「最後の一人の地球人」part7
「緊張するかね」
『ふふ』と神様はどこか楽しげだが、俺は真逆だ。この地球では人類初の未知との遭遇、ファーストコンタクト、緊張して当然だろう。
「安心しなさい。一緒に過ごしやすいように、君に比較的近い外見の種族の者に声をかけて来てもらうことになった。意思を持って歩き回る木や、日光を浴びたら石になってしまうトロルなんかじゃ仲良くやっていくのは無理だと思い避けたのでな。彼女たちは皆事情を知っている。友好的に接してくれるはずじゃ」
『彼女たち』ということは女性?出てきた言葉を確認する間もなく、老人が気合のこもった声を張り上げ両手を天に掲げた。その様はまさにエジプトを後にするモーセのようだ。そう考えたらこの爺さんもチャールトン・ヘストンに見えて……いや、ぜんぜん似てないな。
と、次の瞬間、目の前の空間に雷が落ちた。
「うわ!」
視界を真っ白に染める閃光、そして耳をつんざく轟音に思わず悲鳴を上げ、目を逸らしてしまった。どうにか雷の落ちた地点に視線を送るが、もうもうと煙が立ち込め何も見えない。いつの間にか空は黒い雲に覆われている。
「うえっほげほげほ!げほっげほ!はあはあ」
神様が自分の雷で巻き起こした煙に苦しんでいる。やはり老人だから気管が弱いらしいが、この神様大丈夫か?俺自身は神様の咳き込む声を聞くことで、先程の雷鳴でも鼓膜が破れていなかったことに安心したのだが。このままじゃ俺が死ななくても神様が先に限界を迎えるのではないかと背中をさすりながら心配になった。
「すまんな、はぁ、はぁ、思いの外煙が濃くての。それと、あまり不吉なことを考えるんじゃない。おお、諸君、よくぞ来た!」
気づけば煙もだいぶ晴れて、雷が落ちた地点に立つ人々がはっきりと見えるまでになっていた。そこには先刻の話通り、三人の異世界人が立っていた。背の高い女性、背の低い女の子、その中間ぐらいの背丈の少女。
「ここが異世界……。こちらの建物は神様の居城でしょうか」
「地面が硬いな。これはなにか鉱物で土を覆っているのだろうか。見渡す限りの広範囲を。実に興味深い」
「ここらへんは建物があんまりないね。木がいっぱい生えてる」
皆思い思いの感想を口にしながらキョロキョロと周囲を見渡している。そうか、彼女たちにとってはこの世界こそ異世界なんだ。
丁寧体で話すのは一番背の高い女性。すごい長身だ。180?いや190くらい?輝くブロンドの髪は腰まで伸び、陶器のように滑らかな肌は真珠のように白く美しい。ひと目見ただけで上物とわかるドレスも相まって、異世界から女神様が来てしまったのかと錯覚させる。それでいて黄金の髪が顔の右半分を隠しミステリアスな雰囲気を醸し出している。
ただし、神々しさには不釣り合いな弓を握りしめているが。
冷静に地面を見て分析するのは一番背の低い少女。話しぶりは落ち着いているが、見た目は小学生にしか見えない。身長は150、いや、140センチもないのではなかろうか。栗色の髪を長い一本の三編みにしていて愛らしい顔立ちや身長も相まって、まるで人形のようだ。だが着ているものは革でできた無骨なジャケット、同じく無骨な篭手に包まれた手には、なんともアンバランスな大きな斧を持っている。
ニコニコして元気な女の子は、他の二人の中間ぐらいの身長だろうか。他の二人は身長や髪色など外見が極端すぎて何がなんだかだが、この黒髪の少女がいちばん身近な姿に感じて安心する。俺と同じ人間なのだろうか?エメラルドのような美しい
神様同様に長い杖を携え、黒いショートボブの髪に、寒空のもとでノースリーブへそ出しの黒いトップスにホットパンツ姿。ずいぶん寒そうな服装だが、上下共に服の側面は生地がなく、前面と後面を紐で結んだ強烈なファッションだった。原宿で流行っている感じの服だろうか。わからん。行ったことないし、田舎者だし。わからないものはとりあえず原宿。
三者三様、それぞれなんとも独特な姿をしているが、とりあえずヒト型でよかった。そして全員驚くほどの美人。緊張する。
「彼女たち三人が君の生活をサポートする仲間、いわば新たな家族だ。そう思うのはなかなか時間がかかるかもしれんがな。諸君、彼が馳透君。これから君たちと共にこの世界で暮らす、最後の地球人だ」
・・・・・・・・・・・・
元ネタ集
・「意思を持って歩き回る木や、日光を浴びたら石になってしまうトロル」
木は『指輪物語』のエント属、トロルは『ホビット』序盤の強敵です。
・「エジプトを後にするモーセのようだ」「チャールトン・ヘストン」
チャールトン・ヘストン主演映画『十戒』1956年より。上映時間はなんと232分!
なお、禿頭の神様とヘストンは似ても似つかないです。
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