第10話 久方ぶりの晩餐

《ふふ、お父様お母様かぁ》

 晩餐質へと続く廊下を側付きのエイラを従え歩くわたしに、女神様がお声がけなされた。女神様はこれ以上に大事にはしたくないと、聖神殿関係者の外では顕現なさらないとのこと。今のうちにわたしにお言葉をくださるのだろう。


《いや、アタシは両親っていうの、ほとんど知らないからね。リスタの今の思いがかゆいというか、なんというか》

 天上の至高の存在であらせられる女神様の家系には、現世の華族関係など取るに足らない事なのだろう。

 

《まぁ、何にせよ構えすぎないことだな》

 貴族院から無期停学処分となり聖神殿で謹慎の日々を送るという、貴族の子にあってはならないとがを受けた、わたくし。謹慎が明けてはじめての素領地の生家に帰ったわたしの身体は強張っていたのだろう。女神様にお言葉をかけていただき、わたしは少し楽な心持ちとなった。……そう、聖神殿で顕現なされた女神様により、わたしは貴族としての偏狭な矜持からは解放されつつあるのだ。

 

 晩餐室では、当主であるお父様とイヴァンナ様とが談笑なさっていた。アールトネンの伯爵邸に降り立ってからのイヴァンナ様は、わたしの護衛騎士ではなく中級貴族としてお父様の客人となられている。わたしは、お二人に入室の貴族礼をした。お父様は鷹揚に頷かれ、イヴァンナ様は微笑みの黙礼を返してくれた。

 お父様の側付きにより、わたしはお父様の右手前、すなわちアールトネン伯爵家の第一継承権者の席へと案内された。エイラもわたしの後ろに立つ。

 

 続いて、弟のイサーエヴナが入室し貴族礼をした。イサーエヴナは、わたしの隣の第二継承権者の席へと座る。

 

 そして、お母様が入室なされ、晩餐の主の礼をした。その後ろに従い貴族の礼式服を身にまとった御方の清廉な貴族礼の美しさにわたしは目を奪われた。タルヴィッカ様だった。

 

 聖神殿で育ち高い魔力を持つ者は、貴族の側付きとなると、一代限りの准男爵じゅんだんしゃくに任じられることが一般である。そのため、タルヴィッカ様も貴族となるための教育を受けてこられたのだろう。けれども、そんなことは関わりなくタルヴィッカ様の所作しょさはお美しかった。


 タルヴィッカ様がイヴァンナ様の隣の席へと案内されると、晩餐の準備が始まる。


 ✧

 

 天上におわす神々へのお祈りを唱えた後、お父様が食前の飲み物の入った容器を口にした。

 

 生家での久方ぶりの晩餐が始まった。

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