提案

 あの後、大賢者ジグラの転移の魔道具を使って、さっさとドバンに帰ったわけだが、依頼が全然来ない。


 いや、依頼が来ないのは喜ばしい事であるということはわかっている。しかし、やることが無くなって、とてつもなく暇になると、ちょっとくらいは依頼が来ないかな……と思ってしまうのだ。


 大賢者ジグラ(クソジジイ)と、迷惑がかからないところで、何度も模擬戦闘(だけど殺し合い)を行っているが、それでも暇は拭いきれない。


 このままずっと暇なのは嫌だなぁ。別の町や隣のクラギス帝国に行ってみようかなぁ。と思いながらも、俺はその一歩を踏み出せないでいる。


 ある日、俺の勝ちで幕をおろした模擬戦闘の後、ジグラが俺に言った。


「ソウタが持っているスキルは、一体何なのじゃ?」


 ただの『水魔法』と『鑑定』だけだと、おそらく彼は知ってるだろう。


「どうせわかってるんだろ? まあ、ただでは教えられないな。お前が持っているスキルを教えてくれるのなら、こっちも教える。」


 前に王都のギルドに行った時に、ゾボロさんが俺に使ってきたやり方で、こちらも応戦する。どう来る? 大賢者よ?


「うーん…………よかろう、わしのスキルを教えるぞ……と言いたいところだが、ソウタが教えてくれなくて、一方的に知られる可能性がある。だから、こうせんかの?」


 それは、互いに所持している全てのスキルをそれぞれの紙に書いて、それを裏返した状態で交換して、同時に裏返して確認するというものだった。


 確かに、それなら一見どちらかが一方的に知るだけというのは避けられそうにみえる。しかし、これには大きな穴が存在することを、彼は知ってて俺に提案してるのか?


「なあ……それってさ、紙に所持してる全てのスキルを書かなかったり、所持していないスキルを書いたりしても、相手にはばれないよな?」


「うっ、そ、そうじゃな…………いや、わしはちゃんと正しく全部書くぞ?」


 絶対お前、書く気無かったろ……おい……そっちがそのつもりなら、俺はそれを根本から崩してやる。


「それをお前は証明出来るのか? 出来ないよな? ほら、この話は無しだ。帰るぞ。」


 この台詞だけ他人が聞いたら、俺はすごく嫌な奴だと思われてもおかしくないだろう。それだけの力を、この言葉は秘めている。しかし相手は大賢者。こうでも言わなければ、引き下がってはくれないだろう。


「はあ……わかった。じゃあ言いたい事だけ言っとくぞ……………………ソウタ、魔法の発動の仕方が間違っとるぞ。わしが教えてやろうか?」

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