52.数百年ぶりの体候補はふかふかでした
現代日本に生まれ、異世界で魔王のツノに転生し動けず過ごすこと数百年……ジョブチェンジした。
『ぬい、ぐるみ?』
「可愛いでしょう? 先日見つけた一角兎よ」
手触りはわからないが、毛皮に包まれた兎にはツノがついていた。あれが「一角兎」の名前の理由だろう。額の間から真っ直ぐに……ごめん、やや左向きに生えているツノが特徴的だ。魔物の一種だが弱すぎて、動物だと認識してた。
「シドウ、これに入る!」
ワクワクしながら待ってる琥珀の期待の眼差しに曖昧に頷く。といっても見えないので、分かったと伝えた。途端に僕をむんずと掴み、ぐいぐいとツノのある額に押し付けようとする。
「あらあら、コハクちゃんはせっかちね」
そう言う問題じゃない。くすくす笑ったアルマが僕と一角兎のぬいぐるみ? を受け取った。容赦なく開腹させられる兎の中は、綿で安心した。中央に置くかと思ったら、まさかの額に穴を開けて突き刺すスタイルで設置される。いいけどね。
『がっちり固定してくれよ』
抜けて落ちたら困る。そんな呟きにくすくす笑うアルマが、既にあるツノの脇に僕を固定した。魔法陣による固定なので、簡単に抜けないだろう。いざとなれば解除することで抜け出すことも可能だ。
「シドウ、可愛い」
『可愛いのは琥珀だし、兎だと思うぞ』
間違っても僕じゃない。一角兎だったのに、二角兎になってしまった。突き出た隣のツノは本物を使用したらしい。触れるとカチンと固い音がした。
ぎゅっと僕ごと兎を抱きしめた琥珀が、くんくんと鼻をひくつかせる。
「薬の草の匂い」
「匂い袋が入ってるのよ。本物の兎を使ったから、どうしても臭うのよね」
本物の兎? え? この毛皮は本物の兎なの!? じゃあ、これ。ぬいぐるみじゃなくて剥製じゃん。挙動不審になるも外見上の変化がなく察してもらえなかった。アルマの話を整理すると、野菜の畑を荒らしにきた兎を捕まえ、皮を剥いでぬいぐるみ(なぜか剥製という表現は却下された)を作った。中のお肉……身? は、鍋でとろとろに煮込まれている。毛皮とツノを残してよく洗い、なめした後で綿を詰めたばかりとか。
きちんと手順を経てなめしたなら、ぬいぐるみという表現でも間違いじゃない。手袋や上着にする毛皮と同じ処理だからな。僕は鼻がないから臭いは気にしない。居心地は思ったより悪くなく、柔らかい兎を抱っこする琥珀は嬉しそうだった。
「これでいつも一緒! シドウ、外を歩ける」
あ、うん。動けるように頑張るけど、綿と毛皮しかない人形で、動けるようになるんだろうか。操る方法を考えないと……唸りながら連れ去られ、首輪を着けられる。そこから繋がるリードを握り、琥珀はご機嫌だった。
僕の扱いが保護者からペットになってないか?
*********************
★新作の宣伝です(o´-ω-)o)ペコッ
【聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~】
※ハッピーエンド確定、恋愛要素あり
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます