「____」その一言だけが君に言えなかった

雪白 真冬

「好きだよ」


「好きだよ」


この一言を言えれば。


どれだけ楽だったのだろうか。


そんなこと。


何回考えたか分からないほど。


僕は間違いなく彼女のことが好きだった。


彼女…、高橋さんと会ったのは高校2年生の夏休みが終わった頃だった。


9月1日、僕は他の学校から転校してきた。


いわゆるコミュ障だった僕は誰かと話すことも無く、教室の隅で眠い眼を擦り、机に伏せていた。


そんな僕の目の前に突然現れた高橋さんが屈んで

「おはよぉー」と僕に話し掛ける。


「1限目から今日は体育だってさー」

と高橋さんは続ける。


初めて声をかけられ、僕はなんて返していいか分からずに戸惑っていた。


僕の反応を待つことなく高橋さんは会話を続ける。


「今日のテニスの授業2人1組だから一緒に組もうよ!」僕は頷いた。


それが僕と高橋さんとの初めての会話だった。いや、正直、僕は頷いただけだったので、会話にはなっていなかったが、初めて高橋さんと声を交わしたのはその時だった。


高橋さんは勉強も運動も出来て顔が整っていてクラスの中心にいる、そんな生徒だった、そんなクラスの人気者の旭がなぜ、僕に話しかけてきたのかは今でも分からない。


少し押しが強いけど、僕のことを気にかけてくれる、そんな彼女を、好きになるのには時間が掛からなかった。


それから僕達は仲良くなり、2人で水族館に出かけたり、遊園地に行ったりなどしたのを覚えてる。初めて話した日から半年が経ち、季節は冬になった。


吐く息が白くなり、雪が降り始めた日、僕は初めて彼女の家に行った。


彼女の部屋はベージュと水色ベースのとても大人っぽい部屋だったのを覚えている。


机の上には小さな観葉植物が置いてあり、部屋はホテルみたいに綺麗に整っていた。


そんな部屋のベットの上にぽつりと水族館に一緒に行った時に買った、とても抱き心地が良く、可愛らしいペンギンのぬいぐるみが可愛らしく座っていた。


たしかその日はテストの前の勉強会をしようという理由で、高橋さんの部屋に招待されたのだ。


初めて旭の家に来るということで、少しドキドキしていた。


旭のお母さんにオレンジジュースを部屋まで持ってきてもらって、そのオレンジジュースを飲みながら、しばらく2人で並びながら勉強していた。


隣にいる彼女の匂いがして勉強には集中は出来なかった。


それでも、初めてから2時間ほどで大体の勉強が終わった。


時計の針は夕方の4時半を指していた。まだ帰るのには時間があったのでお菓子を食べながら昨日やってたアニメの話とか、好きな歌い手の話とかで盛り上がっていた。


いずれ話す内容がなくなってきたな、そう思った時、彼女は僕が聞きたくない話をした。


「そういえば、今週、○○くんに告白しようと思うんだよね。」


衝撃的過ぎてその人の名前は今では覚えていないけど。


旭に仲のいい男子がいることが僕には衝撃的だった。


いや。


高橋さんに今まで恋人が居なかったのがおかしかったのだ。


勉強も運動も出来てとても美人なんだからモテないはずはなかった。


気になっている人がいることことを聞いた時、僕は、僕の中の思いを伝えるべきなんじゃないかと思った。


この「好き」を伝えなきゃそう思った、今すぐ僕の方がその人より高橋さんのことが「好き」だって。


でも、出来なかった。


だって僕は。


いや。


私は女なのだから。


女の私が高橋さんと付き合えるわけが無い。


もし付き合えたとしても、世間に受け入れられない。


そんな中で私が高橋さんを幸せにすることは出来ない。


高橋さんは続けてこう言う

「小夜は好きな人いないの?」

僕は

「あはは、いないよ〜その、好きな人ってどんな人なの?」

そんな言葉しか返せなかった。


こんな思いするなら好きにならなければよかった。


なんで高橋さんのこと好きになっちゃったんだろう。


僕が男の人ならよかったのかな…それとも高橋さんが?


いや、そんな都合のいい事起きないか。


そんなわかっていた。


でも。


あれから3年経ってもまだ、


「好きだよ」

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