第7話 ファミレス!
ネットを使い園内の飲食店を調べる。
どれも星三つや二つだ。こうした観光地では飲食店の需要が高まり、結果、高値で売られていることが多い。それが低評価につながっているらしい。
そんな中、一店舗だけ星四つの場所がある。
園内の端、西区のジャングルエリアの土産店の隣にある飲食店「マジカル・ラビリンス」というところにある。
俺がそこを勧めると、たけるが割って入る。
「ここか? 確かに品ぞろえは少ないが値段とうまさは保証付き……か。いいぜ。ここにしよう」
「たける」
「なんだ?」
「テンション高いな。お前」
「いいだろ。おれだって楽しめた方が嬉しいんだ。それに約束もあるし」
約束? 何の話だ。俺は聴いたことないぞ。
「そら。行くぞ」
たけるが歩き始めると、一同ついていく。
普段のたけるはおとなしく、人の話についていくだけの存在だった。イケメンでありながら奥手であるその様は女子の人気も高い……のだが、なぜか恋には発展しないパターンが多い。それはたけるが積極的ではないから、女子の方から誘う勇気がもてずにそうなるのだ。
俺の最大の敵はたけるだ。
彼のやることなすことが俺の琴線に触れる。端的に言うと嫉妬をしてしまうのだ。
だから俺は彼女らを逃がしたくない。このチームのリーダーは俺なのだ。
そんな凡庸でくだらないもののために生きていられたらどんなにいいか。
俺にはやらなければならないことがある。
でも幼なじみの明理を始め、菜乃、高坂も俺に恩義を感じているだけ。だから俺はいつまで経っても恋を始められない。
だがたけるは違う。少し暗い性格をしているが、気立ても良く、真面目だ。
「たく。たけると一緒にいると熱くなるぞ」
「なんか言ったか? 祐介」
「ああ。お前はサイコーの友達ってことさ」
「なんだよ、相棒。今日はやけに素直じゃないか」
「うっせー」
「男のツンデレとか需要ないわー」
「ホモ……?」
菜乃がぽかんとした顔で呟く。
「はっ? なに言ってんの?」
たけるがワントーン落として言う。
「ひっ。ご、ごめんなさい! 殺さないで!」
「い、いや。そこまで怖がらせるつもりは……」
「菜乃は繊細なんだ。もう大丈夫だぞ、菜乃」
「ひっぐ。ありがとうかな」
「良かった。いつもの菜乃に戻ってきた」
「あんた。菜乃を泣かせるなんてサイテーね」
「おいおい。先にけんかを売ったのは菜乃さんだろ」
「いいや。さっきのはお前が悪い」
「は? おれとお前がホモだと思われて嬉しいのか?」
「その需要はおいとくとして……。話せば分かる話じゃないか」
「……それもそうか。わりぃ。おれ一人で食べるわ」
「あ。ちょっと!」
隣で見ていた明理が、手を伸ばしてたけるを捕まえようとするが、するりと抜ける。
「いいの? 一人でいかせて?」
「いいよ。あいつは自己解決するタイプだからな。俺らが余計なことを言うとかえってこじれるさ」
そう言って、俺はマジック・ラビリンスにたどり着く。
「ここが噂のハウスね」
明理が意味深に言うが、ただのファミレスだ。とは言っても、メニューは少ないが。
入ってみると店員さんに案内され座席につく。
俺の隣には明理、正面には菜乃、向かい斜めには高坂が座る。
メニューを開き、みんなで注文を考え始める。10種目の中から選ぶとあり、みんな真剣になっていた。
決めると店員さんを呼ぶ。
「俺はデミグラスハンバーグ」「わたしはナポリタンスパゲティ」「我はドリア」「私は和風ハンバーグで!」
和風ハンバーグ!? そんなのメニューになかったような気が。
「かしこまりました」
かしこまっちゃった!? てか用意できるのかよ。なんてこった。
「和風ハンバーグなんてあったかな?」
「わたしに聴かれても……」
「ふふ。ここの隠れメニューですよ。ネットで調べるとでてきます」
なるほど。それは盲点だった。
しかし、
「同じハンバーグ好きに会えて光栄だよ」
「え!? そ、そんなぁ……」
俺は手を差しのばす。
「はいはい。あんたのハンバーグ理論は嘘だから」
「「ハンバーグ理論?」」
菜乃と高坂が二人して疑問の声を上げる。
「ハンバーグを食べる人に悪い人はいない、って。本気で思っているから厄介なのよ」
「それはホントだぞ。現に優しい高坂も選んだじゃないか」
「そ、そんな風に思われていたのですね! 光栄です!」
「だぁああぁ! もうやめい! 意味分からんわ!」
俺と高坂のなれ合いを嫌った明理がツッコむ。
「お待たせしました! ドリア
と横合いから店員がやってきて、ドリア
「ええっと?」
「ドリアンです!」
そう。そこに置かれたのはあの〝果実の王様〟と呼ばれている、臭く、とげとげしい果実である。
「「「…………」」」
俺、明理、高坂が硬直している間に菜乃がハッとひらめいたような表情を浮かべる。
「我の注文したドリアは……?」
若干、涙目である。
「ドリアンですよね? ここにはそれしかおいていませんが……」
菜乃が慌ててメニューを開くと、確かにドリアンのイラストが載っている。文字も「ドリアン」になっていた。
マジですか。これどうするのさ。
「では。ごゆっくり~」
店員さんは我知らずに立ち去っていく。
交換は難しいだろう。それに代わりを頼むにしても、俺たち高校生に裂けるお金はない。となると……
「そ、そうだ! 俺とシェアしよう」
「へ。我と?」
「「はい!?」」
呆けている明理と高坂を無視し、菜乃に詰め寄る。
「このハンバーグを半分あげる。そしてドリアンは俺が責任を持って食べる。いいだろ?」
「うん。分かったかな。じゃあ、頂きます」
俺は自分のナイフとフォークで綺麗に切り分けると、それを菜乃に差し出す。
「はい。あーん」
「へ!? え! あー」
小さな口を開ける菜乃。そこに流し込むようにハンバーグのかけらを送り届ける。
「うまいかな。ありがと……かな……」
嬉し恥ずかしそうに頬張る菜乃。
しまった。妹みたいに扱ってしまった。これは良くない傾向だ。
「あ、あとは自分で食べるんだな」
そう言って半分に切り分ける。もちろん白米も半分こだ。
「うん。ありがと」
にへらと笑う菜乃。
「ん?」
何やら正面二人からの圧力がすごい。
「わたしもドリアンにすれば……!」「私だって……!」
何やらぶつくさと呟いていて、怖かったので、自分のハンバーグに専念することにした。
「で、でも菜乃もハンバーグだから、ハンバーグ論は正論だね!」
「なっ!? それじゃ、わたしだけがのけ者じゃない! 待遇改善を要求するわ!」
「ええと。そうだね?」
「なんでしどろもどろになっているのよ!?」
「ハンバーグ好きには悪い人はいない……つまり、それ以外の人には触れていないからな」
「なにおう!」
「それよりもそのドリアンを処理してほしいです」
と、高坂が鼻をつまみながら、とげとげのものをつつく。
「確かに」
その匂いによって食欲もげんなりしていたところだ。
俺はナイフを突き刺すと、そのまま半分になるまで手とナイフを使ってバリバリと皮を剥ぐ。
そして中身を取り出すと、そのまま皿へ移す。
「でぁ。どうだ? これで食べられるだろ」
「ふふ。やるわね。さすが祐介」
「祐介さん。私も食べてみていいですか?」
高坂が興味を示してドリアンの中身をつつく。
「我はいい……」
見るのも嫌になった菜乃は自分の世界にこもる。
「明理も食べてみるか?」
「え。もしかして、あーん……? ……うん! 食べたい!」
何やら間があったが、興味を示したようだ。
「じゃあ、はい」
俺は切り分けたドリアンの一部を明理と、高坂の皿にドンッと乗せる。
「ほら。食べよ」
「「あーんは!?」」
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