■ 表裏なき者(真田昌幸、宇喜多直家)

「表裏なき者」、字面だけ見ると表裏の無い良い人のように思えるかもしれない。

しかし戦国の時代、表裏無き者とは味方なのか敵なのか、良く分からない人物の

ことを言う。その代表格が真田昌幸であり、宇喜多直家である。

真田と言えば「幸村」、宇喜多と言えば「秀家」を思い浮かべる方も多いと思う。

しかしながら二人とも大名となった後に生を受けた者である。没落していた一族

を権謀術数を弄して大名にまでにのし上げたのは「真田昌幸」と「宇喜多直家」、

各々の父なのである。


真田は昔、信濃国の豪族・滋野三家(海野・祢津・望月)の支流として、小県郡

真田郷に興る。

天文十年(一五四一)、海野平の戦いで滋野一党は武田に滅ぼされた。真田幸綱

はその恨みを封印して武田信玄に仕え、数々の戦で武功を挙げて旧領を回復、

武田二十四将にも数えられるまでになる。

やがて武田氏が滅ぶと、真田の家督を継いでいた昌幸は徳川や上杉、北条などの

大大名に領地を挟まれる中、主家を転々と渡り歩きがら本拠・上田城の維持に努

めた。

慶長五年(一六〇〇)関ケ原の戦いでは、真田昌幸は徳川家臣・本多忠勝と姻戚

のある嫡男・信幸を東軍に残し、自らは大谷吉継と姻戚のある次男・信繁と共に

西軍に転進する。

「一族が袂を分かちて戦うことになろうとも、東西どちらが勝とうが真田家は

生き残る」

究極の選択、これが世に言う『犬伏の別れ』である。

東軍についた信幸は本領の信濃国小県郡、及び上野国沼田などの加増も合わせ

九万五千石を領して上田城に住した。

一方、その後の大坂の陣で豊臣方に参じた信繁(幸村)は、寡兵でありながらも

父譲りの智謀を以って家康を追い詰め、討死するも「日本一の兵」と名を残した。


宇喜多は昔、秀家の曽祖父そうそふ能家よしいえの時代、備前の守護代・浦上家の重臣として栄え

ていた。しかし浦上家の家督相続のあおりを受けて宇喜多家は滅ぼされ、当主と幼い

嫡男(後の宇喜多直家)は流浪るろうの身に転じることとなる。

成長した直家は恨みや恥を忍んで浦上家に仕え、数々の苦難屈辱を乗り越えて領主

の信頼を勝ち取り、やがてはその浦上を滅ぼして宇喜多家を再興に導いた。

その頃、織田信長が播磨に進出して毛利家と対峙していた。宇喜多の領地・備前は

後ろを毛利の領国と接していたため最前線で織田軍と戦うことになるが、信長を将来有望と認めた直家は裏で織田家との接点を探っていた。織田軍の先陣を担っていた

のが秀吉であり、秀吉と密かに通じた直家は期を見て織田方に寝返り、秀吉の窮地

を救うこととなる。

この後、本能寺の変が勃発、秀吉は天下人への道を歩み出す。秀吉と直家は気脈を

通じる間柄となるが、まもなく直家は他界してしまう。子の無かった秀吉は直家の

忘れ形見を引き取り愛情たっぷりに育てあげた、これが後に大老となる宇喜多秀家

であった。


では、真田も宇喜多も大国に挟まれながら何故に滅ぼされなかったのだろうか。

それは大国にとって併合するよりも、味方として、いや少なくとも敵にならない

限り存在している方が望ましかったからに他ならない。即ち、併合してしまえば

今度はその土地を守るため兵を割かなければならなくなり、敵の大国と直接対峙

することになるからである。

昌幸も直家もその当たりの事情を察して上手く立ち回った、それが「表裏無き者」

と称された所以であろう。


話は現代に飛ぶが、これは東アジアに位置する我が国や周辺国と通ずるものがあるようにも思えてならない。

欧米を中心とした世界地図を見てみよう。

我が国は西側諸国から遥か東の果て(極東)に、赤の国々の太平洋進出に蓋をする

ような形で位置している。周りを海に囲まれ、表裏無く動ける地勢にありながらも

旗印を青く鮮明にしている。

隣国も民主主義を掲げてはいるが、その国境は赤い国と接しており、青組(西側)

の一員でありながらも経済面では赤い国との結びつきが強い。我が国からすれば、

反日を繰り返す「表裏無き者」として敬遠されがちである。

しかし、もし隣国が赤く染まれば、海を挟んでではあるが我が国が赤の国々と直に

接することになる。これは厄介である。やはり隣国には大国間を上手く立ち回って

もらって、たとえグラデーションであっても存在してもらわねば困るのだ。

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