第4話 聖神殿最後の夜は崇高にして?!

 執務室に戻ると、夕食の時となっていた。側付き巫女のセシルとベリタの2人がテーブルの白い布の上に、給仕を進めてくれている。

 

 給仕が終わる頃には、側付き筆頭のミルシェも戻った。わたしの背を守るイヴァンナを合わせ、聖神殿でのわたしを支えてくれた側近たちが揃った。

 

 ✧

 

 ゆっくりと噛みしめるながら、わたしは夕食を食べ終えた。


 わたしは、明日に聖神殿長様からのお許しが出れば、貴族院に戻ることになる旨を伝え、側近たちにこれまでの礼を述べた。


 給仕の片付けが進む中、わたしはベリタに改めて、「これまでありがとう」と声がけをして、軽く頭をなでた。側近たちの中でひとり成人しておらず、洗礼を受けたばかりのベリタの背丈はまだわたしの胸の高さより低い。

 素直に喜んでくれたベリタは、「天上の神々のえにしがございましたら、リスタリカ様にまたお仕えしたく存じます」と言ってくれた。


 ベリタの屈託のない笑みが少し眩しい。

 

 ✧

 

 寝所しんじょの質素なベッドも、今宵が最後となるだろう。

 わたしは、ベッドを背に天幕を見上げた。

 

《リスタ、ベリタと最後に笑いあえてよかったね》

 女神様が話しかけてくださった。


 先ほどは女神様と多くの話をした気がするけれども、今は言葉が出てこない。女神様はわたしをリスタと呼ぶことになされたらしい。洗礼前にはお母様も、わたしをリスタと呼んでくれていた。少し懐かしい心持ちになった。

 

《雑念に近いとはいえ、身体からごっそりと魔力を抜かれたんだ。今日はもうお休みしなよ。さっき話したように、貴族院に戻ったらアタシが鍛えてあげるから》


 わたしは、告解室で女神様から直々にお鍛えいだだくお誘いを受けていたらしい。神聖さに撃たれすぎたがためか記憶がないことは我ながら不甲斐ない。

 けれども、ありがたいことだ。……また少しずつ身体が痺れ始める。

 

《なにせ、貴族院の講義は全部聞いていたからな。ゼンセイのアタシとして意識はまだ十分に戻っていなかったから、知識の詰め込まされオンリーだったけど》


 善政の女神様。顕現なさる女神様の中でもっとも尊き一柱が一体である。崇高な上級神様に話しかけていただくありがたみに、わたしは、わたくしは……

 

《また意識飛んじゃうから、勝手にありがたがるのはそれくらいにしておけよ、リスタ。あと善政でなくて前世な》


《院では特に魔法科学を鍛えてやるよ。なにせ今のアタシは魔そのものだからな。

 魔法科学の基礎講義なんてのを聞きながら、ミクロの世界でいっぱいいっぱい練習済だよ》


《高校はほとんど通わずに中退してたから講義を聞く日々なんてのは新鮮だったよ。でも魔法科学ってのは面白いよね。理科の実験の上位互換て感じだし。なにせ、前世のアタシの名前は梨花リカだったしな》


……(はっ)

 善政の女神様のありがたさに痺れてしまい、また女神様のありがたいお言葉を聞き漏らしてしまっていた。なんと善政の女神様は、万物のことわりを筋道立てて把握なさるという《理科》の権能をお持ちのの神でもあらせられる。聖典の神話に出てきた神様方の中でも、わたしが、わたくしが……○;∀´✧;;)>★三<;……あらせられ……


《お~い、興奮しすぎて、何言ってるかわからなくなってるぞ。

……あらせられ、あらせられって、相撲取りかよ。場所中は、中洲のキャバにはお相撲さん方もよくいらしてたけどな。荒勢三世とか言われてる、がぶり寄りが得意な小結様が、店でアタシを良く指名してくれていたよ》


 女神様の語られる神話に、わたくしは陶酔してしまう。


《おいリスタ、素敵なラブロマンスを聞いたみたいな、そんなトロン顔であからむなよ。言っとくけど、アタシは確かに荒勢三世に店じゃがぶり寄りされかかったけれども、お持ち帰りされたことなんかないんだからな。アタシはオトコとかそういうのは必要ないんだよ》


 あぁ、女神様は貞節であらせられ……

 

 ✧

 

 わたくしの意識はそこで途絶えた。

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