道中2
そんな感じでオースティン神父が手当たり次第にポーションを売りつけるようになってしばらくしたら、「すごくよく効くポーションを持っている老人と若い娘の二人組み」というのが知られるようになりまして。
お陰でリピーターのお客様も出てきてますます商売繁盛だ。中には旅先で待ち構えているお客様もいるような状況になってちょっと驚いた。
神父様も私の治療師として知られたいという希望をご存知なので、「このポーションはこのアニスが作っていてね」という情報も上手く付け加えて売ってくれて、そのお陰か私は行く先々で直接依頼をされることもあるようになった。
だけどそうなるとお金は入るけれども面倒も出てきて。
「金は出すから俺にだけ売れ、転売する」
とか、
「私に仕えないか? そして一緒に儲けよう」
とかいう輩ですね。そんな輩に限って非常になんというか……裏社会の気配がするのよ。
これは私一人だったら下手すると誘拐とか脅迫とかあったかもしれないと今更ながら思ったのだった。
そしてそんな時には老人とはいえ元は軍人であるオースティン神父が睨みを効かせ、時には直接制裁をしてくれてなんとか事なきを得る、次第にそんな状況になっていったのだった。
いやあオースティン神父、頼りになります。出会ったときには結構あちこちガタが来ていた正真正銘弱々しいご老人だったはずなのに。
「いやいや、久しぶりに暴れるのも楽しいのう~。今では足も揃っているし、体も軽い。それに多少無理をしても君が治してくれるんじゃろ? じゃあ次はもう少し派手にやってもいいかもしれないのう~ふぉっふぉっふぉ」
などと朗らかに笑っているけれど。
まさかの素手でゴロツキたちの攻撃をひらりひらりとかわしながら流れるように確実に急所に決めていくその動き、もう手練れとしか言いようがないのですけれど?
一体どれだけ実戦経験があるのやら。
本当に、村で大人しく真面目な神父然としていた彼は一体何処へ行ってしまったのか。義足で慎重に歩いていた人と同一人物とはもうとても思えない。あの非力そうな姿で村の人たちから優しくされていたのは、今思うともはや詐欺では?
そしてそろそろオースティン神父がただの年寄りの神父さまから、動きに隙の無いただの脳筋の軍人にしか見えなくなってきたところで、とうとう私たちは目的地の「ガーランド治療院」に到着したのだった。
結局オースティン神父のおかげで商売道具の作り方は学べるわお金は貯まるわ温かいものは食べれるわ良いベッドで眠れるわ、なんだか思っていたよりもとってもお得で快適な旅が出来たのだった。
あの時同行を断らなくて本当に良かった。
「ようこそいらっしゃいました。私は当ガーランド治療院の院長、サルタナ・ガーランドと申します。初めまして、お噂は聞いておりますよ、最近人気の治療師のお嬢さん。そしてお久しぶりです、オースティン殿」
そう言って質素かつひたすら書物しかないような院長室で出迎えてくれたのは、初老の疲れがにじみ出た紳士だった。なんだかお部屋も服装もとても質素でくたびれている感じ? そして書類の山がいくつも積み上がっていた。
こんなに大きな治療院つまりは病院の院長がこの様子って、治療院の院長の仕事って、もしかしてとても忙しいのかしら。
なんて言うんだっけ、こういうの。「医者の不養生」?
そして神父様のことは名前呼びなの? と思ったら。
「サルタナ殿久しぶりじゃの。お元気そうで……はないようだが、なんとか生きているならよかったわ。後でその噂のアニスのポーションを差し上げよう。そして彼女がそのポーションを作るアニスだよ。彼女はここで働くことを希望している。受け入れてくれるかね? 彼女は良い働きをするよ」
どうやら二人は知り合いらしい。神父様の知り合いというのはこの院長だったのかな。
「もちろんです。大歓迎ですよ。戦争は休戦しているはずなのに国境付近ではどうしても小競り合いが絶えなくて、病人だけでなく常にたくさんのけが人もここへやってくるのです。お陰で非常に忙しくててんてこ舞いで。大変助かります」
院長は心から嬉しそうに言ったのだった。
たぶん受け入れてもらえるだろうとは思っていたけれど、それでもちゃんと責任のある人から了承されて私は心から安堵した。
なにしろ身寄りも身分も無い根無し草みたいな立場だったからね。いわば口コミだけで、履歴書も無しに求職している状態だったのだ。
そして私は考えてみれば「歓迎される」のがこの世界に来て初めてだったので、なんだかとっても嬉しくなった。
院長もいい人そうに見える。
私、頑張ろう。頑張って、たくさんの人を癒やそう。そして目的を果たすのだ。
まずは手始めに、この院長を癒やす事になりそうだけれど。
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