第11話 夜の対談
全ての亡骸を運び終えた後、クロックエンドがアインベルクに歩み寄った。
「それで、どうやって会話するの?僕が君たちの総本山へ行けばいいのかい?」
「いや、この投影機を使わせてもらう」
そう言ってアインベルクは持っていた何かを地面に置いた。科学派が作り上げた機械だろう。スイッチを押すと、その機械の上にシュタイナーが現れた。私も一度しか実際には会ったことはないが、この威圧感は間違いない。
「シュタイナー……!」
「落ち着いてテレサニア。映像だよ」
「その通り、これは映像だ。リアルタイムで繋がっているため、シュタイナー総帥とこれで会話ができる」
「君たちが作る機械は大したものだね。まるで魔法みたいだ」
「そんな邪なものと同じにするな」
「はいはい。それでシュタイナー、聞こえる?」
クロックエンドが声をかけると、映像のシュタイナーが頷いた。
『聞こえている、クロックエンド。協会へ与えた損害のことは聞いている。まずは我が部下たちの無礼をお詫びする。すまなかった』
「そう。君の安っぽい謝罪なんていらないよ。それで、話って何なの?」
『東の国での、私たちの科学兵器の話は聞いているな』
「聞いてるよー。大量殺戮兵器、毒まで詰みこんじゃって、しかも村人たちを使っての人体実験に証拠隠滅。君たちの方が化け物じゃん。何か反論ある?」
東の国で私がユーイを追っていた時に得た情報をクロックエンドに伝えたものだ。東の国で活動していたヒサカと、村人たちと接していたユーイから聞いた情報だ。さらに、私も村が襲撃されたのをこの目で目撃している。さらには科学派に雇われていた傭兵たちと戦闘も行った。
『ある』
シュタイナーが毅然と言い放つ。
「私の得た情報が間違っていると」
私が問うと、シュタイナーは首を振った。
『東の国で行った科学兵器の実験については事実だ、認めよう。しかしこれも、真に人々を幸福にするため。科学の発展に犠牲はつきものなのだ』
「ふーん。じゃあ何に対しての反論なの?」
『君たち協会も大量殺戮兵器を隠している』
「何を根拠に言っているのですか」
『こちらは事実を認めたというのに、そちらはとぼけるのか、テレサニア』
「事実ではないから認めていないのです」
「ちょっと待って、テレサニア」
「クロックエンド様?」
クロックエンドはしばらく黙り込み、やがて顔を上げた。
「シュタイナー、それはどこから得た情報なの?」
『それは言えん』
「だろうね」
「何の話をしているのですか」
「テレサニア。取り乱さずに落ち着いて僕とシュタイナーの話を聞いててくれる?僕たちの話が終わるまでは待機、いいね?」
「それは構わないのですが……」
分からない。協会において大量殺戮兵器など聞いたことがない。そんな物が協会に存在しているのならば、私が知らないはずがないのだ。
何かが頭の中で引っかかった。
以前、どこかで、そのような話を聞いたことがあるような気がする。
思い出せない。
「シュタイナー、それは確かな情報なんだね?」
『もちろんだ』
「なるほどね。それで君は、お互いに大量殺戮兵器を使わないよう協定を結ぼうって考えてるわけだ」
『そうだ。不毛な牽制をし合うのは私たちも本意ではないからな』
「悪いんだけどさ」
『協定は結べないと』
「違うんだよ。僕はその事実を把握していない」
『……それは真実か』
「所在地とかは想像がつくよ。北の国、ノースブリッジでしょ?」
「……!!」
北の国、ノースブリッジに大量殺戮兵器が存在する?そんな話、私は聞いたことがない。いやそんなことよりも北の国にはユーイがいる。ユーイを早く呼び戻さないと。今すぐに助けに行かなければならない。
「テレサニア、待機だよ」
「……」
私の頭の中を見透かしたかのようにクロックエンドが言った。何とかその場に踏みとどまる。
「多分、サラサだ。なるほどね、北の国で魔力を感知したのは、サラサによる魔法兵器の実験か何かかな」
『暴走か』
「うん。やられたね、もうちょっと彼女の動向に気を配っておくべきだった。けれど、僕が把握している限り、彼女一人ではそんな物作れるわけがないんだ。君たち科学派の中にも協力者がいるね」
『……成程な。嘘はないと見える』
「僕嘘はつかないって知ってるでしょ」
『そうだったな』
「ってことで僕から改めて協定を提案したい。それをのんでくれるなら、今日のことはなかったことにするよ。彼らには申し訳ないけれど、事が事だ」
『お互いの兵器を放棄する、か』
「話が早くて助かる。僕たちはノースブリッジにあるであろう魔法兵器を破壊する。破壊に成功したら、君たちも科学兵器を破壊する」
『こちらにも落ち度のある可能性があることだ。こちらとしても、その協定を結ばせてもらいたい』
「よし、協定成立だね。クロックエンドの名のもとに、ここに協定を結ぶ」
『シュタイナーの名のもとに協定を結ぼう』
差し出したクロックエンドの手から光が漏れ出る。あれは契約の光だ。遠く離れていたとしても、お互いで契約した事柄は、決して破ることはできない。
「じゃあこちらも早急に手を打つから、今日はこのへんで。アインベルクの教育はしっかりとしておいてね。次不祥事があったら問答無用で殺すよ」
『そちらも部下の管理くらいきちんとしてもらいたいものだな』
最後は罵り合ったところで映像が消えた。そこには機械だけが残っており、アインベルクがそれを回収する。
「……私たちはこれで失礼する」
アインベルクが身を翻すと、ゴールドもそれに続いた。
「次は負けん」
去り際に彼は静かにそう言った。
二人の姿が見えなくなると、クロックエンドが話しかけてきた。
「聞いたね」
「はい、今すぐユーイを呼び戻し、魔法兵器を破壊しに向かいます」
そうだ、今すぐユーイに連絡をとらなければならない。ユーイを協会に戻し、私がノースブリッジに向かう。マリアも北の国にいるはずだが、確実に任務を成し遂げるには単独での行動は危険だ。
「違うよ、テレサニア」
「……何が違うのですか」
嫌な予感がした。
「ユーイとマリアにやらせるんだ」
「な……!」
クロックエンドの言葉に私は言葉を失った。ユーイにやらせる?いったい何を言っているのかが理解できない。
「もう猶予はないはずだ。使われてからじゃ遅い。なら近くにいる魔法使いにやらせるしかない。当然の結論だと思うけど?」
「しかし……!」
「君の気持ちは聞いてないよ」
「クロックエンド様!」
「もしも協会が今回みたいに襲われたら、君はリンを見殺しにするの?」
そうじゃない。
「冷静になりなよ。ユーイだって魔法使いなんだ。子どもじゃないんだよ。君が親ってわけでもない」
「それは分かっています、しかし、私は彼女を守りたいのです」
ユーイとそう約束した。私が彼女を守ると。そして、マナとの約束もある。気持ちが頭の中でぐるぐると回っていた。
「テレサニアさ」
クロックエンドがため息をついた。
「もっと信用してあげなよ」
違う、ユーイは魔法使いだが、魔法を使えないのだ。だから、彼女を私たちと同義で考えるのは間違っている。ユーイには荷が重すぎる。
「彼女にはマナがついてるんだから平気だよ」
「……え?」
クロックエンドがにやりと笑った。
「僕はちゃんとユーイが魔法を使えないのを知ってるよ」
「知っていたのですか」
「もちろん。マナがサポートしていることもね」
ユーイと一緒にいる使い魔のオドのことだろう。しかし、その事実まで知っているとは思っていなかった。そう言えば、マナと話した時、クロックエンドは信用できると言っていた。
「大丈夫だよ」
マナの信じるクロックエンドがこう言っているのだ。もしかしたらユーイは大丈夫なのかもしれない。しかし、不安はぬぐい切れない。
「……彼女に何かあったら、私は……マナにも顔向けできません」
「過保護だね、君」
「何とでも言ってくださって結構です」
「分かった。何かあったらユーイは僕が何とかしてあげるよ」
「それはどういう……」
「マナができたことなら、多分僕にもできるさ。僕ってマナより長生きだからね」
そう言ってクロックエンドは私の背中を叩いた。
私は目を閉じて深呼吸を一度した。協会の長にここまで言わせてしまっては、副官失格だ。
「……いいえ、その時は私の命で補ってください」
「やだよ。そういう感動的なの君にはやらせてあげない。そうやって感謝されて死んでいくのも悪くなさそうだ」
「……残念ですが、ユーイは死にません」
「うん、そうだね」
「マリア卿とユーイに連絡をとり、任務を伝えます」
「頼むよ」
私は自分の執務室へを踵を返す。クロックエンドは夜空を見上げていた。
一刻も早くユーイと話をしたかった。
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