正義の推理

夕月奏

I話完結

正義の推理 2021 8 20


 「世界の平和を守るため~♪」

懐かしい。俺もよく特撮ヒーロー観てたな。

日曜の夕方五時放送の人気特撮ヒーローだ。展開なんていつも決まっている。謂わばお約束だ。

善良な市民を襲う怪獣やらバケモノをヒーローが倒す。ヒーローは市民から称賛され、明るいエンディングへ向かう。そんな痛快フィクションストーリーを発泡酒片手に見ていた。


 「今週も善良な市民を襲いに来たぜ。 ガハハハー」(雑だがこんな感じだ)

例に漏れずに今回も得体のしれないバケモノが現れた。

破壊されていく街、逃げ惑うだけの市民、それを嬉々として追い詰めていくバケモノ。


大抵の場合のバケモノ一派の目的は「地球征服」とかだろう。「地球征服とか掲げといて日本にしか来てねぇじゃねぇか」という捻くれは置いといて、つまりはバケモノ側にも「地球征服」という正義が確実に存在し、それを待ちわびているバケモノ社会も存在するわけだ。


「助けてー」とうとう追い詰められた市民。究極のピンチ。バケモノの右腕がか弱い少女に振り下ろされようとする。

「さて、そろそろ出番だぜ正義のヒーロー」



 「正義のヒーロー参上! バケモノめ、お前たちの思い道りにはさせないぞ」


もちろん人類にも譲れない正義はある。それは「地球防衛」でも「少女の救出」でもない。「悪の排除」だ。「悪は排除すべし」

全人類の望みはヒーローに託された。今週も世界を守ってくれ。



 彼らは躊躇なくバケモノに立ち向かっていく。何度倒されようとも、どんなに傷つこうとも。仲間のためなら、世界のためなら、そしてあの少女を救うために。



 クライマックスになりバケモノは劣勢に立たされる。

「バケモノめ、これで終わりだ」ヒーローの一撃がバケモノを捉えた。

「くっ……覚えていろよ。次は―    」


周囲からはバケモノの言葉をかき消すような歓声。ヒーローを崇める人々。

彼らヒーローの顔には満面の笑みが貼り付けられていた。



 俺は発泡酒を飲み干し喉を潤した。

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正義の推理 夕月奏 @yuzuki-sou

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