第3話
気づいたら病室のソファに横たわっていた。
「達哉君」
少し老けた看護師が横にいる。
どうやら夢ではないようだ。父はもうこの世にいない。形の崩れた卵焼きを食べることはもうない。
涙が止まらなかった。背中をさすってくれる看護師の手も誰かと愛をはぐくんでいるのだろうか。
人の幸せをどうしても、どうしてもうらやましく思ってしまう。
病院を出たころには外は真っ暗だった。街灯や車のライトが涙で変にきれいに見える。
人の命は想像以上にはかない。
自転車にのっていた父はトラックに跳ねられて15メートルとばされた。頭から着地したのか、現場は血の海で、病院に来た時点で手遅れだったらしい。
トラックの運転手は逮捕されているが責任は父のほうがかなり悪いと聞いた。飛び出したのは父ということだ。
家についてベッドに横たわった。母は茫然自失で口もろくに聞けない。
何度だって言おう、人の命は想像以上にはかない。
いつもあなたの隣にいる人はいつまでもあなたの隣にいるとは限らない。
あなたが想いを抱いている人にまた会えるとは限らない。
その後1週間学校を休んだ。次に学校に行った日、拓斗と彩佳によく3人で行く公園に誘われた。
この1週間何があったのか口をなんとか開いて彼らに話した。
事の顛末を聞いてもらうと少し気持ちは楽になった。
「それじゃ運転手は故意じゃないってこと?」彩佳が不思議そうに聞く。
「そういうことになるね」
そう思いたい。
「お父さんが故意なんじゃない?」
あまりにぶっきらぼうに拓斗がそう言った。
頭のどこかが動いた感じがした。
この1週間考えもしなかったことを拓斗が言ってのけた。
その可能性も考えられる。
「自殺ってこと、?」
「うん」
「でもなんでそんなこと」
「わからない」
拓斗の予想外の発言のことでその日は頭がいっぱいだった。
そして、家に帰ると、落ち着いたはずの母が受話器をもってなぜか泣き崩れていた。
「お父さん、たぶん自殺みたい」
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