前世が最悪の虐待死だったので、今生は思いっきり人生を楽しみます

克全

第1話:プロローグ・ダグラス公爵家執事セバスチャン視点

「オンギャア、オンギャア、オンギャア」


 出産室の中から赤子の元気な声が聞こえてきます。

 出産日から出産時間まで、ここまでは私を助け育ててくれた養母の言う通りです。

 養母は予言のスキルを持った魔術師でしたから、随分とその恩恵に預かりました。

 私が公爵家に仕える事ができたのも、養母のお陰です。

 いえ、それ以前に、この世界に転生して生きてこられたのも養母のお陰です。

 貧しかった両親は、生まれた直後の私を殺そうとしたのですから。


「公爵閣下、若君の養育係をわたくしにやらせていただけないでしょうか」


 私も養母のように転生者を手助けしなければいけません。

 自分が受けた恩は、恩人に返すだけではいけないのです。

 私と同じような、不幸不運を受けそうな人を助けなければいけないのです。

 それが私を助け育ててくれた養母の教えであり、前世の祖母の教えでもあります。

 こんな事を言ったら、まるで養母が死んでしまったかのようですが、魔術を極めた養母は若返りの魔術が使えますから、私よりも若々しくて元気です。


「そう言われてもな、セバスチャンは我が家にはなくてはならない家臣だ。

 財政も家政も領地経営も、セバスチャンがやってくれなければどうにもならん。

 そもそもセバスチャンが上手くやってくれたからこそ、公爵家が繁栄したのだ。

 セバスチャンが執事を止めるなど絶対に容認できん」


「執事の役目は今まで通り務めさせて頂きます。

 執事を務めさせて頂きながら、養育係もやらせていただきたいのです」


「嫡男をセバスチャンが養育してくれると言うのなら、これほどうれしい事はないが、それではセバスチャンに負担がかかり過ぎる。

 セバスチャンには健康で長生きしてもらって、できるだけ長く我が家に仕えてもらいたいと思っているのだ」


「過分なお言葉、感謝に堪えません。

 ですがご安心ください、わたくしだけが若君をお育てするわけではありません。

 奥方様もお育てになられるでしょうし、乳母も頑張ってくれるでしょう。

 他にもわたくしが選んだ侍女や教育係をつけさせて頂きます。

 ただ、若君のご養育に関する全指揮権をお与え願いたいのです。

 私が知る全ての知識と技術を若君にお伝えしたいのです」


「うぅううむ、それはうれしいが、やはりそれでもセバスチャンの負担が気になる」


「それでは、若君だけでなく、有能な家臣も育てましょう。

 私に万が一の事があった場合に、代わりに執事が務める人間を育てるためにも、若い執事補佐を置かせていただきます。

 その者に執事の仕事の一部をやらせてみます」


「うぅううむ、セバスチャンにもしもの事があるなど、考えるのも嫌なのだが、セバスチャンがそこまで言うのなら養育の全権を与えよう。

 だが、執事補佐や教育係を置くことで、セバスチャンに負担がかかるようでは何の意味もないから、身分に拘らず使いやすい者を選ぶように」


「わたくしめの願いを聞き届けていただき、感謝の念に堪えません。

 必ず若君を幸せにしてご覧に入れます」

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