遁走、いや移動?2

「でもそれならなんで、あのヒメとかいう人は『先読みの聖女』でいられるんじゃな? 聖女の能力が無いのは隠せないだろうに」

 神父様がはて、という感じで首を傾げた。


「うーん、でも先読みは出来るのよ。私と同じどころか、どうやらそれ以上に詳しいみたいだから」

 

 なにしろ私は一人攻略しただけで飽きたのに、彼女はどうやらそれを攻略相手の人数分周回したということなのだろうから。隠しルートが出るくらいだ。そしてきっとそれも攻略したんだろう。この将軍を。

 うーん、ではゲームではこの人もヒメに愛を囁いたのか……一体どんな顔で?

 

「前の世界で見たというこの世界の話というやつかね?」

「ああ……そう。私は一通りさらっと見ただけだったけれど、もしかしたら彼女はじっくりと何度も、その……繰り返して、私よりずっと細かなところまで覚えているかもしれないから」


 ちょっとゲームと言ってもわかるかどうか怪しかったので、そこのところは出来るだけぼやかしましたが。


「で、その話の中では私が死ぬんだな?」

「あー……うんまあそう」

 もうそこは隠しても仕方が無いか。

 

「そしてその後はどうなるんだ? その物語は」

 さすが軍人というべきか、なんと言うか。彼は今ではその事実を受け入れているらしい。強い人だと思った。

 

「『先読みの聖女』がその『将軍』が死ぬ前に立てた計画を見破って、オリグロウが戦争に勝つの。そして聖女はめでたく意中の人と結婚……」

「何を見破ったんだ? どの作戦だ? その戦いの場所は覚えているか?」


 あ、そっちですかそうですか。素敵な恋愛のゴールには全く興味はないんですね、はい。

 

「ごめん、場所とかは出てきたのかもしれないけれど全然覚えてない……ただ、ファーグロウが守っていた拠点を叩いたとかそんな感じだったような……うーん……」


 だってゲームの中では多分誰かが言った台詞の中身だったし、「要は凄い作戦で大逆転したのねーふーん」とさらっと流しちゃったんだよー。


 私は薄い記憶を遡って考え込んでしまい、そしてレクトール将軍も難しい顔をして黙り込んだのだった。

 のほほんとしているのはだた一人だけだ。いや神父様は何でそんなに気楽?


「じゃあ、なんでレックは死んじゃうんかの?」

「いや発言! 今ここでそれを言う?」

「言うじゃろ。だってその話、レクトール将軍が死ななければ避けられるんじゃろう? ”ファーグロウの盾”さえしっかりしていれば、どうせオリグロウは勝てんわ」

 

「まあ、そうかと思って私もその『将軍』にお近づきになりたかったんだけどね。でも死因は覚えていないんだよねえ。そもそも話に出てきたのかどうかもわからないよ」

 言いながらその噂に聞く強固な盾がこのチャラ男で大丈夫なの? と思ったのは内緒です。

 

「なんじゃ病気か事故か裏切りかもわからんのか」

「ちょっとわからないんだよねえ……」

「裏切りはない」


 突然、レクトール将軍がきっぱりと言ったのだった。

 

「ふぉっふぉっふぉ。自信満々じゃの。若いというのは良いものじゃ」

 神父様が笑い、

「でもスパイとか暗殺者とか紛れているかもしれないじゃない? 古今東西だいたい権力者の周りには紛れているよね」

 私もそう言うと。


「それでも裏切りはない。実は……あまり知られないようにしているからここだけの話にして欲しいんだが、私のメインのスキルは『鑑定』だ」


 意を決したようにレックが言った。


「『鑑定』? あれ? 『魅了』じゃあないの?」

「普段はそう見せてはいるが、実はそれはサブスキルであってあくまでもメインスキルは『鑑定』なんだ。それも最上級のね。だからオリグロウ王宮でも実は視界に入る人は全員一通り鑑定していた。とても有意義だったよ」

 そう言ってレックは満面の笑みを浮かべたのだった。なんだこの人、ちょっとかわいいな。得意げか。

 そしてその丸ごと鑑定をやりたいがための王宮に行こうだったのか。しれっと何をやっていたんだ。


「おや珍しいスキルじゃな。『鑑定』なんて今までほとんどお目にかかったことはないよ? こんなに長く生きているのにのう。ほうほう、ではワシはどんな風に見える?」


 神父様がそう言うと、レックは神父様をちらりと見てから言った。


「オースティン殿は、メインスキルが加護、しかも最上級です。サブスキル……はあまり鍛えていないようですね。でも『魅了』は若干使える。そして加護の力が強いので……きっとあなたは老衰以外では死ねないでしょう。まだまだ長生きしてください」


「ほうほう、ワシの『魅了』を見抜くか……それ以外にも何やら見えてたりして?」

 神父様が目をキラキラさせた。

 

「……さすがですね。他にも少しは見えますよ。大体の家族構成とか、来歴とか、その人の今の感情も多少視えますね。それらを総合してどのような人物なのかがわかります。まあ、あなたは信頼に足る人だと思っていますよ、オースティン殿。あなたは損得で動く人じゃあない。面白そうかそうで無いか、もしくは好きか嫌いか。それで自分の行動を決める人だ」


 ええ、すごいなその能力。視るだけでどんな人かわかってしまうのか。

 

「じゃあ私は? 私はどう視えているの?」

 ちょっとわくわくして聞いてみた。いや聞くよね。的中率百パーセントの占いを聞く気分だ。


「君は脳天気だな……ああ知らないのか。アニスのメインスキルは最上級の『癒やし』。今もレベルがそこそこ高いから、体に関することは随分自由に操作できる。サブは無いわけではないがやはり訓練をしていないからほとんど発現していない。ちなみにその『癒やし』スキル、今発動できる力は一部だ。奥行きがとてつもなくあるのに途中までしか道が出来ていない」


「ええ? 私もサブスキルを何か持っているのね? それは何? 訓練ってどうすればいいの?」


 いやちょっとわくわくしちゃったよね。まだ他にもスキルがあるらしい。そして『癒やし』ももっとレベルが上げられるのか。


「いや君はそのメインの『癒やし』を伸ばすことにもっと頑張ってくれ。そのスキルで僕を救ってくれるんだろう? 僕はとても期待しているんだよ? で、君の荒唐無稽な異世界とやらの話を信じた理由がそれだ。君の来歴だけはどうやってもつい最近のものしか見えなかった。まるでつい最近君が突然この世に出現したかのようにしか視えない。それは君の、別の世界から突然喚ばれたという話と合致する。そしてそうでなければこのレベルの『癒やし』スキルが大人になるまで知られなかったはずがない。だから信じた。他には考えられないからね」

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