【閑話】出立の準備 ✧付記✧リライトの方針
聖神殿長様がわたくしをお赦しになられたならば、すぐにでも聖神殿を出るものと思っていた。お目付け役でもある護衛騎士のイヴァンナは、聖神殿長様と話した後にすぐに出立できるよう準備をしているとは言っていたし……
けれども、聖神殿長様がわたくしに「至高の御方」が顕現なされたと仰ったことから、事情が変わったらしい。その日の午後は、本来は聖神殿長様の側付きであるミルシェとイヴァンナとが忙しく何やら調整してくれていた。
女神様は、聖神殿長様の閉鎖球という聖なる空間にいたためにさらに御力を増されたようで、ひとり執務室で呆け気味だったわたくしに声をかけてくださる。
わたくしは、人払いをして隠し部屋にひとり篭もり、女神様と共に魔力を圧縮する練習をすることにした。女神様も魔力を圧縮することはやはり大事だとお考えのようだ。
✧
結局、聖神殿からのわたしの出立は、5日後ということになった。聖神殿長様が聖なる術式を準備し、再び至高の御方と対話をなさりたいとのことだった。至高の御方であられる女神様も同意なされた。
わたしは、朝には女神様と魔力圧縮の訓練を行い、その後は聖典を書写した神話を読み返すことにした。午後には、護衛騎士となられたタルヴィッカ様に魔導剣士としての心構えを教わったり、基礎訓練をつけていただいたりした。
タルヴィッカ様ははじめてお会いした時の印象のままの御方だった。もの静かながらも凛とした佇まいをお持ちだった。けれども、話をすると若輩者のわたしに、気さくに話してくださる。
タルヴィッカ様は神殿の孤児であるため身分としては平民とのことだったが、わたしにはとてもそうは思われなかった。
タルヴィッカ様との日を送るうちに、わたしの中の「平民」の位置付けこそが間違っているのだと心かか思えるようになった。タルヴィッカ様は、身分秩序など関わりなく、ただただ尊い御方。人の尊卑は与えられた身分で定まるものではなく、その人の生き方で定まる。わたしは心からそう思うようになった。
タルヴィッカ様のように在りたい。
そう思うわたしは、わたくしは、いつしかタルヴィッカ様を、わたくしの聖なるお姉様と、お慕いするようになっていた。
✧
聖神殿長様が用意なされた聖なる術式の空間で、女神様と神殿長様は再び対話をなされた。術式の空間に入った時から、わたくしの意識は途絶えていった。聖神殿長様は、至高の御方としての女神様と直接にお話をする術式の構築なされたのだろう。
その晩、聖神殿では最後となる湯浴みをしていたわたしに女神様は話しかけてこられた。
《しかし、リスタはいろいろと惚れっぽいよな。アタシを女神だと崇めたり、タルヴィッカにはメロメロだし》
女神様はいつも慎まやかだ。御自身を女神だと誇ることもない。しかし、メロメロとはなんだろう。何かの果物のような響きだけれども。
《ま、かつてのアタシもそうだったなということかな。今のアタシはほらユウレイみたいなものだからな。ユウレイのアタシから惚れっぽさが漏れ出てリスタに取り付いているのかなって……》
ユウレイ? 女神様から、また聖なる響きを持つ御言葉を発せられた。何であるにせよ、女神様からの恩寵を受けられていることは、とてもありがたいこと。
《ユウレイって、ここにはいないんだったな。そうだな……リスタのその熱病は、アタシが原因かもしれないということさ》
わたしを、わたくしを火照らせる身体の熱。これは至高の御方であらせられる女神様の恩寵……
《あらせられるが始まると、また、熱で倒れるからそろそろ湯浴みはそれくらいにしておきなよ》
女神様のご指示に従い、わたしは湯浴みを終えた。
その晩、聖神殿長様の聖なる術式の話を女神様はなさらなかった。若輩者のわたしにはまだ早い、ということなのだろう。
✧
翌朝、これまで側付きとしてわたしの身の周りを整えてくれたミルシェとセシルとベリタに、今度こそ、最後の礼を言った。
そして、護衛騎士のイヴァンナに先導され、わたしは、タルヴィッカ様と共に、素領アールトネンへと向かう馬車へと乗り込んだ。
護衛騎士であるイヴァンナは、アールトネンから来た他の護衛騎士たちと共に、別の馬車だった。
客車でわたくしは、タルヴィッカ様と2人きり。わたくしの実家がある素領アールトネンへと向かう馬車の途は、至福の時と思われた。
✧付記✧ リライトの方針
本作の更新が滞ってしまったのは三角関係の悩み、でした。
もちろん、私自身の悩みでなくポンコツ令嬢リスタリカにまつわる三角関係。
三角、トライアングル、書き切るのって、難しいですね。
でも、整いました♪
リライトで、今度こそ綺麗な三角関係をお見せいたしたく。
かしこ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます