彼女たちの想い~しい編~(ネタバレ、解釈違い注意)

 どうもこんにちは、くしやきです。

 この度はどろどろ百合シリーズに最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 せっかくどろどろを謳っているので、筆者の想定しているキャラクターたちの想いみたいなものを少しだけ書いてみようかなと思います。といってもこれは筆者の妄想ですので、解釈違いとかあると思います。もしかすると書いていた時の自分とさえ解釈違い起こしてるかもですので。

 なので、まあそういう考えもあるんだね、くらいに思っておいてください。そして興味ない人はブラウザバックです。


【しい】

 今作の主人公的存在です。

 サクノの幼馴染、コトリとは高校で出会い、ノゾミとは大学で出会いました。

 サクノの恋人であるノゾミから脅されて彼女を自分のベッドに受け入れている、という状況から物語は始まります。その脅しの内容は「拒否したらサクノの恋人を辞めてしまう」というもので、大切な人であるサクノの悲しむ顔を見たくなくてそれを受け入れたようです。サクノへの失恋により傷心した直後の彼女にとって、サクノが幸せであることは自分の失恋を受け入れるためにも必要なことでした。それが彼女の一つ目の過ちです。

 第一作『彼女の恋人はうちのベッドで寝てる』での彼女は、サクノを裏切りノゾミをベッドに上げている(この時点では肉体関係は一切ありませんでした)現状を憂いながらも打ち明けることができないで苦悩しています。この時点では失恋を乗り越えてサクノを大切に思っていましたが、関係がバレてしまったらそのサクノを失ってしまうだろうことを恐れていたのです。

 また同時に、彼女は関係を続けるうちにノゾミの本質のようなものを知るようになってきました。ノゾミが自分に向ける思いが悪意ではなく、むしろ好意でさえあると彼女は薄々と察しています。ノゾミの精神的歪みによって歪な関係になってしまったものの、彼女へと向ける嫌悪感は次第に薄れていました。それどころか彼女からの純真な思いを、心のどこかで愛おしいとさえ思っていました。それは、ともすればその関係よりも隠すべきことでした。彼女自身もそれを認めてはいけないと思っていましたが、思考の端々にそれは滲んでいます。

 しかしそんな折に、彼女はある声を延々と聞かされました。

 自分の最愛と、愛おしいと思いつつある人の声。

 それは彼女の心にヒビを入れるには十分なものでした。今の関係が延々と続いたところで、彼女は最後にはすべてを失うだけなのだと知りました。それでも彼女は、愛するふたりを失わない方法を、現状維持以外に知らなかったのだと思います。

 一作目のラスト時点で、彼女はノゾミと肉体関係を持っています。それはノゾミへの愛を否定するのをやめた結果でした。恋愛感情ではなく、これまでただ流されるだけだった彼女が、すべてを失う前になにかを得たいと、少しだけでも能動的にもがく行為なのだと筆者は解釈しています。

 続く第二作『親友を脅して好きにしようと思う』での彼女は、コトリの視点から傷つき疲れ果てた彼女を見ています。冒頭の彼女は、サクノを裏切り続けることにも、ノゾミの想いを弄ぶような形になっていることにも、もう疲れ果てていました。だから親友であるコトリに全てが露見したとき、ようやくすべてを終えることができるのだとホッとしました。

 しかしコトリは彼女を押し倒し、弱みを貪るように彼女を抱きました。

 彼女はコトリに失望しました。同時に自分から終わらせる選択を取ることのできない自分を嫌悪しました。

 彼女は、コトリが自分をただの親友と見ていないことを知っていました。それを知らないふりをした結果こうなったのだという諦めが彼女にはありました。だから彼女はあっさりとコトリを受け入れたのです。

 そんな彼女の中で、サクノはやはり特別に大切な存在です。コトリという親友を失ったことで、その特別さはさらに増していきます。そんなサクノに自分がコトリと付き合っていると告げることは、自分の汚れを晒すようで認められません。また無意識に、自分がサクノ以外を恋人に選んだと思われたくないという気持ちもあったのかもしれません。だからコトリに再度脅されたとき、彼女は恐怖に震えながら屈しました。彼女はきっとまだ、サクノをただ親友として見ることは完全にはできていませんでした。

 コトリとの関係を続ける彼女は、ある日、コトリの何気ない言葉を聞きました。ノゾミの独占欲を嘲笑う言葉です。その時まで自分の身体を強引に貪る嫌悪すべき対象とさえ思っていたコトリが、唐突に親友だった頃の面影を取り戻します。そして彼女は、コトリが彼女を脅して抱いてしまったことを悔いているのだと知りました。コトリは親友である彼女をすでに失っていました。それは同時にコトリが欲しかったものをとうに失ってしまっていることを示しています。それでもコトリが自分を抱くのは、それしかコトリには残されていないからなのだと知りました。

 彼女はその瞬間、コトリとの立場が逆転していたことを知りました。脅される側だった彼女は、いつしかコトリに縋られていました。それはとても滑稽な姿でした。精神の疲弊していた彼女の胸中に、どろどろとしたものが沸き上がります。自分を好きにしていた相手を、逆に支配してしまうことができる。そんな思いが、彼女の口から漏れだしました。

 第三作『好きな人の好きな人をとってみた』では、ノゾミという純真な少女の想い人として彼女は描かれます。精神的疲弊と自分の中から溢れだしたどろどろとしたもののせいで、彼女は追い詰められていました。だから無邪気に縋り付くノゾミを冷たく突き放します。しかしそれは、自分に好意を向けるノゾミを、今の自分から遠ざけるような目的もあったのかもしれません。彼女は、いつからか好意を得られないことを苦痛に思い始めていたノゾミに気が付いていました。ノゾミがずっと、まるで彼女の想いなどどうでもいいというスタンスでい続けてくれたのなら、自分勝手にノゾミに触れても彼女の胸が痛むことはありませんでした。

 そんな折、しばらくノゾミが家を訪れなくなりました。そして久々に訪れたノゾミは、目元にひどい隈があって、あまりにもやつれています。ノゾミは、彼女と眠るために眠気を蓄えてきたのだと自慢げに言います。あまりにも痛々しいノゾミの姿に、彼女はノゾミと向き合ってこなかった自分を責めました。そして彼女と向き合うことを決めます。それは同時に、サクノへと裏切りを暴露するという決意でもありました。ノゾミの言葉を愛と曲解することでそのきっかけとした彼女は、ノゾミの肩に一目見れば分かるような歯形を付けました。

 第四作『親友と恋人がセックスしてるのをわたしだけが知らない』では、最愛の人であるサクノの最も大切な親友として描かれます。

 彼女はサクノに呼び出され、すべてを打ち明けるつもりで彼女の部屋を訪れます。

 しかし予想に反してサクノは彼女の裏切りに気が付いている様子はなく、流されるうちに彼女に真実を告げる機会を逸してしまいます。焦燥する彼女を、サクノは弱音を吐いてもいいのだと優しく諭します。これまで誰にも打ち明けられないままにひとりで思い悩んでいた彼女です。不意に訪れたその優しさに、ダメだと分かっていても甘えてしまいました。そして彼女はその後も、どうしても言い出せないで、サクノの優しさにずるずると甘え続けてしまいます。この時点で、サクノの部屋は彼女にとって唯一安らげる場所になっていました。焦燥だけが募っていきます。

 ある日サクノの望みで、コトリを交え三人でお泊り会をします。彼女はなりふり構わず、およそ最低の方法でもってサクノに全てをばらしてしまおうとコトリを利用します。それでもサクノは、気が付くことはありませんでした。

 そういった失敗を重ねていく彼女に、不意に強い決意が芽生えました。焦燥と苦悩の果てに、すべてを吹っ切って到達した決意でした。彼女はすぐにサクノの元へと向かい、すべてを打ち明けようとします。しかしその出鼻をくじかれ、勢いを失ったところに、サクノから親友という言葉が飛び出します。吹っ切ったはずの、親友を今まで裏切り続けてきたのだという後悔が、自分が今から親友を失うのだという実感といっしょになって彼女にまとわりつきました。

 決意は簡単にへし折れました。

 なにも言えない彼女を、サクノは優しく慰めます。それはどこまでも心地のいいことでした。そしてサクノの優しい言葉に、胸の内に抑え込んでいた苦痛が弾けます。それを見たサクノは、もっと強い慰めを与えてくれようとその身を晒しました。

 それを受け入れてはいけないと彼女は確信しています。それはひどい裏切りです。それなのに、彼女の身体は、夢に見ることさえ畏れ多いはずのサクノの身体に、ひどく惹かれていました。あらゆる感情がごちゃまぜになってまともな思考さえできない彼女にも、サクノに受け止めてもらうことがとても心地よいことだというのは分かっていました。

 彼女は、また過ちを犯しました。

 第五作目『彼女が腕の中井にいる間だけ息ができる』では、改めて彼女の視点で物語が終わっていきます。

 サクノを抱いた彼女は、驚くほどに身軽でした。思い悩んでいたことが嘘のように思えます。彼女はサクノの部屋を後にして、すべてを打ち明けようと自然に思いました。しかし外に出たとたん、彼女はまた苦痛に苛まれました。サクノの傍はあまりにも心地よくて、それを失ってしまうという実感があまりにも重くのしかかります。失いたくないと、彼女は思ってしまいました。

 そのための言い訳に使えそうな人間が、玄関で待っていました。

 彼女はコトリに抱かれることで新しい苦痛を得ました。

 その後思い悩むことで精神を疲弊させていきます。

 そこへノゾミがやってきます。

 ノゾミを抱くことで、背徳と裏切りを重ねました。

 彼女は、今自分がどんなおぞましいことをしようとしているのかを理解していました。そのことが彼女の歪みを加速させていきます。もはやまともな理性さえ残らないほどの苦痛に苛まれた彼女は、サクノの部屋へと慰めてもらいに行きました。それは言い訳でした。自分が触れられないはずだったサクノと愛し合う感覚を一度知ってしまった彼女は、それをもう一度味わいたかっただけでした。

 後に残るのは後悔だけです。

 自責の念に押しつぶされそうになりながらも、すべてを吐き出してまともな理性を獲得した彼女は、これ以上続けてはいけないとそう思いました。だから今度こそサクノに全てを打ち明けようとします。

 しかしそれは止められ、逆にサクノから全てを知っていることを伝えられました。自分の信じていた世界が瓦解してしまうような衝撃と奇妙な納得感、そして親友を失うという恐怖が彼女に押し寄せます。そこへ、サクノ自身から、見ないふりをする提案がされました。

 ようやく彼女は、自分の最も大切な存在であるサクノのこれまでが、全て虚像だったことを知りました。それは彼女の精神を柔らかく圧潰しました。

 彼女は、サクノが見ないふりをすることを受け入れました。そうすることで、自分もまたサクノの虚像を見ないふりできるからです。それは、これまでの自分を踏みにじるような選択でした。これまでの全てが馬鹿らしくなって、彼女は嗤いました。

 そうして気が付けば彼女の傍にはサクノだけになっていました。それは彼女にとって一種の幸福でした。これまでいくつもの苦悩を重ねてきた彼女にとって、ただサクノを愛するだけでいいその状況は至福でした。

 しかし彼女は、サクノと違って、その嘘を信じ続けるのは難しい人間です。そんな白々しさがあればそこまで思い悩んではいません。だからその嘘を信じ続けるためには、サクノからの言葉が必要です。嘘を信じれなくなった瞬間に、彼女は全てを失います。だから彼女はサクノとともにあるそのときだけは安心できます。なぜなら、疑う必要がないからです。それが、彼女が腕の中にいる間だけ生きていられることに繋がります。

 けれどそうしていても、やはり彼女の中には不安と苦悩が秘められています。声なきそれらは、彼女が耳を塞ぎ目を閉じることも捉えます。最後の言葉は、全ての終わりを告げるものです。白に浸る彼女は、それに気が付くことなく、一切の抵抗なく、終わるでしょう。


 なげえ(持ちネタ)


 思いの外長くなったので分割します。

 ちょこちょこ書いていくので、興味があったら読んでください。

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