お嬢様の日

バブみ道日丿宮組

お題:犯人は小説修行 制限時間:15分

お嬢様の日

 夢というのは、起こったことを整理する脳の機能という話だ。

 だが、体験したことのないようなことを見るのはなぜだろうか。

 例えば、空を飛んだり、あるいは人を殺したり、殺されたり。

 とてもじゃないが、現実じゃない。

 だからこそ夢と呼ぶのだろうけど、納得がいかない。

 今日は、可愛らしい少年と街をぶらぶらする夢だった。

 可愛らしいというのは、そうと認識してるだけであって、実際の顔は覚えてないが……。

 自分よりはるかに身長が低くて、童顔。それぐらいは覚えてるが、それだけの情報量しか残ってない。

 残念だ。残念でならない。

 そんな素敵な男の子がいたのなら、私の人生は薔薇色といえただろう。

 なぜベッドの隣にいないのか。怒りさえ覚える。

「……はぁ」

 現実は憂鬱さでいっぱいだ。

 毎日学校に行かなきゃいけないし、毎日嫌な親の顔をたてなきゃいけない。

 どうして、こんな窮屈な家に生まれてきてしまったのだろうか。

 なんで、自由にできることがないのだろうか。

「お嬢様、朝食の準備が整いました」

 部屋に設置されてるスピーカーから声が出て、

「……ありがとう」

 私はつぶやきを返す。

 文句をいったところで現実は変わらない。変わらないのなら、変えてしまえばいい。それが人間にはできるはずなのだ。

「……ん」

 起き上がり、テーブルの上に乗ってた雑誌を手に取る。

 そこには幼馴染の笑った顔が表紙を飾ってる。

 彼女は子どものときにオーディションに出て、アイドルになった。

 本当は私も受けるつもりだったのに、親に止められ、こっそり出したものは執事が回収した。

「……あなたは自由になれたの?」

 たまに連絡を取り合ってはいるものの、彼女が今何を思ってるのかはわからない。


 辛い、楽しい、嫌、好き、かっこいい、可愛い。


 いろんな色が彼女のメッセージには籠もってる。

 私が返せるのは常に同じ色。


 つまらないーーただそれだけ。


 着替えを終えると、リビングに向かった。

 そこでは執事たちが、私の到着を待ってたかのように頭を下げてた。

 ……なれないなぁ。 

 お嬢様だなんて、ほんと嫌。

 自由がほしい。

「今日の夜はお食事会があります」

 執事の一人がスケジュールを告げる。

「……わかった」

 私はただそれに同意するだけ。拒否権はない。

 お人形ーー私はまさにそんな人間なのだ。


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お嬢様の日 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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