第四話 お仕置き

 『更生丸』が港を出てから1時間が経つ。

 デッキでコーヒーを飲んでいる新士の横顔を、朝陽が照らしている。


 新士は喜朗おじさんからのメールを読み返していた。

 『やったな。これで父さんと母さんも浮かばれるよ。こっちは少し面倒なことになりそうだ。俺は乗船しないから、定刻前に出航してくれ。小塚には、俺の分もキツい一撃を頼む。』


 喜朗おじさんは姿を現わさなかった。

 船長にも連絡があったらしく、船は新士の乗ったバンを載せるとすぐに出航した。

 まだ夜が明ける前だった。


 青いツナギを来た男が、「新士さん、あいつが目を覚ましましたよ。」と伝えに来てくれた。

 新士が「ありがとうございます。」と言うと、青いツナギの男は心配そうに「大丈夫ですか?」と聞いた。

 「大丈夫です。訓練してますから。」と新士は答えた。


 更生丸は本土と離島を点々として、車両や家電製品、小型の重機などを運搬しているが、この日乗船しているのは、ニコニコ清掃のバンが一台だけで、四方を頑丈な壁で囲まれた船内駐車場は閑散としている。

 小塚はその中央に、目と口に粘着テープを貼られた状態で、鉄製の椅子に全裸で手足を縛り付けられていた。


 新士が小塚の目に貼ってあった粘着テープを剥がすと、小塚はまぶしそうに目を開けて新士を見た。

 口に粘着テープを貼っているので何を言っているのかは聞き取れないが、口調と剣幕から「誰だお前!ただで済むと思うなよ!ぶっ殺してやる!」と叫んでいるようだ。


 新士は壁際からパイプ椅子を持ってくると小塚の前に座り、小塚が喋らなくなるのを待った。

 10分ほどして小塚の口調が弱くなり、「何か喋れよ・・・。」と言っているようなので、新士は静かに言った。

 「聞きたいことは色々あるだろうが、質問には一切答えない。こちらが聞くことだけに答えろ。それ以外の事を喋ったらお仕置きだ。」と言って新士はスタンガンを見せた。

 「分かったら首を縦に振れ。」と新士が言うと、小塚はしぶしぶ頷いた。

 

 新士が口の粘着テープを剥がすと、「ガキが何様のつもりだ!俺が誰だか分かってんのか!絶対ぶっ殺してやるからな!」と叫んで唾を吐き掛けて来た。

 ほぼ予想通りの反応だったので、計画通り太ももにスタンガンを押し当てて5秒間ほど電流を流してやると、体を仰け反らせて硬直したあと、脱力して大人しくなった。

 「唾は想定外だったな。次からは唾も飛ばすなって言おう。」と新士は呟きながら、さっき剥がした粘着テープを口に貼りなおすと、パイプ椅子に座って小塚の意識が戻るのを待った。


 小塚は目を覚ますと、最初と同じように粘着テープの中で何かを叫びはじめた。

 口調からは「クソーッ!」と「殺す!」を連発しているようだった。

 しばらく待ってまた口調が弱まってきたころで、新士はゆっくりと言った。

 「もう言葉で答えなくていい。今から二択を出す。Aなら頷け。Bなら頷くな。いいな?二択は好きだろ?」


 小塚は何も答えないという態度で横を向いた。

 新士は構わず、「A、水をかける。B、電流を流す。」と出題した。

 小塚は無視を決め込んで横を向いたままだった。

 ちょっと待ってから、「頷かないってことは、Bだな。」と新士は言って、スタンガンを持って立ち上がった。

 横目でスタンガンを確認した小塚は、慌てて何やら叫び始めた。

 「やめろ!Aだ!Aにする!」と言っているようにも思えたが、最初に決めたルールは頷くか、頷かないかだ。

 判定を覆すことなく、新士は小塚の太ももに電流を5秒間流した。

 小塚は仰け反って硬直、その後脱力して沈黙した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る