかして脱出する?」
魔境計を見てみる。針の揺れ方はさっきより落ちついている。危険だが、魔境としては安定しているということだ。つまり、どこかから抜け出すことができるはず。
「そうだね。まず抜け道を確保しよう。それからできたら様子見を……」
油断なく周囲を見回しながら話していたトラヤの口が止まった。じっと、中心にある廃墟の方に目を向ける。
「なにかあったの?」
「あの廃墟の方、人がいる。なんか、戦ってるかも……」
言われて廃墟の方を見てみるけど、距離がそれなりにあるためか人は見えない。壁なんかが結構残ってるからか、戦ってる様子も確認できない。
「冒険者が私達みたいに巻き込まれたのかも。……行ける?」
腰のバッグに手を入れて、爆裂球を用意しながら聞くと、トラヤは笑みを浮かべた。
「うん。助けに入って、廃墟の中を見てから撤退しよう。わたしがゆっくり先にいくから、ついてきてね」
「わかった。いざとなったら全部ぶっ飛ばすわ」
「他の冒険者さん達は巻き込まないでね……」
トラヤの注意に頷いて、私は手に持った爆裂球を少し減らした。
私達は謎の魔境の中をゆっくりと進む。目標は少し先の廃墟。障害物は無し。いつもなら、魔法使いの能力で警戒しつつも軽々と進むトラヤの足が重い。
なにもなさそうな場所になにかあってもおかしくないということだ。
時間にして十分くらいだろうか。小さな魔境だったことが幸いして、私達は廃墟の側に辿り着いた。石造りだった建物は今は壁と柱を残すのみ。見た感じ、床もほとんどなくて土がむき出しになっている。
植物がまとわりついていて、時間で朽ち果てたのか、なんらかの破壊でこうなったのかは、ぱっと見ではわからない。
「音が聞こえるね。防御用の錬金具を用意するわ」
「うん。わたしも最初は守る方でいく」
建物に近づくにつれて、戦っているらしき物音が聞こえてくる。
壁の向こうなんで具体的な人数はわからないけど、複数みたいだ。
「じゃ、私から行くから。状況見て駄目そうだったら撤退ね」
「うん、頑張ろうね」
そんな言葉を交わして、私は崩れた壁の裂け目から向こう側に抜けた。
「なにこれ、不定形? ……でもない」
私が目にしたのは三人の冒険者。それと、半透明なぐにょぐにょした人型だった。スライムっていう魔法生物を聞いたことあるけど、それとは違う。もっと人間に近い。
三人の冒険者の攻勢は剣を持っているのが二人。杖を持っているのが一人。剣士と錬金術師だ。
全員傷だらけで装備もボロボロ。立っているのがやっと。錬金術師の子が杖を持って戦う構えだ。多分、錬金具でここまで持ちこたえたんだろう。
「とにかく、まずは結界、発動!」
「とりあえず、氷らせる!」
私が結界の錬金具で冒険者と魔法生物の間に壁を作るのと、トラヤが氷の魔法を発動するのは同時だった。
半透明の人型は私の投げた錬金具で出来た壁に動きを遮られ、トラヤの杖の先端の宝玉が輝き、足下から凍り始める。
「な、なんだ!?」
「え、え、助け?」
「冒険者さん、下がって! イルマ、壁作るから吹き飛ばして!」
言葉に続き、トラヤが魔法生物に風の魔法を叩き込む。凍った足を砕きながら、魔法生物が下がったのを見て、更に土の魔法を使い、魔法生物の周囲に土壁が作られる。
魔法でできた土壁は頑丈だ。私の爆破に耐えられるくらいに。
「冒険者さん達、伏せて! いけぇ!」
とりだした爆裂球を一つ、トラヤの作った土壁の向こう側に投げ込む。
「発動!」
轟音と熱気と衝撃波が廃墟に響き渡った。
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