■ 「世襲議員」と 家督相続

政治の世界も老齢化が進み、「世襲議員」の是非が問われている。

何を譲るの? 選挙区? 自分の城や領地じゃあるまいし。

歴史小説を書いている私には、まるで戦国時代の家督相続のように聞こえてしまう。


歴史を遡ってみると、家督相続には紛争が付きものである。

■古いところでは、672年「壬申じんしんの乱」

天智天皇が崩御した後、弟の大海人皇子(天武天皇)と息子の大友皇子の間に起き

た天下を二分する戦いである。

天智天皇が病床に大海人皇子を呼び「お前に後を託す」と告げた。大海人はこれを

承諾すれば命が危ないと遺命を固辞して出家する。天智天皇を支えた中臣(鎌足)

ら近江の勢力が権力を保持すべく大友皇子を擁立していた。大海人は吉野に逃れ、

東国の勢力を結集してこれを討ち破った。

■平安時代には、1156年「保元の乱」

鳥羽法皇が崩御すると、中継ぎとして皇位に就いていた後白河天皇と、息子の重仁

親王を王位に就けて院政を敷きたい崇徳上皇が対立した。

これに加わって、藤原摂関家や源氏・平家も家中を二つに割っての激しい勢力争い

が繰り広げられる。結果、後白河を擁する信西、平清盛、源義朝サイドが勝利した。


戦国時代に入ると、家督争いは枚挙に暇が無い。

■1536年、今川家の「花蔵の乱」

早世した氏輝には子が無く、出家していた三人の弟の中から後嗣を決めることとな

った。

正室・寿桂尼所生の五男に対し、今川家重臣・福嶋氏が血筋である三男を推戴して

兵を挙げる。結果、太原雪斎や北条氏綱らの支援を受けた五男の承芳が勝利し、

還俗して今川義元となって家督を継いだ。

■1578年上杉家、謙信の突然の死による「御館の乱」

子の無い謙信は二人の養子を迎えていた。一人は姉の子である景勝、あと一人は北条家から質として送られていた景虎である。

前の関東管領・上杉憲政が景虎を「御館」に迎えて支持するも、直江兼続らが担ぐ

景勝方が勝利して景虎は討死してしまう。


では、何故に家督相続には紛争が付きものなのだろうか。

ある大名家に二人の男子がいたとしよう。当然のこと、二人には家臣が付けられる。やがて長男が家督を相続すると、次男の家臣たちは冷や飯を食わされることになる。即ち、家督相続は当事者のみならず、それを支える家臣団にとっても一生を左右する大きな問題なのだ。故に家臣たちは主君を押し立てて家督争いに突入するのである。


さて、世襲議員の話に戻ろう。

議員にはそれを支える後援会という組織がある。もし議員が死亡、或いは何らかの理由で辞職したとして、他の議員が自らの後援会を率いて当選しようものなら旧後援会の重職たちは飯の食い上げとなってしまう。そこで替わりの人材を探し出し、会の組織力で当選させ、その議員を思いのままに操って引き続き甘い汁を吸おうと企むのである。

私は政治評論家ではないので間違っていたら「ごめんなさい」。

以前に現職の総理が亡くなった時、当初は乗り気でなかった娘さんを後援会が無理やり引っ張り出したという記憶がある。弔い合戦とやらで当選すると後援会はやりたい放題、法に触れる問題まで起こして女性議員はしばらく表舞台から遠ざかることとなった。


当たり前のように親の地盤を引き継いで、後援会の傀儡となってもらっては困る。

世襲は感心しないが、しかし二世議員が悪いとは思わない。父親の背中を見て育ち、この国を如何に導くべきか真剣に考えている方もおられると思う。票集めに駆り出されたオニャンコ議員などより余程まともである。ならば親の地盤を引き継ぐのではなく、別の選挙区で他の候補者たちと正々堂々闘って議員になってもらいたい。


イギリスでは、子が親と同じ選挙区から出馬することはほとんど無いと聞いたことがある。さすが先進国だと感心する。残念ながら我が国は、経済は先進国(一流)だが政治は二流(後進国)なのだ。

日本でもこれらを参考にして選挙制度を改革して欲しいところだが、自分たちの不利になるようなことを議員がやるはずもないか。今こそマスコミは、特に隣国におもねる三流マスコミには、ただ政権の足を引っ張ることに終始するのではなく、将来を見据えた建設的な問題提起をして頂きたいものである。

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