第21話「採取場で爆破しよう!」

「紅鉱石は魔法の触媒にもなるから、わたしも助かるからねー。しかし、ここは豊かな魔境だね。現物がその辺に転がってるもん」


 言いながら、トラヤがその辺に転がっている拳大の紅い石を手にとって見せてきた。

 石はすでに誰かが割った物で、断面に僅かだが紅色の水晶のような筋が走っている。

 

 紅鉱石。これがこの魔境で獲れる特殊な素材だ。

 利用価値が非常に高く、例えば錬金術を使うとこれから特殊な鉄を作り出すことができる。 錬金鉄と呼ばれるその素材は大型の錬金具を構成する素材として欠かせないし、良質の武器の原料になる。

 私も個人的に色々使いたいし、どうせなら良質なものをということで、トラヤに良さそうな場所を見つけて貰っている最中である。


「ところでトラヤ。魔法使いが紅鉱石を触媒にするとどうなるの?」


「この宝玉に取り込んで、火の魔法を強くしたりとかだね。単純に紅鉱石で長く続く明かりとか火種を作ったりとか色々だよ」


「その辺は錬金術と一緒だね」


 魔法という技術は経由しないけれど、紅鉱石を用いた錬金具には似たようなものがある。 こういう話を聞くと、錬金術が魔法由来だという話が少し実感できる。


「問題は紅鉱石が重いことだけど、トラヤが魔法で運んでくれるのも助かるな」


「沢山は無理だけれどね」


 今日のトラヤは大きく頑丈な籠を背負っている。なんでも杖を浮かばせて、この籠をぶらさげて運ぶそうだ。本来は自分が空を飛ぶための魔法らしい。採取用の鞄も見た目より大きく入るけれど、重さはあんまり誤魔化せないためこうするそうだ。


「トラヤさ、空を飛べるのに、なんでいつも歩いてるの?」


「イルマと一緒に歩きたいから」


 ちょっとした疑問を口にしたら、思いの外素敵な笑顔で素敵な答えが返ってきた。

 なんか嬉しい。が、空を飛ぶというのも気になる。今度二人乗りできないか聞いてみよう。

「あ、あったあった。凄い魔力の集まりを感じる。ここだよ!」


 自分の背丈の倍以上ある岩が転がる中を歩き回り、巨大な岩山の麓に到着すると、トラヤは岩壁を指さして力強く言った。


「なるほど。……小さなハンマーじゃどうしようもないくらい相手がでかいんだけれど」


 岩山を相手にするなら石切場でも作らなきゃならない。多分、トラヤが指さした場所をどこでも掘れば良質な紅鉱石が採れるというわけでもないだろう。


「ここでわたしの出番というわけだよ。そこに居てね、魔法で崩しちゃうから」


「あ、私がやるからいいよ」


 こちらと岩壁までの距離を確認し、私はローブの中に保管していた爆裂球を一つ取り出して、杖の宝玉と接触させ準備をする。


「よっしゃ、いけっ!」


 思い切り放り投げて、良さそうな場所に落ちたのを確認。


「よし、そこの岩陰に隠れよう」


「え、うん」


 トラヤと共に近くの大岩の影に隠れ、爆裂球を起動した。


 轟音と共に、岩壁の一部が崩れた。衝撃波と熱気が私達の横を抜けていく。

 頭の上に小さな石がぱらぱらと落ちてきた。


「よし。上手くいった」


 岸壁の一部が見事に崩壊し、採取しやすそうになっていた。


「じゃあトラヤ、あの中から良さそうなのを選んで……どうしたの?」


 相棒の方を見ると、なんだか引きつった顔でこちらを見ていた。


「イルマって、躊躇無く爆弾とか使うよね」


 失礼な、という言葉を飲み込んだ。今日に至るまで、何度かトラヤと魔境にでかけているが、ことあるごとに私が爆裂球を使っているのは事実だ。基本、魔獣を見たら即投げる方針である。


「まあ、仕方ないよ。これは趣味だから」


「趣味!? イルマは常識的な人だと思ってたのに……」


 まるで身近に非常識な人がいるみたいな言い方が気になったが、黙っておく。

 あと、錬金術で作った爆裂球と火薬を使った爆弾は似て非なるものだ、という説明もしたかったがそれも我慢した。


「採取が終わったら、ちゃんと事情を説明するよ」


 鞄からハンマーを取り出して私が言うと、「事情があるんだ……」と言いながらトラヤもそれに続いた。

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