にぎんょ

花森ちと

 あおい世界にいました。

 かぽ、かぽかぽ

 わたしの口からは銀色のあわが零れていきます。

 それはまるでガラス玉のようでした。

 かぽ、かぽかぽ

 

 正午の光が差して揺らめいていました。

 ぽぽ、ぽぽぽぽ

 それはわたしの髪を赤く照らしました。

 わたしの髪は皆とは違う、醜い色です。

 ぽぽ、ぽぽぽぽ


 おおきなグヂヤが頭上を泳いでいきました。

 がこー、ごうごー

 ちいさなイラチたちが群れになってわたしを取り巻きました。

 なんだか家族に包まれているような気がしました。

 しかしすぐに去って行ったので寂しかったです。

 がこー、ごうごー

 去って行った皆が幸せに過ごしていけるといいな。


 わたしの友達はよくリンゼンに連れて行かれてしまいます。

 みんな騙されて行ってしまいます。

 それは大きな網であったり、

 たべものをつけた小さな針であったりします。

 どくぶどくぶ、どくぶぶぶ

 わたしはいつも悲しくて死んでしまいそうになります。

 彼らがどうなったのかは、知りません。

 とてもやりきれないことです。


 陸に住むリンゼンは洋服のような恋をするそうです。

 さやさやさや、さやさや

 流行のように早く儚く散ってしまうそうです。

 わたしのこともすぐに忘れてしまうのでしょうか。

 さやさやさや、さやさや

 わたしはいつまでも言い出せずにいます。


 わたしはよく余計なことを言ってしまいます。

 がぼぼぼぼ、がぼぼぼ

 そんな時は水の温度が変わった感触があります。

 がぼぼぼぼ、がぼぼぼ

 それでも一緒にいてくれる同類には感謝しています。

 私の言葉で傷つく時があっても。

 

 同類はとても素敵なひとばかりです。

 ぽぽぽらぽぽら、ぽぽぽぽら

 皆、うたが上手で聴いていて惚れ惚れします。

 わたしのうたは皆より劣っています。

 ぽぽぽらぽぽら、ぽぽぽぽら

 だからわたしは岩陰から聴くだけでいいのです。

 わたしはうたっていてつらくなるのだから。


 いつか、つらくなって仕方のなかったとき、

 わたしはたどり着いてしまったのです。

 ごうごうごう、がー、がー、

 それはとても深く、暗い所でした。

 そこはウミユリの群生地でした。

 それらはまるで、泣いている女のようでした。

 ごうごうごう、がー、がー、

 なぜか泣いているわたしを眺めているような気分になりました。


 すると一輪のウミユリがわたしの方へ振り返りました。

  


 


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