53.やっぱり死体作る? って言わないで
体は出来た。問題は動かし方だ。人は骨があって神経を使って上手に伝達する。筋肉が電気信号で動くとかなんとか、その辺の詳細な仕組みは専門家じゃないんで省くとしても……イメージが出来ない。あれこれ苦戦してみたが、動いたのは耳程度だった。
飛び出した部分だからか、僕の中で兎の耳が頻繁に動く部分と言う認識があったのが大きいかも。ひとまず耳がぴくぴく動いたことで、琥珀は大興奮した。一緒に散歩が出来るようになるかも知れないと期待しているらしい。出来たら叶えてやりたいな。
「シドウは兎」
『ツノから兎って、昇格したのか?』
降格された気もするが。魔王のツノからそこらの魔物って……そう呟いた僕に、バルテルは笑いながら指摘する。
「ツノは付属品だが、兎は生き物だ。昇格でいいじゃないか?」
『なるほど。考え方ひとつだな』
昇格した僕を両手で抱える琥珀は、以前のように振り回さなくなった。生き物の形をしてるからか、頭を上にして抱っこする。琥珀が走ると揺れるのは同じでも、上下左右に揺すられる可能性が減ったのは幸いだった。
「シドウ、草食べる?」
『残念だが食べない』
口に押し付けられた草花に、琥珀の厚意が滲んでいて辛い。残念だが本物の兎を乗っ取ったわけじゃないので、食べることは出来ないし消化も無理だ。お腹の中は柔らかい綿だからな。ぬいぐるみ相手でも、琥珀はまったく気にしない。
別の草を試し、途中で野菜まで試した。その菜っ葉はアルマの畑のだから、きちんとお礼を言って後で食べることにする。今までと扱いは基本的に同じだと理解するまで、琥珀は無邪気にチャレンジし続けた。
「シドウ、あまり変わってない」
「いやいや。可愛くなっただろ、ほら」
バルテルが茶化すと、むっと唇を尖らせた。それから恐ろしい発言を続ける。
「やっぱり死体作る」
「作るな」
『やめて』
バルテルとハモりながら制止する。どうやら生きた者を死体にすれば、僕も食べたり飲んだりできるとの結論に至ったらしい。子どもらしい短絡的で真っすぐな思考だが、簡単に死体を作るとか言わないで。倫理的に問題だから。
『動けるように努力するから、それまで我慢して』
繰り返しの説得に、ようやく琥珀が頷いた。まだ納得してない顔だけど……頼むからそこらの人を勝手に死体にして差し出すなよ? 顔見知りは安全だが、知らない奴は危険だな。ベリアル辺りに魔族近寄るべからず、の一報を出してもらうか。
そんなことを考えていた僕らは、いつもより森の奥に踏み入っていた。琥珀の機嫌取りに必死だったバルテルが足を止め、琥珀の手を握る。それ以上行くなと示しながら、数歩下がった。危険な動物でもいたのか? バルテルが睨む先を確認すると、大きな藪からぎらぎらの目が一対、こちらを覗いていた。
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