第8話 迷路!
「「あーんは!?」」
「いや、恥ずかしいからしないけど?」
「「さっきはしたのに!?」」
「そうだな。さっきは妹みたいに扱って悪かった」
「「妹さんにはするんだ!?」」
「相変わらず仲が良いな。ステレオでしゃべるな! ハモっているし……」
「はっ。私としたことが……はしたない」
「むむむ。幼なじみなのに……」
渋々、ドリアンを頂くとその甘みに驚きの声をあげる。
「臭みがあるが、うまいな。これ」
「そうね。臭いけど」
「そうですね。臭味がなければいいのですが……」
「我も食べるかな」
興味を示した菜乃が一切れもらい食べる。……が、
「どこがおいしいのか分からないかな。分かる人は嗅覚が死んでいるんじゃない?」
「なっ! 俺は死んでなんていないぞ。ちゃんと臭みを嗅ぎ分けている!」
「こんな臭いもの、好きではありません。ですが、もったいないから食べるのです」
「そ、そうよ。もったいないから食べるのよ!」
嗅覚が死んでいると言われて、はじかれたように意見をひるがえす三人。実にくだらないことで見栄をはるのだった。
食事を終え、園内を見て回ると、迷路があった。高い木組みでできた迷路だ。入り口が四つある。
「何々? 〝どきゅっどきゅっの迷路だよ〟か」
入り口には初心者・中級者・上級者、そして〝ハーレム向け〟の四つがある。
「は、ハーレムってなんだよ? なあ?」
「「「ははは」」」
乾いた笑いを浮かべる女子三人。
「おう。お前なら迷わずハーレム向けだろ」
いつの間にか合流していたたけるがそう呟く。
とんっと背中を押され、ハーレム向けの扉をくぐる。
「お、おい!」
ギブアップ用にこの扉をくぐることもできるが、一度入った道。せっかくなら楽しんでもいいんじゃないか? そう思い俺は前を向く。
「きゃ」
「わ、私もですの!?」
「我もハーレム要員かな」
三人もついてくるではないか。
「どうやら男一人と女数名で楽しめる迷路みたいね」
明理が判断すると、
「もちろん私たちに不可能なんてないです」
「やるかな! おー!」
みんながやる気になっているので、今更降りたいと声を上げることもできない。
「分かったよ。もともとやる気だったし。頑張りますか」
俺たちは前を向いて歩き出す。
迷路とはいえ、人間が作ったものだ。簡単でなくとも進められるだろう。
そう思っていた自分が甘かった。
「ええと。何々。この門をくぐりたくば、女子一人とお姫様抱っこを一分!?」
俺たちの前に現れたのは木製の門だ。今は閉ざされている。
その横にはギブアップの門もある。
「わたしが!」
「いいえ。私が引き受けます!」
「はい。じゃあ、菜乃で決まり!」
「「ええ~! そんなぁあ~!」」
不満の声を漏らす明理と高坂。
だが、痩せぽっちの俺に支えられる体重など決まっている。
おっぱいの明理と、太ももの高坂。それなら小柄な菜乃一択なのだ。これは断じて逃げではない。
「一番控えめだからな」
「む。どこがひかえめなのかな?」
あ。バレている? でも控えめなボディも嫌いじゃないぞ。
俺は菜乃をお姫様抱っこすると、タイマーが動き出す。
「うぉおおぉおおぉぉぉおおお」
雄叫びを上げ、菜乃を抱っこすること一分。
なんとか耐えてみせた俺は、拍手を受けることになる。
「わたしじゃなくて良かった」
「まだ、絞れますもの」
「……」
複雑な気持ちで二人を見やる菜乃がそこにはいた。
ぎぃと木材がきしむ音を立てて扉が開く。
『おめでとー! これで第一関門突破だね!』
迷路の中というのを忘れて楽しんでいたが、まだ道には先がある。つまりこれで終わりという訳ではないのだ。
先に進むと、左右に分かれた道がある。右に行ったが行き止まり。左に行くが、決して迷ったわけではない。繰り返しになるが、迷ったわけではない。
「あれ。こっちじゃないのか?」
「困りましたね。道が分かりません」
「そんなことを言って祐介に抱きつくな」
「愚かな争いかな。止まれ」
明理と高坂がいがみ合っている間に、何かに気がついた菜乃が草むらの先を指さす。
「ここ道じゃないかな?」
「なるほど。確かに木の板がない。仕切られている感じはないな」
菜乃の言うとおり、そこには道が続いている。ただし草が生え放題の獣道、といったところか。
その道を通り抜けるとまたもや門が邪魔をする。今度は何をさせるつもりだ。その隣にはギブアップ用の門もある。
「何々? 全員の名前を下の名前で呼べ?」
「そんなの簡単ですね」
「明理、菜乃、こ、高坂」
『ブーブー!』
「へっ?」
高坂の抜けた声が漏れる。
なんで私だけ名字なの? と問うているのは明らかだった。
「こ、高坂。下の名前はなんていったっけ?」
「
残念そうに呟く高坂。いや麻里奈。
「確かに覚えたぞ。今度からは麻里奈って呼ぶからな」
「はい。そうしてくださいな」
「明理、菜乃、麻里奈」
再度、扉に向かって話しかけると、今度はピンポーンという音とともに門が開く。
「この迷路はいったいどうなっているんだ?」
「さあ。分からないわ」
「なんだか私たちの関係を監視されているみたいでいい気がしないです」
そう。この門には機械の要素を感じられないのだ。まるで一人の人間と対峙しているような……。
しかし、そんなのを考えていてもしょうがない。
俺は前へと進む。
と、目の前にはまたもや門が訪れる。
「えーと。何々? みんなでキスしよう! これでキミもハーレムルートだ!」
めきめき。
『ちょっと! ガイドを破壊しないでください』
俺は立て看板に怒りをぶつけたが、門が注意してきた。
「どうしてこうなる。キスなんてしたことがないぞ」
「ふふ。それはどうなんだろうね?」
「へ……?」
「小さい頃、したもん」
明理の声に記憶のピースをたどる。
「そんなはしたないことをしたのですか!?」
「我も聴いていないかな!」
憤慨する真莉愛と菜乃。
「ふふ。お子様ね。じゃあ、これで終わりね」
明理は顔を近づけると、チュッと唇に唇を重ねる。
暖かく柔らかな質感が、脳を支配する。
「まあ、前にしたのはほっぺだったけどね」
「ずるいです!」
「ひどいかな!」
「これでここの門は突破ね」
「あ、ああ……!」
俺は困惑したまま、門に向き合う。
『いえ。全員としないと開きません』
「はい?」
『だから全員とでないと開きませんよ』
「マジか……」
『マジです』
俺は頭が痛くなる思いをした。
明理の恥を無駄にしてしまう。こうなったら……、
「やるよ。菜乃、真莉愛」
「え。え――――――――っ!?」
「混乱中かな!?」
二人して困惑の色を見せる。
そりゃそうか。好きでもない二人に迫られて文句を言わない方が珍しい。
「分かった。じゃあギブアップしよう。隣に門があるし」
ギブアップの門に手をかける俺。
「いや、待ってください。私は大丈夫ですから」
「我も覚悟を決めたかな!」
「ありがとう。二人とも!」
俺はつい二人を抱きしめる。
「どっちから行く?」
「私が行きます」
真莉愛が顔を近づけ、そっと唇に触れる。
ぷっくりとした唇からは多幸感にあふれる思いが届いた。
「次は我かな!」
若干興奮した様子の菜乃。
本当に大丈夫なのだろうか?
菜乃とも口づけをする。やはり暖かく柔らかった。
『ピンポンパンポーン! ハーレムルートお疲れ様でした! 前へお進みください』
そんなアナウンスが流れ、俺たちは目の前の門をくぐる。
外に出るとたけるがニヤニヤした顔で待ち受けていた。
「よ。どうだった。ハーレムルートは?」
「……悪くないかもな」
俺はばつの悪そうに呟く。
女の子たちの反応はどうだろう?
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