道中1

 結果的にオースティン神父が物知りな上に旅慣れているお陰で、私たちの旅は非常に順調だった。

 それに考えてみれば女の一人旅は危険だったね。治安という意味ではやはり気をつけなければいけない。また前みたいに動けなくすることも出来るかもしれないが、なにしろ健康体相手だと効果がないというのはちょっと武器としては弱くて心配だ。


 そう言う意味でも旅のお供で老人とは言え男性がいるというのは非常に心強かった。


 途中で私たちは小瓶を買って、そこに水を入れてポーションを作った。

 まあなんだ、瓶に入れた水にちょっと「人を癒やせ」と言い聞かせるだけだ。しかも神父様の忠告通りに、全然気合いを入れないで凄く適当に作った。どうやらそうじゃないと不自然に優秀なものが出来てしまうらしい。


 なにしろ初めて作った時は、その効果を神父様に呆れられたのだから。


「アニス、やりすぎじゃよ。魔力が外まで相当漏れている。この小瓶一つできっと小隊一つ分くらいの人の熱病が治ってしまうだろう。こんなに優秀なポーションは聖女にしか作れないのだから、そのまま作ってはいけない。もう少し……そうだな、百倍くらいに薄めるか」


 そう言ってしばらくは神父様が山ほどの小瓶を調達しては二人がかりで宿で随時その小瓶の水に元のポーションを一滴ずつたらすという作業をすることになった。これがけっこう面倒くさい。


 小瓶を買うのは神父様だ。彼は「加護」スキルを存分に使って小瓶を安く買い、そして私の作ったポーションを今度はそれはそれは高値で売るのだった。

 いつしか私が作る人、神父さまが売る人と、見事な分業体制が出来上がっていた。


 もちろん神父様の人生経験からくる技もあるのだろうけれど、なにしろ強力な「加護」スキルのお陰で私たちはたまたま小瓶を投げ売りしているところに行き当たり、そして次には急な病気で困っている金持ちとたまたま知り合うのだから見ている方はびっくりだ。そんなことがちょくちょくあって、もちろん普通に困っている人達にも普通に売るから、私の作ったポーションは常に順調に売れ続けたのだった。


 お陰で貧乏旅を覚悟していたのに思いのほか収入があって、泊まる宿もなかなか良いランクに泊まれるのだった。

 すごいな「加護」スキル。

 このオースティン神父が旅をする時は、たいていがこんな流れになるらしい。


 ただようく見ていると、とても真面目で敬虔な神父様とは言いがたい言葉巧みな売り込みもしているんですが。


「でも今回は君のポーションがあるからますます便利に金が入るねえ。なにしろワシのいつも売る『幸運のお札』より効果がわかりやすい上にすぐに結果が出るし、客もたくさんいるからね。いやいいねえ、ふぉっふぉっふぉ」


 って、喜んでいる姿は端から見たら好々爺という感じだけれど、その台詞を聞くとそろそろ私には狡猾な商売人に見えてきたよ?

 教会にいるときはそんな感じはしなかったのに……。

 もしやあれは外面だったのか? 今はとてものびのびしているように思える。

 まあ確かに日頃からこんな神父様だったら、ちょっと信仰心にヒビが入る人もいるのかもしれないけれど。


 そういえば最初に私を拾った直後も、ちょうど良く私の全身の血を洗い流してくれる大雨が降ったっけ。そしてずぶ濡れの私たちに同情した宿の主人によくしてもらった記憶がある。


 そうか……あれ、全部「加護」スキルの恩恵だったのかもしれないのね……。


 羨ましいスキルだな、ほんと。


 そんなこんなで旅をしているうちに私も神父様からの教えを受けてますますポーションを作るのにも慣れ、とても簡単に作れるようになりました。

 ポーションも「何でも癒やす」という効能は通常はないというので、「傷を治す」「熱を下げる」「よく眠れる」等々、細かな症状別に効くように調整も出来るようになりましたよ。


 まあなんだ、「治りはやーい」「お熱さげーる」「よく眠れーる」などと適当に気を抜いてお水に言い聞かせるだけの簡単な作業というほどの事も無い作業だ。下手に気合いを入れると神父様からダメ出しされるしね。


 それでもいろいろな種類を作れるというのも珍しいらしいので、これだけの品揃えがあるという状況が商売繁盛に一役買っているらしい。


 そして、

「おや……具合が悪そうですがどうしました? ふむふむ、なるほど。それはさぞお辛いことでしょう。わかりますぞ……実はワシはここにすばらしく効果の高い特別なポーションを持ってましての。これはもうどんなに辛い症状でもすぐさま治るのじゃ。ワシもこのポーションのお陰でこんなに元気に旅をしていられる訳でしてな。どうじゃ、そんなにお辛いなら特別に少しお分けしてもよいですぞ? ちょっと高いかもしれないが、もちろん試すことも出来るでな、よかったらお試しになりますかの?」


 ともったいぶって好々爺然としたオースティン神父がいかにも親切を装って売りつけるというとても怪しい、だが人助けとも言えなくもない商売の出来上がりだ。

 もちろん病人や辛そうな人を見つけるのは神父様に言われて私がやっているけれどね。まあそれも別に難しいことではない。ちょっとスイッチを入れてあたりを眺めるだけだ。世の中不調を抱えている人は意外に多いのだ。


 しかし神父様、さすが旅慣れているというか人生に慣れているというか物怖じしないというかなんというか。

 優しそうかつ善良そうな神父様から口の上手い商売人に自然に変わっていくその様は見事としか言えなかった。


 まあお陰様で今日もご飯をお腹いっぱい食べられるので、私は全く文句はありません。

 いやあ快適な旅というのは良い物ですね。

 ちなみにロロは最近は『ごはんー』としか鳴きません。そして勝手にフラフラしているという自由人ならぬ自由猫で旅には全く役には立ちませんでした、はい。

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