第3話 貴き場の女神様
《ふふふ……強情ね》
上から目線の声を聞いたわたくしは、思わず告解室の天井を仰ぐ。天井はただほの白く光るだけの壁面だった。
わたくしは籠めていた力を抜いた。
他の者が入れないよう、わたくしは告解室に魔力を注ぎ込んでいる。
この部屋でわたくしに話しかけてくる存在といえば、天上の存在しかないはずだった。聞こえてきたのは、女性の声色。
(……女神様、わたくしは、身を火照らせるこの熱をどうすれば良いのでしょうか?)
《今のところは、何もしなくても言いわよ》
心に思い浮かべただけで、女神様は即座にお答えを返してくださった。
《アタシの意識がはっきりして話しやすくなっただけだから。
あなたから余計な雑念や魔力が抜けてくれたおかげ……この部屋、いいわね。》
あぁ……わたくしには雑念が多かった……そうなのだろう。
《あとね。アタシは、神なんかじゃないよ》
聖典の神話にも、自らを神とは名乗りはしない天上の尊き方々は多くいらっしゃった。
《最後は、天神のメイドに中洲のキャバ嬢だからね》
聖典には、天上へと至る天の川の中洲の神話があった。いと貴き場である。
女神様は、
《
わたくしは、天神女神様の次のお言葉を待つ。
《ともかく、アタシはあなたの苦いキスで目を覚ましたのよ》
……苦いキス。桃巫女、いえ、側付き巫女のベリタとの
《いいのよ。真心のないキスに苦味を覚えたのは、小心者のあなたの少ない美点のひとつなのだから》
《小心者》と、女神様にずばりと指摘された。
そう、郷土領エーリクフェンの中では、ということになるが、わたくしは貴族院で上位の派閥を率いてはいた。けれども、それは、さして有力ではない郷土領エーリクフェンにおいて、辛うじて上級貴族に入っているアールトネン伯爵家の格をさらに落としめないがため。内心では、派閥を率いているという実感や自信に乏しかった。
派閥の取り巻きに踊らされ、郷土領の平民ステラを軽んじる挙に出る取り巻きを諌めることもできなかった。本来ならば、平民の身で可憐に奮闘しているステラを励ます支えることこそが上級貴族たるわたくしの役目であるはずですのに……
わたくしは、悔恨の涙を流した。
「申し訳ございません」
わたくしは告解室の城壁に伏して涙した。
✧
それからのことを、わたしはほとんど覚えていない。
無我に許しを請い、夢中で上級神たる中洲は天神の女神様に許された。
告解室にて、わたしの身体は始終痺れっぱなしだった。
それでも、告解室を出たわたしの顔は晴れ晴れとしていたらしい。
扉を開けると、告解室の前を律義に守ってくれていた護衛騎士のイヴァンナが、
「お嬢様、良いお顔をされておられます」
と、声をかけてくれた。
田舎臭い派閥と古臭い形式と囚われていた「わたくし」の
告解室に顕現なされた女神様が、残念な上級貴族令嬢だったわたしのつまらない
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