待つのじゃ!

「ああ、よく眠れた。」


 俺の隣のベッドでそう言ったのはダイチだ。起き上がって両手をピンピンに伸ばしている。


「俺はお前のいびきが五月蝿すぎて全然寝られなかったぞ。」


 昨夜はダイチのいびきが五月蝿すぎて、ほとんど眠れなかった。『水魔法』で防音をしようとしたが、寝ると制御不能になる事を恐れて、結局我慢するはめになった。


「えっ、マジ?」


「マジだ。」


「俺は覚えてないんだけど、ソウタが言うって事は、おそらく事実なんだろう。すまなかった。」


「許す。というか、もう過ぎたことだ。今日からは横向きかうつ伏せで寝ることだな。確かそんな体勢で寝たら、いびきをあまりかかなくなるらしい。」


「わかった。今日からそうしてみる。」


 俺は洗面台に向かう。昨日はほとんど眠れなかったから、ここで少しでもスッキリさせておかねば。


 いつもより二倍くらいの時間をかけて、洗顔兼目覚ましをすると、いつもの感触の主である、俺のニキビの突起がかなり小さくなっている事に気付いた。


 『水魔法』で鏡をつくって見てみると、顔のニキビがほとんど消えている。レベルアップか回復薬か調査か成長のせいかは知らないが、これはありがたい。


「なあソウタ。もうそろそろ変わってくれないか? 目やにを早く落としたいんだ。」


「ああ、すまんすまん。すぐ変わる。」


────

──宿屋のおばさんに鍵を返して、ギルドへ向かった。


「この二つの手紙を渡してきてくれ。絶対に忘れないでくれよ。往復約一ヶ月もかかるからな。」


「ああ、任せとけ。」


「本当に頼むぞ。……これから話すことは、早めに言っておくべきだったんだが、忘れていたから今言っておく。」


「何だ?」


「眼中に入った人に、片っ端から『鑑定』を使わないようにしろよ。一般庶民ならまあ大丈夫だろうが、これが王侯貴族になると話は別だ。そもそもばれるかわからないが、万が一ばれたら、下手したら犯罪、もしくは敵対行為ととられる可能性もあるから、注意しておけ。本当に今更ながら言っておいたぞ。」


「本当に今更だな。まあ、幸い王侯貴族には『鑑定』を使ってないから大丈夫だ。これからは気を付けるようにする。」


「頼むぞ。」


「そういえば、クラギス帝国の異世界人パーティーは、もう帰ってきたのか?」


「ああ。魔の森のクラギス帝国側には、ダンジョンは見つからなかったらしい。喜ばしい限りだ。」


「そうか。それはよかった。じゃあ、俺達はそろそろ行ってくる。」


「ああ、行ってこ『待つのじゃ!』


?????


 俺達が振り返ると、部屋の入り口にジグラさんがいた。


「誰だこの爺さん?」


「大賢者ジグラっていう人だ。レベルは俺とほとんど変わらんぞ。……それで、『なんで留置場にいないんだ?』という事は聞かないでおくから、『何しに来たんだ?』という問に答えてくれ。」


「……ワシも付いていくだけじゃぞ。」

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