-45- 「好物」

 うちの近くの交差点で人が亡くなり、事故からしばらくの間、いつもお花と缶ビールが備えられていた。


 歩いていた男の人が、車にはねられて亡くなった事故らしいけれど、きっとビールが好きな人だったんだろう。


 その交差点はよく通る道だったけれど、そこで幽霊は見た事がなかったから、きっと化けて残らずに成仏したんだろうと思ってた。


 ある日通りかかると、お供えの缶ビールが倒れて転がっていたので、いつもの位置に戻してあげようと思って拾い上げた。


 すると、思ったより軽い。


 栓は開けられていないのに、軽く振ってみると、中身は半分も入っていない。


 成る程、確かに亡くなった人は、ビールが好物だったらしい。


 残らず成仏したと思っていたけれど、偶々出会わなかっただけで、どうやらしっかり化けて居残っている様だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る