水少女。
識織しの木
水。
水。
私がこのせかいで一番、最も、最高に、大好きなもの。
冷たくてさらさらしていて、きれいでおいしくて。
ああ。なんで私は人間なんだろう。
水にうまれたかったなあ。
今からでも水になれないかなあ。
…本当になれない、のかな。
頑張れば出来るんじゃないか?
今までやってこなかっただけで、もしかしたら方法があるかもしれない!いや、絶対にある!
決めた。なる。
水になる。
私は水になるんだ。
と、こんな感じに。小学生の頃に、私の目指すべき道は決まった。
私はいつから水が好きなのか?
愚問。
このせかいに生まれ落ちた、その瞬間から。答えはこれに決まってる。
小学生の頃に「将来の夢」というテーマで作文を書かされたが、私はもちろんへたっぴな文字で「水になりたいです。」と書いたものだ。懐かしい。
でもって授業の一環で書いた作文を一人ずつ音読するというものがあったのだけど、私に対するクラスメイトの態度がその授業の後からよそよそしくなったことはもうお察しいただけるだろう。
ま、いいのさ。
もう1つ。これは最近の話なのだけれど。
中学校に入学して2度目の夏休み、に入る直前。
夕陽が差し込んでいる教室で、私は担任教師と向かい合って座っていた。いや、座らされていたと言った方が的確かな?
そう。それで。
担任が訊いたのだ。
高校には行くよね?
行きません!
私は元気に、あくまで素直に答えた。
だって、水になるために高卒認定は要らない。
そんなものっ、てな感じだ。
しかし、なのだ。
担任教師は何だか困ったような怒ったような悲しいような、不思議な顔で言った。
高校は行こう。
ね?と私を諭す。
この人面倒臭いなあ、と思った私は。
あー、考えておきますねーじゃそういうことでせんせ、さよならっ。
っと。勢いよく椅子から立ち上がって、廊下をぴゅーっと駆け抜けて、転がるように階段を降りて、すぱぱーんと跳ぶようにおうちに帰ったのでありました。
最近の話というか、ついさっきのことだね。
まだ2年生なのに高校の話とか、するなよなー。まったく。ま、どうせ行かないからいいけど。
…私が担任に捕まったということは、もしかしてだけど。もしかしてなんじゃないか?
と、私はベッドの上に放り出してあるスマートフォンに片手を伸ばすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。