第12話

 結局パパとママには秘密の関係のまま、季節はあっという間に過ぎていった。

 ちょくちょく夜まで外出している事や、たまの外泊にパパはいい顔はしなかったけど、

「今が一番楽しい時期じゃない。あなたもそうだったでしょう?」

 ママにそう言われ、しぶしぶながら許してくれていた。

 もちろん相手がかずきだという事は知らなかったし、全く予想もしていないだろうけれど。

 はるおみと会った事はかずきには言っていなかったが、なぜかあの日以来かずきの態度が微妙に変化していた。

 何だか上の空で遠くを見つめていたり、私を見つめていたり。

 物思いにふけっていると思ったら急に私をぎゅっと抱きしめて、別れ際になかなか帰してくれなくなったりしていた。


「今日は泊まっていかないの?」

 かずきがベッドで甘える様に言うのがかわいくて、ついほだされそうになる。

「だって、昨日泊まっちゃったから帰らないと。」

「僕はいつだっていいんだよ。」

「前はダメだったじゃない。」

「状況が変わったんだ。もうずっと一緒にいたい。」

 そう言うと、私にくっつこうとする。

「私だってずっと一緒にいたいけど、とにかく今日はダメなの。まだ課題が残ってるし、あんまり誘惑しないで。」

 子供に言い聞かせるようにかずきに言った。

「…大学は楽しい?」

「楽しいよ。かずき君も楽しかったでしょう。」

「そうだね、よく学び、よく遊んだなあ。」

「…女の人と?」

「それは言えないな。」

 意味深な言い方をされ少しムッとした私を見て、かずきは嬉しそうににっこりと微笑む。

「昔の事だよ。今はまゆだけだから。」

「私は昔からかずき君だけなのに、何かずるい。」

 私の言葉を聞いてかずきはなぜか安心した表情になり、私を背後から引き寄せ抱きしめる。

「まゆはずっと僕だけ見てて。僕から離れて行かないで。」

「私が離れるわけないでしょう。かずきくんの方こそ。」

「僕はもう、まゆのいない世界なんて考えられないよ。」

 こんな、耳がくすぐったくなるような甘い言葉も最近やたらと増えてきた気がする。

「…まゆ、誓いを覚えてる?」

「誓い?」

「永遠の愛ってやつ。」

「もちろん、忘れる訳ないじゃない。」

「何度でも誓うよ。まゆの事が本当に好きだよ。」

「私も大好き。かずき君だけよ。」

「旅行楽しみにしてる。」

「私もすっごく楽しみにしてる。だから今日は帰るね。送ってくれる?」

 かずきはちょっとふてくされながら、しぶしぶといった感じで送ってくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る