後の祭り?2

「? そうね。どうしてかはわからないけれど。でも私でも出せるってわかって嬉しいな。だからみんな私に対する態度が変わったのか、なるほどー。知らない間に威圧していたと。了解。で、レクトール、このキラキラそろそろ眩しいしもう十分わかったから、もう今は出なくて良いんだけれど、どうやったらコレ消えるのかしら?」


 そう。必要な時には便利だけれど、普段はいらないのよ、こんな威圧的かつ厳かオーラは。


 でも。


「消えないよ、残念だけど」


 って、なぜか全然残念そうではない上に、ますます見覚えのある「悪巧み成功」の時のいい顔をしているレクトール。

 え、ちょっと嫌な予感がする。


「なに、消えないって、どういうこと?」


 あなたは出し入れ自由じゃないの。そういうものじゃないの? これ。

 と思ったら。


「君、いきなりスキルレベルがほぼ上限まで上がってしまったからね。滅多にないことなんだけれどね、普通はやろうとしても出来ないから。だから今回も体が追いつかなくて倒れたんだよ? 医務室長が頑張ってくれたのと、君の作った性能の良いポーションがふんだんにあったから良かったものの、環境次第ではかなり命の危険があったんだ」


「え、スキルレベルが上限になったの? まあ、たしかにこの前頑張ったし、だからかな。えへへ、そうだったんだ。でもそれならポーションをたくさん作っておいて良かったわねーまさか自分の命を救うとは。よかったよかった。で? 私の聞いていることはそういうことではなくてね?」


「うん、まあそういうことで、戻れないから。諦めようね」

「はい?」


 そしてレクトールが説明してくれたことには。


 曰く、スキルレベルと持っている魔力の両方がとても高いレベルになってしまうと、自然にこのキラキラが出るものなのだと。


 普通は魔力の高い王族とかが、なにやら秘伝の術やお金や時間をたっぷりとかけてスキルを高レベルに持っていくらしいのだが、どうやら私は元々魔力だけは高かったところに、スキルレベルもロロの魔力を借りて無茶をした結果大幅に上がってしまい、その両方の条件を満たしてしまったということらしい。


「そして、一度上がったスキルレベルを下げることは出来ない。つまり、もう後戻りは出来ないんだ」


「ほう?」


「訓練でスキルレベルを上げるときは、その魔力漏れを抑える訓練も同時にしていくんだけれどね。君は先にスキルレベルだけ上げてしまったから、魔力漏れを制御する訓練はこれから学ぶしかないんだよね。ということは、それを習得するまではしばらくはそのままだ。僕も前にも増して君がとっても眩しいよ、ははは」


 ん? って……それって…………。


「ちょっと、知っていてまた黙っていたわね? 私がこのキラキラを出せなくて悩んでいたのは知っていたはずよね? またなの? また後出し!? 肩書きといい身分といい、なんでいっつもあなたは後出しなの!? ま た な の !?」


 なんでいつもいつもこいつは私がにっちもさっちも行かなくなってからカミングアウトするんだ!

 過去に私がこのキラキラを出そうとして無駄なあがきをしていたときには鼻で笑っていたくせに! 


「ええ、ひどいなあ。この国の王族や貴族ならこんなことは常識なんだよ。それに一応君が順調にある程度までスキルレベルが上がってきたら、ちゃんと教えてあげようとは思っていたんだよ? ちゃんと君が選択出来るようにするつもりだったんだ。そして最後に君を見送ったときには、まだまだ余裕があったんだよ。でも再会したときには君はもうその状態になっていて。僕もまさか君が一気にそこまでレベルを上げるとは思っていなかったから、びっくりしたな。普通は自分一人では出来ないことだからね。本当に君はすごいよね」


 って、HAHAHAじゃないんだよ……。

 その言葉とは裏腹に、なんでそんな「してやったり」という顔なのかな。いやそれよりも。


「ねえ、でもこれ、ちゃんと練習したら引っ込められるのよね? 私にやり方を教えてくれるのよね………?」


 このキラキラの威力を、私は知っている。

 ダテにずっと横で観察してきてはいないのだ。


 それは、圧倒的な「ただ者では無い感」。

 本能に直接訴えかける威圧そのもの。王者のオーラ。


 必要に応じてほんのチラ見せするには非常に便利なものだけれど、もしこれのコントロールが出来なくてダダ漏れの出っぱなしとなれば、それはただの威圧の暴力となるだろう。


 そこにいるだけで常に威圧で人を殴る人なんて、そんな怖い人になんて私はなりたくないのよ。

 これならまだ、地味すぎて悩むモブの方がいくらかマシだったのでは?


「もちろんだよ。僕が手取り足取り教えてあげる。だけど少し時間はかかるだろうね。それまではどんなに変装しても無駄だよ。だからもう、君はこっちの世界にいるしかないんだ。そんなわけだしもう諦めて、これからもずっと一緒に僕といようね」


 にっこり。

 満面の笑み……しかも嬉しげなキラキラつき……これでもかという歓喜のキラキラつき……それが私を襲って……。


「諦め……?」


「そう。残念ながら『癒やし』がそのスキルレベルになると、もう国の法律でも保護が決まっていてね。前はまだなんとか僕が頑張れば誤魔化せるレベルだったから、あのままのレベルなら最悪君がどうしてもと望むなら、どうにか解放の可能性もあったんだ。だからあんまり教えたくなかったんだけどね。でもこうなってしまったからには、もう君は『聖女』をやめられない。もう一生国の監視下からは出られないんだ」


 って、同情的な素振りのくせに、なんだかすごく満足そうなんですが!?


「え…………」


「それに君、まだ気がついていないみたいだけれど、もうすっかり有名人だからね? 魔獣に乗った君が夕暮れ時に、強烈な癒やしの光を放ちながら病魔に苦しむファーグロウ軍を癒やして回ったのが、今では『救国の聖女』とたたえられて国中に知れ渡っている。ファーグロウ軍だけでなく、今やファーグロウ国中で君は国を救った聖女として有名なんだよ。だからもうそんな魔力漏れなんてなくても、誰もが君を素晴らしい聖女として尊敬しているよ」


「は…………?」


 なにそれ?


 あ、でもそういや私、あの時「癒やしの光」を……って…………。

 えーと、たしかにやったわ。スキルが光ってたわ。あれ、見えていたのは私だけではなかったのか。普通に見えるやつだったのか!


 ちょっと必死だったからおぼろげにしか覚えていないけれど……そういえばたしかにそんな記憶があるわ……。


「だからもう、そろそろ諦めてずっと僕の奥さんでいよう。大丈夫、大切にするよ。それともまさか他の王族と一緒になりたい? 僕と離婚しても、どうせすぐに王命で他の王族の誰かと結婚させられるよ? まさかまだ顔も知らないどこかの男の方が、僕よりいいと思ってる?」


 そうたたみかけてくるレクトールの目は、全く笑っていなかった。


「あ、いや、ちょっと……それはないかなー……」


 うん、さすがにそれは嫌ですよ。

 顔も知らないその人が、このレクトールよりマシなんてことはまずないだろうから。


 こんな庶民丸出しで身寄りもない異世界出身の人間でも問題視しないどころか、なぜかキラキラと好き好きオーラを送ってくるこの人以上に、私に優しくしてくれる人などいようか。否。まず否。


 ならばどんなに釣り合わなくても、どんなに私が気後れしようとも、どんなに彼に申し訳がないと思っていても、今の私にそんな選択肢しかないのだったら、私はもちろんこの人と一緒にいることを選ぶのだ。自明。


 苦労の度合いが全然違う。私は常に最善の、つまりは一番楽そうで、一番私が幸せそうな道を選びたい。


「じゃあ、これからもよろしくね、奥さん。愛しているよ」


 そこにいたのは満足そうな、満面の笑みを浮かべた、夫(どうやら真)。

 麗しい笑顔とウインクに、嬉しげなキラキラが漏れ出ているまでがセット。


 私はその顔を知っている。巡らせた策略がドンピシャ成功したときにする顔だよ、それ……。

 なんだか彼から向かってくるキラキラに、ほんのりピンクが混ざっている気もするんだけれど、どういう意味かなこれ……。


「……ああ、はい……私も……よろしくお願いシマス……お手柔らかに……」


 ……ん?

 なんだか前にもあった気がするぞ、こんなやりとり……。


 ああ、あれか、あの偽装結婚した時か。

 あの時はてっきり「一時的」だと思っていたのだけれど。

 あれ?


 えーと、つまりはこれからも、この生活がずうっと「一生」続くということですか?


 そういうことですか!?

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