下準備

「王立魔法学園? 何だそれは?」


「俺が名誉学園長を務めている、王都にある魔法学園の事だ。」


「魔法学園……なぁ。なんとなくどういう所かわかった。そこにダンジョンを引っ越す、という事か。だが、大丈夫なのか?」


「多分大丈夫だと思う。だって、ダンジョンはダイチがしっかり管理すれば、特に問題も起こさないだろう? それに、階層を幾つも造って、弱い魔物から強い魔物まで、それぞれの階に生成すれば、ダンジョン実習も出来るだろうしな。」


「でも、死人が出たらどうするんだ?」


「死を無かったことに出来る魔道具を持っている人を知っている。まあ、ダンジョン内の死を無かったことに出来るように、システムを変更出来ればいいんだがな。できるか?」


 ダイチは目を瞑った。


「ちょっと待てよ………………これかな?『ダンジョン内のみで外部者の死と部位欠損を無かった事にする』。必要なポイントは……意外と少ないな。20ポイントだ。」


 球の光は青い。


「その、ポイントはどうやったら入手出来るんだ?」


「レベルが五、上がれば20に届く。俺はレベルが上がり易くなるスキルを持っているから、割と早く終わると思うぞ。」


 思ったより簡単に出来そうだな。俺はガレアスさんの方に向き直った。


「さて、ガレアス。俺達二人はこのような案を提案するが、どうかな?」


 すると彼は目を閉じてしばらく唸った。


「いいだろう。それに決定する。だがレベル上げのために魔の森の魔物は狩るなよ。前にも言った通り、生態系に悪影響が出るからな。」


────

──「意外と早く終わったな。まだレベルを上げるか?」


 北の森にて、俺が水で縛った魔物達を、全てガレアスさんから借りた剣で殺して、五回目のレベルアップを遂げた彼に聞いた。


「ああ。これから先、ポイントがかなり必要になるだろうからな。ソウタがいるうちに、ある程度貯めておいた方が後々楽になる。」


「わかった。付き合ってやる。」


「ところでさ。ソウタのレベルって、どのくらいなんだ?」


 彼は近くの岩に腰掛けて、俺の方を向いて尋ねた。


「2600弱ってところだな。何でそんなことを聞くんだ?」


 彼は片手で目を覆って、


「だよなぁ。俺の持ってたポイントの九割を使って生成したレッドドラゴンを倒しちまうくらいだからなぁ。」


「相手が俺じゃなかったら、多分レッドドラゴンの方に軍配が上がってたぞ。」


「それ励ましてるのか?…………ソウタから見て俺のダンジョンって、攻略の難易度ってどれくらいだった?」


「何故そんなことを聞く?」


「俺がカスタマイズしたダンジョンが、レベル2600弱の人にどのくらい通用したのかなぁと思ってな。」


「うーん…………まず、罠の使い方はすごく上手かった。やられてから気付いたくらいだからな。その後のレッドドラゴンの所も、扉で退路を塞いだのは良かったと思う。最後のハッタリにも引っ掛かった。ただ、全てにおいて、俺から見たら威力、攻撃力が足りない。そう思った。まあ、宝箱の中身が雑巾だった事は、俺の心に大きなダメージを与えたがな。」


「そうかぁ。威力かぁ……あれ上げるのにはポイントがめちゃくちゃ要るんだよなぁ。あと雑巾の事はすまん。何か入れないと宝箱が設置できないらしくてさ、敵の心にダメージを与えて、コストが低い雑巾にしたんだ。」


「まあ、相手が俺でなかったら、十分だと思うぞ。雑巾の恨みはいつか晴らすから安心しろ。」


「それ、励ましてんのか?」


「もちろん。ほら、レベル上げするんだろ?早く終わらせるぞ。日が暮れてからじゃあ危ないからな。」

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