機械人形と生きられる世界
仲仁へび(旧:離久)
第1話
それは一人の少年と機械人形の話。
ルイという少年が、アールという機械人形と心を通わせる話。
ルイの名前は、漢字にすると涙になる。
生まれた時に流れた母の涙と共に、その命の生誕が多くの人へ命の尊さを教えたのが由来だ。
だからルイは、その名前に恥じないような少年に育った。
命を大切にする少年に。
誰かを傷つける事はせず、道端で出会う人にも親切に、動物や植物の命も大切にしながら。
そんなルイは生まれた世界を離れたのは、どのような理由があったのだろうか。
理由、などというものはないのかもしれない。
それは唐突に現象として起きたのだから。
機械人形が存在する世界。
異世界に転移してしまったルイは、機械人形のアールと出会う。
彼女は人間と違って体が丈夫で、身体機能が高い。
病気にもならず、怪我もしなかった。
けれどルイは、彼女に対して人間と同じように接し続けるのだった。
そうする事で、アールに変化が訪れた。
これまでのアールは、自分の身を大切にしない行動で人間に尽くしていた。
尽くす、というよりはそうあるべきルールに従っていた、という方が近いかもしれない。
自らの部品を取り出して、品物を修理したり。
危険を顧みず事故現場に飛び出して、人々を助けたり。
ともかく、アールの在り方は自分の身を犠牲にするようなものだった。
しかしそれが、変わったのだ。
ルイという少年と接した事で。
アールとルイはそれ以来、仲を深めて生涯を共にする間柄になった。
異世界にやってきた一人の少年。
その少年が行った事はあまりに小さい。
一人の機械人形の生き方を変え、その人生を幸せにしたくらいだ。
けれど、彼は知らないだろう。
そのありふれた幸せがもたらした、未来の変化を。
それまでの機械人形は、人間の下に見られていた。
代わりの効く存在として扱われていた。
けれど、その世界の中には、そうは思わない人間がごく少数だが存在していたのだ。
人間も機械人形も同じである、と。
そんな彼等にとっては、ルイとアールの物語は希望だっただろう。
機械人形と生涯をとげた人間。
人間と一生寄り添った機会人形。
その話は、彼等の心に小さな光を灯した。
いつしか、ルイが育った村はシェルターとして機能するようになり、祝福されぬ恋に身を投じる者達を、温かく迎えるようになった。
そのシェルターの存在は日に日に大きくなっていく。
やがて、声をあげられぬ者達の数が一定を超えたその日、歴史は変わる事になったのだ。
そのように歴史の大変革が起きたとしても、在りし日のルイとアールはただ平凡なだけだった。
大きな歴史の変革には、大きな意思が必要だった。
しかしそのきっかけとなったものは、たった一つのささやかな幸せだった。
機械人形と生きられる世界 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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