第36話 オアフ島航空戦

 一九四二年一〇月、第一艦隊の甲部隊ならびに乙部隊はハワイの北西二〇〇浬の位置から烈風一五六機、それに誘導任務の強風四機の合わせて一六〇機をオアフ島に展開する航空戦力撃滅のために発進させた。


 それら二個機動部隊の南東二〇浬には第二艦隊の第一遊撃部隊と第二遊撃部隊が前衛として敵の航空機や水上艦艇からの襲撃に備えるべく展開している。



 第一機動艦隊


 第一艦隊

 甲部隊

 空母「翔鶴」「瑞鶴」「飛龍」「瑞鳳」

 重巡「利根」

 軽巡「川内」

 駆逐艦「初風」「雪風」「天津風」「時津風」「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」


 乙部隊

 空母「隼鷹」「飛鷹」「龍驤」「龍鳳」

 重巡「筑摩」

 軽巡「神通」

 駆逐艦「野分」「嵐」「萩風」「舞風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」


 各空母の搭載機

 「翔鶴」 烈風四八機(四個中隊) 強風一六機(一個中隊、偵察一個小隊)

 「瑞鶴」 烈風四八機(四個中隊) 強風一六機(一個中隊、偵察一個小隊)

 「飛龍」 烈風三六機(三個中隊) 強風一二機(一個中隊)

 「瑞鳳」 烈風二四機(二個中隊)

 「隼鷹」 烈風二四機(二個中隊) 強風一六機(一個中隊、偵察一個小隊)

 「飛鷹」 烈風二四機(二個中隊) 強風一六機(一個中隊、偵察一個小隊)

 「龍驤」 烈風二四機(二個中隊) 強風 四機(偵察一個小隊)

 「龍鳳」 烈風二四機(二個中隊)


 第二艦隊

 第一遊撃部隊

 戦艦「大和」「武蔵」

 重巡「愛宕」「高雄」「熊野」「鈴谷」「最上」「三隈」

 軽巡「那珂」

 駆逐艦「夕雲」「秋雲」「巻雲」「風雲」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」


 第二遊撃部隊

 戦艦「金剛」「榛名」

 重巡「摩耶」「鳥海」「妙高」「羽黒」「足柄」「那智」

 重巡「衣笠」

 駆逐艦「朝雲」「山雲」「夏雲」「峯雲」「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」



 ハワイの前衛拠点とも言うべきミッドウェー島の飛行場ならびに基地施設はすでに撃滅していた。

 高速を活かして夜の間にミッドウェー島に肉薄した「金剛」と「榛名」の艦砲射撃によって飛行場を使用不能に陥れられ、さらに夜明け後に現れた「大和」ならびに「武蔵」の巨弾によって同島の米軍は完全にとどめを刺された。

 ミッドウェー島の米軍から見れば、完全に虚を突かれた形だった。

 フィリピン航空戦にせよ、ウェーク島沖海戦やマーシャル沖海戦にせよ、いずれも日本軍の先陣を務めたのは母艦航空隊だ。

 だから、まさか真っ先に戦艦が殴り込んでくるなどとは思わず、そのことでミッドウェーの米軍は一方的に巨砲弾によって蹂躙された。

 逆に一機艦の艦上機隊はまったく損害を受けずに在ハワイ米航空軍と戦うことが可能となった。

 ミッドウェー基地は一〇〇〇発もの戦艦の主砲弾と二〇〇〇発の重巡のそれによって当面の間は使い物にならないはずだった。




 俺が所属する「龍驤」第一中隊は第一次攻撃隊に参加していた。

 一〇〇機を超える友軍機と翼を並べて進撃するのはこれまでにも経験していたが、さすがに全機が制空任務を帯びてのそれは初めてだった。

 おそらくどの搭乗員もやる気に満ちていることだろう。

 この戦いは味方を守る戦いではなく敵を狩る戦いだ。

 出撃前に任務の説明を受けていた太田二飛曹や西沢二飛曹、それに宮崎三飛曹らの顔が思い起こされる。

 皆、ニヤケ顔が隠せない様子だった。

 先行偵察任務の強風から無線が入ってくる。

 オアフ島の各基地から迎撃機が多数発進中とのことだ。

 併せて敵戦闘機隊の現在の高度情報も入ってくる。

 その情報に従って、俺たちはさらに高度を上げた。


 その俺たちの眼前に真っ先に姿を現したのは鼻先の尖った戦闘機だった。

 カーチスP40。

 事前に受けたブリーフィングではオアフ島には二〇〇機ほどのP40がいると予想されていた。

 しかし、さすがのオアフ島の飛行場群も一度にそれらすべての機体を上げることは難しかったのか、俺たちの目の前には一〇〇機ほどしか確認できなかった。

 あるいは米軍は戦力を二分し、第一波の迎撃戦力で護衛の烈風を引きはがし、第二波の戦闘機隊が強風を叩く腹積もりだったのかもしれない。

 だが、相手の思惑などはどうでもいい。

 烈風隊は数的に優勢なことと、さらに優位な高度を生かして一気にP40に襲いかかった。


 米戦闘機との戦いにおいて、正面戦闘は厳に戒められていた。

 彼らが持つ一二・七ミリ機銃は射程距離や低伸性において、日本のそれよりも一枚も二枚も上手だったからだ。

 だが、優位な高度から撃ちかけるのであれば、またそれは別の話だ。

 俺は斜め下方の四機編隊に猛然と突っ込んでいった。

 以前の戦いで全弾外した失敗の経験から俺は降下角度ならびにその速度を最適のものに調整しつつ接近、一方の敵機は劣位にもかかわらず機銃弾を浴びせにかかってくる。

 だが、上向きに角度のついたそれはことごとく俺の機体からそれていく。

 その敵機が旋回しようとする気配を感じた瞬間、俺は二〇ミリ弾を敵機に叩き込んだ。

 大口径弾のそれは、上昇によって機速の衰えたP40におもしろいように吸い込まれていく。

 破壊力抜群の二〇ミリ弾を、それもカウンターで食らっては防御力に定評のある米戦闘機といえどもひとたまりもなかった。


 「撃墜確実!」


 さらに他の三機のP40も一斉に火を噴く。

 俺は太田二飛曹や西沢二飛曹、それに宮崎三飛曹といった手練れに狙われたP40に少し同情した。

 あっさりと迎撃第一波のP40を蹴散らした俺たちは再度編隊を整え真珠湾に向かう経路を飛翔する。

 案の定というか、敵のP40が十数機、あるいは数機単位で五月雨式に突っかかってきた。

 緊急発進したことで、いまだに機速と高度が取れていないP40に対して俺以外の連中は容赦が無かった。

 西沢二飛曹などは単機(実際には宮崎三飛曹が律儀にバックアップしていた)で敵の小隊に飛びかかり、瞬く間に四機を食ってしまった。

 俺もさらに一機を墜とし、生まれてはじめて一日で複数機(と言っても二機だが)を撃墜することができた。


 会心の戦いだった。

 一方、ハワイの米陸軍航空軍は、この一連の戦いでその戦闘機戦力のほとんどを喪失した。

 開戦からここまで、P40もF4Fも烈風の敵ではなかった。

 だが、その烈風の米戦闘機に対する優位があとわずかしか残されていないことに、その時の俺はまったくと言っていいほどに気づいていなかった。

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