-19- 「リュックサック」

 デパートの上りのエスカレーターに乗っていると、すぐ前のお客さんが背負っている、リュックサックのチャックがきちんと閉まっておらず、隙間が少し開いていた。


 何気なくその隙間を見ていると、暗くてすぐには気付かなかったけど、リュックの中からギョロリとした二つの目が、僕を見つめ返している事に気が付いた。


 あ、と思わず声が出て、リュックを背負っていた男の人が少しだけ振り向いて、ちらりと一瞬だけこちらを見たけれど、すぐに前に向き直った。


 リュックに視線を戻すと、今度は隙間から目ではなく口が見えて、指の様な物が一本、縦に口元に当てられていた。


 騒ぐな、と言う事だろうか。


 すぐに次の階に到着し、そのお客さんは降りて行った。

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