召喚2

 そうだよねーゲームでは召喚されたのは一人だったもんねーだけどどっちと言われても聖女なんて知らないよ? どっちも普通の一般人だ、などと呑気に私が思っているうちに、隣のヒメが勢いよく立ち上がって大声で言った。


「それは私です! なぜなら私はあそこにいるリン大神官もそこのポルル筆頭魔術師も、もちろんロワール殿下のことも知っているのですから!」



 その言葉にその場にいた全員が驚いて、そしてその場にひれ伏したのだった。

 なにしろ召喚されたばかりの人間が、いきなりその場にいる人の名前と地位を言い当てたのだ。

 たしかに驚くよね。


 って、ええ!? どれだけあのゲームをやりこんでいたんだよ、なんでそんなモブの顔と名前まで記憶しているんだ!

 と、思ったけれど、そういえば彼女にはここの人たちの名札が見えているんだっけ?


「おお! 素晴らしい! さすが『先読みの聖女』様です。我々はあなたを歓迎します。ぜひ我が国をお救いください」

「まあ喜んで」


 そして唖然としている私などは視界にも入れずにうやうやしくヒメの前で跪いた王子は、彼女の手を取って、そして二人は仲良く連れ立って行ってしまったのだった。


 唖然……。

 

 うん、たとえここが理解しがたい異世界だろうが、たとえ知り合いが私たち二人だけだろうが、その唯一の知人をあっさり見捨てて自分の利をとるその姿勢、いっそ清々しいね。

 まあそういう奴だよ、彼女は。はい知ってた。

 

 

 考えてみればそりゃあね? このゲームを一通りやった人間なら、基本的なシナリオは共通だからこの国の将来は知っているのよ。一度ストーリーを進めれば、だいたいの流れは把握できるから。


 ゲーム内でのこの国は今、隣の国との戦争真っ最中で『先読みの聖女』はその戦争での敵国の情勢を言い当てるのだ。そしてこの国はその『先読みの聖女』の助言のお陰でその戦争に勝利する。

 いつ誰が死んで、誰がどう動いたから勝てたのか。元々乙女ゲームだから複雑な戦況なんてなくて、結構単純な話だった。


 なにしろゲームのメインはその能力に戸惑い振り回される主人公『先読みの聖女』が攻略相手と交流するそのやりとりだからね。そして国を勝利に導いて、国民にも祝福されつつ攻略相手と華やかに結婚式を挙げるエンディングになる。


 ヒメはあの一瞬でそのゲームの記憶から今の状況を判断して、そしてそのヒロインである『先読みの聖女』として真っ先に名乗りを上げたのだった。

 

 なんて、たくましい……。

 

 私が唖然としているうちに、奴はこの場の全てをかっさらっていったよ……。

 


「あの……それであなたは、どなたです?」


 人々がやれやれ終わったという開放感を漂わせながらぞろぞろ召喚の間らしき部屋から出て行く中、すっかり忘れ去られて相変わらず腰を抜かして座り込んでいた私におずおずと話しかけてきたのは、どう見ても雰囲気が神官見習いか魔術師見習いか、とにかく明らかに下っ端だね君、という感じの若者だった。


「えーと、あの……誰でしょうね?」

 だって、『先読みの聖女』の座はとられちゃったしねえ?




 それでも一部の役人らしき人たちが召喚した手前放っておくわけにもいかないと判断したらしく、私は「大魔術師」様の元に送られることになった。

 

 まあ正真正銘、明らかに身よりはいないしね。

 そしてそれなのに、うすうす思っていた通りの「元の世界には帰れない」通告。まああのヒメのせいで元の世界もグチャグチャにはなっていたものの、一応選択肢は欲しかったよね。悩んだとは思うけどさ。悩みたかったというか。

 

 しかし喚び方は知っているのに帰し方は知らないって、どうなの?

 そりゃあ国の一大事を前に個人の権利なんてという考えもあるかもしれないけどさー、でも私この国の人ではないし?

 全くなんの義理も無いというのに。


 挙げ句の果てに「ああ、聖女にくっついて来ちゃった余分な人ね」という周りの目、やめて。

 

 でも喚んじゃった手前放り出すわけにもいかず、そして異世界から来たのなら何かしらの異能かチートでもあるかもしれないと、まあ、大っぴらに言ってしまえば私はどうやら観察対象というか実験動物というか、そんな扱いになったようだった。

 もしくは放っておいて何か文句を言って暴れられるくらいなら保護して監視しておこうというところでしょうか。


 どうやらこの世界の人はみな魔力と何かしらのスキルを持つ世界のようで、その人の個性のように様々なスキルを何かしら持つらしい。

 だけどここで人の能力を鑑定できるような人が居ればよかったんだろうけれど、残念ながらそういう能力のある人はめったにいないらしく、エリート揃いであろう王宮の魔術師たちの中にもどうやらいないようだった。


 居てくれよう、そうしたら私も楽だったのに!

 

 なぜなら私は城内の隅っこに簡素な服と部屋を与えられて、毎日毎日若き「大魔術師」さまのところに行かされてはやれアレが出来るかやってみろ、コレが出来るかやってみろと、いろいろな事を試すように言われて頑張ってはいるのになぜか何にも出来なくて、それを見たイケメン「大魔術師」様から冷たい視線が突き刺さる、そんな針のむしろのような生活をするはめになったのだから。


 私は心が折れそうです。

 さすが「大魔術師」というだけあって能力は高いのだろうし、そのためにプライドも高そうだ。

 というよりもそういえばこの人、ゲームの攻略対象ではなかったか? あの有能だけどすっごいプライドが高ーい人。ああーいたわーそしてこんな顔だったわー。


 なんでこんなポンコツの世話をしなければならないのだ、そんな心の声が態度にダダ漏れですよ。多分ですがこの男、ハイレベルな人が好きなんだろう。雑魚になど用はないのにこれが仕事とは理不尽な、そういう目です、はい。


 うへえ……。

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